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2013年04月22日

博士課程へ

この春から、大学院の博士課程の学生になりました。修士課程までとは別の大学に通っています。昨年度は、大学院生として学会で発表して、非常勤講師として高校で授業をして、その上で受験生として博士課程の受験だったので、なかなか大変だったなあと思います。

博士課程は、二つの大学に出願しました。二つとも落ちる事態も一応想定していたので、無事に試験に合格し、博士課程に進むことができて、本当によかったです。試験だからといって焦ったりピリピリしたりするのは苦手なので(意識しすぎるとかえって力が発揮できない状態になる)、なるべくいつも通りの自分でいようと思ったし、「きっとなんとかなる」と思うようにしながら過ごしていました。周囲の人には「心配してなかったよ」とか「余裕そうだったね」と言われることもありましたが、合格の発表を見た翌日あたりに肌の調子がすごくよくなっていたので(笑)、思っていたより精神的に抱えるものがあったんだなあと、自分でも後から気づきました。とにかく所属が決まってホッとしています。

授業のスタイルや研究室の雰囲気はけっこう違うし、施設の使い方など覚えることも多いのですが、徐々に慣れていければいいなと思います。とりあえず、バタバタした生活が続きそうですが、がんばります。
ラベル:日記
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2013年03月26日

認知言語学キーワード紹介(2):カテゴリーとプロトタイプ

動詞runの意味を聞かれたら、何と答えるだろうか?多くの人が最初に思い浮かべるrunのイメージは「走る」、つまり「足を交互に素早く動かして移動する」ことだろう。『ジーニアス英和辞典 第4版』を見てみると(1)のような例はもちろん挙がっているが、(2)や(3)も見つかる。(2)のrunは「乗り物の移動」、(3)は「液体の移動」を表している。

(1) She ran for 20 miles.(彼女は20マイル走った。)
(2) I saw a car run through a red light.(車が赤信号を無視して走るのを見た。)
(3) The river runs into the Pacific Ocean.(その川は太平洋に注いでいる。)

このような例まで含めて考えると、runの意味を単なる「2本足による素早い移動」とは言いづらくなる。これは、runの意味カテゴリーをどのように記述するかという問題である。人間は、知識を単にばらばらに蓄えているわけではなく、何らかのグループにまとめている。そのグループが「カテゴリー」(category)である。

カテゴリーについては古くから研究されてきたが、次のような考え方が主流であった。つまり、あるカテゴリーに属する成員はすべてある属性を共有しており、カテゴリーの成員間には優劣はない、というものである。このようなカテゴリー観に従って、さきほどのrunについて考えてみよう。runの意味カテゴリーに含まれる成員はすべて「高速の移動」という属性をもっていると考えれば、(1)-(3)のすべての用法を偏りなく扱うことができる。しかし、runの意味を「高速の移動」とだけ提示してしまうと、今度は直感的なrunのイメージとはだいぶ離れてしまうだろう。

認知言語学では、カテゴリーをもっと柔軟なものであると考えている。あるカテゴリーの成員がどれも同じだけの資格をもっているわけではなく、もっともそれらしい、中心的な成員から、あまりそれらしくない、周辺的な成員があるとするカテゴリー観を採用するのだ。中心的、代表的な成員のことを「プロトタイプ」(prototype)と呼ぶ。カテゴリーがそのように構造化されていると想定すると、runの意味に抽象的な「高速の移動」というものがあることを認めつつも、そのカテゴリーにはプロトタイプ「2本足を使ったすばやい移動」を中心に、周辺的な成員「乗り物の高速移動」「液体の高速移動」までの段階性があることを捉えることができる。


今回挙げたrunについては、早瀬尚子・堀田優子著『認知文法の新展開:カテゴリー化と用法基盤モデル』のpp. 36-39を参考にしています。ここでは、さらに「立候補する」という意味の位置づけなども言及されているので、興味をもたれた方はぜひご覧ください。
認知文法の新展開 (英語学モノグラフシリーズ (19)) [単行本(ソフトカバー)] / 早瀬 尚子, 堀田 優子 (著); 研究社 (刊)

認知文法の新展開 (英語学モノグラフシリーズ (19))
早瀬尚子・堀田優子
研究社


上記の本はすでにある程度言語学を勉強した人向けに書かれています。もっと入門的な本としては、吉村公宏著『はじめての認知言語学』がおすすめ。カテゴリー化を中心とした認知言語学の姿勢をつかむのに最適です。
はじめての認知言語学 [単行本] / 吉村 公宏 (著); 研究社 (刊)
はじめての認知言語学
吉村公宏
研究社


関連記事:
認知言語学キーワード紹介(1):捉え方
認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
認知言語学キーワード紹介(4):ゲシュタルトと構文
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2013年03月13日

認知言語学における「捉え方」:言語学を学ぶきっかけ

前回は、認知言語学のキーワードとして「捉え方」を紹介しました。
認知言語学キーワード紹介(1):捉え方

実は、この「捉え方」というキーワードは、ぼくが言語学を学ぶきっかけにもなったものです。中学や高校で英語を学んでみると、似たようなことを表すのに複数の表現があることがわかり、それらがどう使い分けられているのかなあと気になっていたのです。英語の先生に聞いてみたり、辞書に似ている表現の意味の違いが説明されているとメモしてみたり。

その後、大学に行って、言語学の中でも認知言語学と呼ばれる分野では「捉え方」を重視しているのを知りました。一見同じように見える表現でも、言い方が異なるならばそれは「捉え方」の違いを反映しているのであり、意味にも違いがある。認知言語学の本にそう書かれているのを見て、わくわくしました。そして、もっとそういうことが知りたいなと思い、言語学で卒論を書くことを決め、大学院にも進学することにしました。

「捉え方」は、自分にとって思い入れのある用語だったので、それを紹介した記事にフェイスブックの「いいね」がつくことは、すごくうれしかったです。なお、「捉え方」については、以下の記事でも言及しているので、もしよかったらこちらもご覧ください。

I am making slow progress. ― ことばがつくる現実
「上り坂」と「下り坂」
posted by ダイスケ at 23:26| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月02日

認知言語学キーワード紹介(1):捉え方

以前、学部の授業のアシスタントをしていたのですが、そこで認知言語学という分野を学部生に紹介する機会をいただきました。そのときに使った配布物を見てみたいと言ってくださる方もいたので、もしかしたら他にも誰かの役に立つかもしれないと思い、手直しして公開してみることにしました。授業に出た人が、「認知言語学をもっと知りたい」「認知言語学の本を実際に手に取ってみようかな」と思ってもらうことを目的に作ったものなので、あまり一方的に説明しすぎないようにしています。そのため、物足りないという方もいるかもしれませんが、それについてはご了承ください。

では、まずは認知言語学のキーワードを文献とともに紹介してみようと思います。

*****


「東京には坂が多いけど、上り坂と下り坂はどちらが多いでしょう?」というのは、答えることのできない質問である。なぜなら、同じ「坂」でも下からみれば「上り坂」に、上からみれば「下り坂」になるからである。

このことからわかるように、ことばの意味には、何を指すかだけでなく、それをどのような立場から捉えているか、つまり「捉え方」(construal)まで含まれている。

これは、言い換えてみれば、たとえ同じ物や状況でも捉え方が異なれば選択される表現が異なることを意味する。英語には、「地球」を表す語にthe earth、Earth、globeなどがある。これらの語は、地球をどのように捉えるかの違いを反映している。では、次の(1)-(3)の場合、どれを用いるのが適切だろうか。

(1) 数百年前は地球が丸いという考えを多くの人があざ笑った。
Hundreds of years ago, many people scoffed at the notion that (     ) was round.

(2) アメリカ合衆国とヨーロッパかまたは地球の他の場所の間を日中に飛行機で移動すると疲労するが、その原因はまだ臨床学的に十分解明されていない。
A day time flight between the United States and Europe or any other part of (     ) is fatigue-making in a clinical way we still don’t fully grasp.

(3) 地球と異なり、木星にはその表面を分割する特徴がない。
Unlike (     ), Jupiter has no features to break up its surface.


(1)-(3)の例は、高橋英光著『言葉のしくみ: 認知言語学のはなし』という本の63ページから取っています。文献情報のあとに、答えだけ載せておきますので、the earth、Earth、globeが地球をどのように捉えた表現なのか気になった方は、ぜひこの本を見てみてください。

言葉のしくみ―認知言語学のはなし (北大文学研究科ライブラリ) (北大文学研究科ライブラリ 1) [単行本] / 高橋 英光 (著); 北海道大学出版会 (刊)
言葉のしくみ―認知言語学のはなし
高橋英光
北海道大学出版会


答え
(1) the earth (2) the globe (3) Earth

関連記事:
認知言語学キーワード紹介(2):カテゴリーとプロトタイプ
認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
認知言語学キーワード紹介(4):ゲシュタルトと構文
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2013年02月28日

紹介していただきました

ずいぶん前に書いた記事なのにアクセスが多いなと思ったら、Yahoo!知恵袋の回答欄で記事が紹介されていました。

「電流の流れ」?中学の理科の教科書の見出しにあり、それから不思議に思ってたんですけど、電流が流れるって表現なんかおかしくないですか?

実は、前にもYahoo!知恵袋の回答欄で取り上げていただいたことがあります。このときは、記事のほとんどが引用されていました。

英語について教えてください。
impolite imperfect
incorrect inconvenient
などのように in と im がどのようなときに使い分けされるのか法則はありますでしょうか?詳しい方教えて下さい。よろしくお願いします。


いろんな方に見ていただけているんだなあと思って、うれしくなりました。
ちなみに、どちらも大学生の時に書いた記事なので、今見ると手直ししたくなったりして。やり始めるときりがないのでそのままですが。

最近は、フェイスブックの「いいね!」やツィッターで反応していただけることもあって、励みになっています。ありがとうございます!
ラベル:日記
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2013年01月30日

the foreign minisiterという表現をみて、すぐに「外務大臣」だとわかるかどうか

先日Twitter(@monaka_d)でつぶやいたら、わりと反応があったので、ちょっとだけ加筆して以下に掲載することにしました。

*****


高校の授業でThe Foreign Minister apologized to the Japanese public for various improper actions in the handling of the incident.という文を扱った。

apologizeの用法をたずねる問題で、適切な前置詞(toとfor)を選べるかどうかがポイントだった。そこについては多くの生徒が大丈夫だったみたいだが、それよりも気になる部分があった。

その英文を日本語に直してもらったところ、the Foreign Ministerを「外国の大臣」と訳している生徒がかなりいたのだ。「外務大臣」または「外相」とすべきところだが、

(1) 「外国の大臣」と訳しても、日本語として必ずしも不自然に感じない
(2) foreignもministerもすでに意味を知っているつもりになっていると、かえって辞書を引こうと思わない

などの理由で、間違えたことに気づきにくいと言える。(今回はFもMも大文字になっているので、それもヒントになるだろうが、小文字で書くこともある)

こういうのは日本語に直させてみないと、生徒が間違えていないかチェックするのが難しいなと思った。そして、間違えてみてはじめて記憶に残るものかもしれない。もし、最初から「the Foreign Ministeは外務大臣のことです」と説明してしまった場合、特別に何も思わずに受け取るものの、結局頭に残らず間違える、といったことになった可能性が高い。

可能性が高い、というか、実際そうだったみたいである。

担当しているクラスでは、英語の授業が2種類あって、もう一方のクラスでは『システム英単語』という市販の単語集を使っている。システム英単語は、自分自身大学受験でも使用した、気に入っている単語集であり、以前ブログでも取り上げた。
システム英単語/刀祢雅彦・霜康司

システム英単語の特徴は、単語はよく使われるフレーズを通して覚えるのが一番、と考えているところで、フレーズ単位で単語を紹介している。実は、そのシステム英単語のministerの項目には、the Italian foreign minister「イタリアの外務大臣」というフレーズが載っている。つまり、生徒たちは一度学習済みのはずなのである。しかし、「minister=大臣のところしか見てなかった」という生徒が多かったみたいだ。システム英単語がフレーズという単位を採用している意義を生徒に伝えられていないということでもある。

あと、今回の「外国の大臣」みたいなミスは、自分もしていないか気をつけたいと思う。日頃から、わかったつもりにならずにしっかり確認する習慣をつけなきゃな。

関連記事:
システム英単語/刀祢雅彦・霜康司
英語の間接疑問とカンマ:間違いの背後にあるもの
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2013年01月06日

英語の同族目的語構文:現象と文献の紹介

学校の英語の授業では、目的語を取る動詞を他動詞、目的語を取らない動詞を自動詞と呼ばれていることを習う。ただ、実際には、典型的には他動詞だと考えられている動詞でも目的語を必要としない用法があったり、逆に自動詞だと考えられている動詞でも目的語を伴う用法があったりする。今回紹介する同族目的語構文(cognate object construction)とは、自動詞が(1)のように目的語を取る構文である。

(1)
a. Mary smiled a warm smile.
b. Bill lived a happy life.
c. She sighed a weary sigh.

(1)がおもしろいのは、本来自動詞であるはずの動詞が、その動詞と同形の名詞、あるいは語源的に関係のある名詞を目的語に取る(つまり、同族目的語を取る)点である。同族目的語という用語自体を学校で習うことは少ないかもしれないが、『ロイヤル英文法』(旺文社、2000)や『SEED総合英語 第3版』(文英堂、2010)などの一般向け文法書には記載がある(『総合英語Forest 第6版』(桐原書店、2011)には載っていない。あまり同族目的語構文で困ることはないだろうから、余計な項目を増やさないという意味ではよいのかもしれない)。

一般的に、同族目的語構文に関しては次のようなことが知られている。

A. 同族目的語構文で用いられる動詞は、同族目的語以外の目的語を自由に取ることができない。
B. 基本的には、同族目的語は形容詞などの修飾語句を必要とする。
C. 意味上は動詞+副詞に近い。


そのため、(2)のような例は容認されない(*の記号で表す)と考えられている。また、(1)の各文の意味は(3)とほぼ同じであると言われている。

(2)
a. *Mary smiled me.
b. *She sighed a sigh.

(3)
a. Mary smiled warmly.
b. Bill lived happily.
c. She sighed wearily.

しかし、(4)のように、AやBに沿わないような例もあるし、動詞+副詞で言い換えられない例も存在する。

(4)
a. Mary smiled a silly grin. (意味上関連はしているが、同族ではない目的語が用いられている)
b. John danced a dance.(形容詞などの修飾語句がない)
c. *She dreamed strangely. (She dreamed a strange dream.は容認可能)

そのため、一般的に同族目的語構文と言われる構文は、実際には一枚岩ではないことも指摘されている。では、同族目的語構文にはどのような下位分類があるのか、A-Cに合わないのに容認されるのはなぜなのか、動詞+副詞の場合と意味が完全に同一というわけでないとしたらどのような違いがあるのか。このような問題を巡って、言語学では以前から多くの議論がなされている。

実は、同族目的語構文には以前から興味があって、修士論文で扱おうと思ったこともあったのだが、結局は違うテーマを選んだ。そのときに調べた文献情報をそのままにしておくのももったいないので、文献リストを作ってみた。同族目的語構文に興味のある方は参考にしてみてください。文献は今後も追加する予定。

■Dixon, Robert M. W. 2005. A Semantic Approach to English Grammar. Oxford: Oxford University Press.
■Höche, Silke. 2009. Cognate Object Constructions in English: A Cognitive-Linguistic Account. Tübingen: Gunter Narr Verlag Tübingen.
■Horita, Yuko.1996. English cognate object constructions and their transitivity. English Linguistics 13, 221-247.
■堀田優子. 2005. 同族目的語構文のカテゴリーに関する一考察.『金沢大学文学部論集 言語・文学篇』25, 67-88.
■Jones, Michael A. 1988. Cognate objects and the case filter. Journal of Linguistics 24, 89-110.
■木原恵美子. 2008. 同族目的語構文の認知構造: 軽動詞構文との比較を通じて. 『言葉と認知のメカニズム: 山梨正明教授還暦記念論文集』 31-45. 東京: ひつじ書房.
■北原賢一. 2006. 現代英語における同族目的語構文の実態: 構文文法的観点から. 『英語語法文法研究』13, 51-65.
■北原賢一. 2011. 動詞dieと同族目的語構文: 語彙・構文的アプローチによる記述. 『英語語法文法研究』18, 63-78.
■Langacker, Ronald W. 1991. Foundations of Cognitive Grammar Vol. II: Descriptive Application. Stanford: Stanford University Press.
■Levin, Beth and Malka Rappaport Hovav. 1995. Unaccusativity: At the Syntax-Lexical Semantics Interface. Cambridge, Mass.: MIT Press.
■Moltmann, Frederika. 1989. Nominal and causal event predicates. CLS 25, 300-314.
■Massam, Diane. 1990. Cognate objects as thematic objects. Canadian Journal of Linguistics 35, 161-190.
■Matsumoto, Masumi. 1996. The syntax and semantics of the cognate object construction. English Linguistics 13, 199-220.
■中島平三・池内正幸. 2005. 『明日に架ける生成文法』 東京: 開拓社.
■Nakajima, Heizo. 2006. Adverbial cognate objects. Linguistic Inquiry 37, 674-684.
■大室剛志. 1990-1991. 同族 ‘目的語’ 構文の特異性(1)-(3). 『英語教育』39(9)-(11).
■大室剛志. 2000. 特定的な同族目的語について.『英語教育』49(6), 29-31.
■大室剛志. 2002. 有標構文における有標性.『英語語法文法研究』9, 35-50.
■大室剛志. 2004. 基本形と変種の同定にあずかる大規模コーパス: 同族目的語構文を例に.『英語コーパス研究』11, 137-151.
■大室剛志. 2005a. 構文の基本形と変種: 文法事項の配列順序への示唆. 『国際開発フォーラム』 29, 91-105.
■大室剛志. 2005b. 基本から特殊へ: 同族目的語構文を例に. 『英語教育』 54(5), 63-65.
■大室剛志. 2007. 形式と意味のミスマッチと同族目的語の決定詞. 『英語青年』152(11), 19-21.
■Rice, Sally. 1988. Unlikely lexical entries. BLS 14, 202-212.
■高見健一・久野ワ. 2002. 『日英語の自動詞構文』 東京: 研究社.

関連記事:
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2013年01月01日

130回、そして2013年

今回が130回目の記事です。ブログを始めたのが2009年の1月なので、もう4年もブログを続けていることになります。更新の頻度はそんなに高くないかもしれませんが、それでも最低月に1回以上更新するというのは4年間守ってこれました。まぁ、本当は月に3回ぐらい更新したいところなんですが。

このブログでは、ことばに関する素朴な疑問やふと思いついたことを取り上げる記事を中心に書いていますが(最近そういうの少なめかもしれませんが)、そういうスタイルが支持されているなら、とてもうれしく思います。こうやって続けてこれたのも、多くの方々に見に来ていただけているからです。本当にありがとうございます。

それでは、2013年もよろしくお願いいたします。
posted by ダイスケ at 02:48| Comment(0) | 日々の出来事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月24日

マイク・タイソンの発言から考える英語のしくみ

I will take Lennox's title, his soul and smear his pompous brains all over the ring when I hit him.

1. はじめに
2002年、世界中のボクシングファンが待ち望んだヘビー級の頂上決戦が行われた。レノックス・ルイス対マイク・タイソン戦である。過激な発言が注目を集めるタイソンであったが、この試合の前にルイスに向けて言ったのが上記の一言である。今回は、この表現について考えてみたい。

考察にあたっては、タイソンの人間性や彼の生い立ちからアプローチすることも可能であろう。しかし、彼が英語話者であり、またその発言を理解するのも英語話者であるなら、この一言をタイソンという固有性を取り去った、ひとつの英文として捉えることも可能であるはずだ。そうであるなら、この一風変わった表現の意味から、英語話者に共有されている言語知識、英語のしくみの一端を考えるきっかけを得られるのではないかと思う。今回は、特にsmear his pompous brains all over the ringという部分に注目する。

2. 意味の多面性
I picked up the phone.(電話を取った)とThe phone rang.(電話が鳴った)におけるphoneはどちらも「電話(器)」に相当するが、前者では受話器、後者ではベル音に焦点が当たっており、その点では両者の指す意味は厳密に言えばずれている。しかし、両者は密接に結びついており、(1)のように言っても違和感がないように、同時に焦点が当たることもある。

(1) The phone kept ringing, but no one bothered to pick it up.(電話は鳴り続けたが、わざわざ電話を取る人はいなかった)

これと似た現象が上記でも起こっていると考えると、今回の表現からはどのような意味が読み取れるだろうか。

3. brainに着目して
まず、smear his pompous brains all over the ringという表現のうち、brainに着目しよう。brainは、焦点の当たる箇所により、物理的な臓器としての「脳、脳みそ」、またはその脳の活動に基づく「知力、知能」という意味をもつ。前者に焦点を当てた用法として(2)、後者に焦点を当てた用法として(3)などがある。

(2) The shot blew her brains out.(その一発が彼女の脳みそを吹き飛ばした)
(3) May I pick your brains?(知恵を貸してくれないか)

これを踏まえて、smear his pompous brains all over the ringを2段階に分けて考えたい。

3.1. his pompous brains
pompous「気取った、横柄な」は人間の態度・考えについて言及する語なので、この語に修飾されるbrainは臓器というより「知能」(というか「考え方」)に近い意味で用いられていると考えられる。

3.2. smear his brains all over the ring
smearは「塗りつける」という意味だが、 overと共に使われるときには、汚れたものを塗ることが多い(smear blood over the mirror 鏡を血まみれにする)。塗りつけるものが物理的なものであるとすると、このbrainは「脳、脳みそ」の意味であり、それは対戦相手を殴った(when I hit him)結果飛び散るもの(血のイメージとも重なる)であると考えられる。

3.3. 全体の意味
3.1と3.2を考えると、それぞれbrainの意味の別の部分に焦点が当たっており、それらが同時に活性化されていることがわかる。全体で「気取ったあいつの頭をかちわって、リングを血まみれにしてやろう」のような意味になるだろう。

4. 多面性と選択のプロセス
一見不思議に思えるsmear his pompous brains all over the ringという表現であったが、brainの意味を二段階に分けて考えれば、それが意味するところも判明する。このような二つの意味を同時に想起させる表現を用いた点にマイク・タイソンの独創性が見られる。しかし、今回説明したような語の意味に見られる多面性と、多面的な中からどの面が選択されるかが共に使われる語によって決まるプロセス自体は、例文(1)のphoneの用法でも確認したように、今回の例に特有のものではなく、様々な表現で見られる重要な英語のしくみの一部であり、英語話者の間で広く共有されているものだと考えられる。

学校の国語の授業で小説や俳句などを扱うときには、作者や登場人物がわかっていれば、できるだけその情報を考慮した上で作中の表現を扱うということが多いのかもしれないし、それがことばについて考える自然なアプローチだと思うかもしれない。しかし、そういった情報にできる限り依拠せず、当該言語にどのようなしくみが備わっているのかを考えることもできる。そいういったアプローチは、その表現そのものをより深く味わう上でも、その言語をよりよく理解する上でも重要だろう。

参考文献
(1)の例文およびその説明は、次の論文を参考にしている。ただし、言語学になじみのない人に伝えるという趣旨から、言語学の用語は基本的に使わずに説明した。

西村義樹. 2008. 換喩の認知言語学. 森雄一ほか(編). 『ことばのダイナミズム』 71-88. 東京: くろしお出版.
ラベル:英語 メトニミー
posted by ダイスケ at 23:08| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月23日

「ことば」と「言語」

「言語学」とは何かと問われれば、それは言語を扱う学問なのだが、「言語」という語がわかりづらいこともあって、言語学のイメージが湧かない、とっつきづらいという印象を受けるかもしれない。

「言語」と似ている語に「ことば(言葉)」がある。前者が音読みの漢字から成る漢語で、どこか堅苦しいイメージがあるのに対して、後者が訓読みで日常的にもよく使われる和語であるという違いはあるが、意味はだいたい同じように思われる。たとえば、次のような場合では、「ことば」と「言語」を入れ替えても問題ないだろう。

(1)
a. スイスで使われていることばは何ですか?
b. スイスで使われている言語は何ですか?

その一方で、(2)や(3)では、「ことば」と「言語」は入れ替えできない(*の記号は、例文が不自然であり、容認できないことを表す)。

(2)
a. 昨日、友達に励ましてもらいました。その温かいことばのおかげで、がんばれそうです。
b. 昨日、友達に励ましてもらいました。*その温かい言語のおかげで、がんばれそうです。

次の例はどうだろうか。「ことば」と「言語」のどちらを使っても、日本語の文としてはおかしくないと思われる。

(3)
a. 私のことばは、彼には通じなかった。
b. 私の言語は、彼には通じなかった。

(3a)は二通りの解釈が可能だと思う。ひとつは、「私は日本語で話しかけたけれど、外国人である彼には、私のことば(日本語)がわからなかった」といった解釈である。この場合、(3b)とほぼ同じ意味だと言ってよいだろう。もうひとつの解釈は、「通じない」を「冗談が通じない」における場合と同じような用法と考えて、「私の発言の意義を納得してもらえなかった」ような状況を指すものである。この場合、(3b)に置き換えることはできない。

このようなことを考えると、「ことば」と「言語」は常に同じように使えるわけではないことがわかる。(1)のように、ことばを使用する個々の人をいちいち思い浮かべないで、抽象的にことば全体を捉えるときには、「ことば」も「言語」も用いることができる。一方、(2)を見ると、「ことば」は特定の個人が特定の状況で言ったもの(ある友達が、励ますという目的のために、ある時間にある場所で言った具体的なセリフ)を指すときには、「ことば」は問題ないが「言語」は不向きである。つまり、「ことば」の方が使用範囲が広いのだと言える。(3a)の意味が二通りに解釈可能なのは、その反映である。

冒頭で言語学は言語を扱う学問であると言ったが、そこで扱われる「言語」とは、上記に述べたことを考慮するなら、次のようにまとめることができる。

(4)言語学は、ことばを使用する個々人の活動ではなく、ある共同体が共有している抽象的なものとしてのことばを扱う学問である

では、そのような言語学的な関心をもってことばを眺めると、どのような分析ができるのか。次回は実際に英語の分析をしてみることにする。

続編:マイク・タイソンの発言から考える英語のしくみ
ラベル:言語学
posted by ダイスケ at 22:49| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする