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2016年04月24日

英語の接頭辞over-:現象と文献の紹介

英語の前置詞overには多数の研究がある。その理由の一つは、overに実にたくさんの用法があるからである。たとえば、She walked over the bridge.のoverは歩くという行為の経路を表現するために用いられているし、She has a strange power over me.ではある種の支配力を表す表現でoverが使われている。overの持つ多様な意味をどのように関連づけるかをめぐって、特に認知言語学という分野で盛んに研究が行われてきた。

さて、overには前置詞だけでなく接頭辞の用法もある。接頭辞over-は名詞・動詞・形容詞のいずれにも付加されることがある。接頭辞として用いるときには、主に「上に」という空間的意味を表す場合と「〜すぎる」という超過の意味を表す場合とがある。

(1) overcoat(外套(がいとう)、オーバーコート):名詞に付加
(2) overfly(飛び越す):動詞に付加
(3) overripe(熟しすぎた):形容詞に付加

その中でも動詞接頭辞については、もとの動詞とover-が付加された動詞の間で目的語の選択などに違いが見られることがあり、関心がもたれてきた。

(4) overbuild the city(都市に(建物を)建てすぎる)cf. build houses
(5) overheat the room(部屋を暖めすぎる)cf. heat the room

(4) に見るように、buildが建物を目的語に取るのに対して、overbuildでは場所が目的語になっている。(5) ではheatもoverheatも同じ目的語を取っている。いつでも目的語が変わるわけではないし、また動詞によってはover-がつくことで他動詞から自動詞になるものもある(overeatなど)。このあたりの実態の解明も理論的な説明も、まだまだ十分ではないと言える。

接頭辞over-の研究としては以下のようなものがある。

■Brugman, Claudia M. 1981. The Story of Over: Polysemy, Semantics and the Structure of the Lexicon. M.A. Thesis, University of California, Berkeley. Published from New York/ London: Garland Press in 1988.
■Bauer, Laurie, Rochelle Lieber and Ingo Plag. 2013. The Oxford Reference Guide to English Morphology. Oxford: Oxford University Press.
■堀内ふみ野・野中大輔. 2016. 動詞接頭辞over-/under-の非対称性とその動機づけ: 認知主体の捉え方と項構造. 『日本認知言語学会論文集』 16, 66-78.
■Iwata, Seizi. 2004. Over-prefixation: A lexical constructional approach. English Language and Linguistics 8, 239-292.
■影山太郎・由本陽子. 1997.『語形成と概念構造』 東京: 研究社.
■Lakoff, Goerge. 1987. Women, Fire, and Dangerous Things: What Categories Reveal about the Mind. Chicago: University of Chicago Press.
■Lieber, Rochelle. 2004. Morphology and Lexical Semantics. Cambridge: Cambridge University Press.
■Lindstromberg, Seth. 2010. English Prepositions Explained. John Benjamins.
■西川盛雄. 2013. 『英語接辞の魅力: 語彙力を高める単語のメカニズム』 東京: 開拓社.
■野中大輔・堀内ふみ野. 2016. underestimateとは言ってもunderheat とは言わないのはなぜか: 動詞接頭辞over-とunder-の対比から. 『日本言語学会第152 回大会予稿集』 192-197.
■Tyler, Andrea and Vyvyan Evans. 2003. The Semantics of English Prepositions: Spatial Scenes, Embodied Meaning, and Cognition. Cambridge: Cambridge University Press.
■Yumoto, Yoko. 1997. Verbal prefixation on the level of semantic structure. In Taro Kageyama. (ed.), Verb Semantics and Syntactic Structure, 177-204. Tokyo: Kurosio Publishers.
■由本陽子. 2001. 複雑述語の形成. 影山太郎(編). 『日英対照 動詞の意味と構文』 269-296. 東京: 大修館書店.
■由本陽子. 2011. 『レキシコンに潜む文法とダイナミズム』 東京: 開拓社.

上記の研究は、大まかに前置詞overを分析する過程で接頭辞over-に触れている研究(e.g. Brugman 1981; Lakoff 1987; Tyler and Evans 2003)と動詞に付加された場合を扱う研究(e.g. 影山・由本 1997; Yumoto 1997; Iwata 2004; 堀内・野中 2016)に分けることができる。また、Bauer et al. (2013) は英語の形態論全般として便利で、接頭辞の一つとしてover-についても言及がある。今後も関連文献が見つかったら追加していく予定。なお、例文(4)と(5)は影山・由本 (1997: 91-92) をもとにしている。

over-は実に多くの語に付加されるので、辞書を眺めてどんな意味になるか予想したり、実際に英文を読みながらこんな使い方もするのかと発見していくのも楽しい。

追記
文献を追加(2016/08/30)

関連記事:
英語の場所格交替:現象と文献の紹介
英語の形容詞的受身:現象と文献の紹介
Semantic prosody:現象と文献の紹介
英語の同族目的語構文:現象と文献の紹介
英語のレシピに見られる目的語省略:現象と文献の紹介
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2015年11月22日

英語のレシピに見られる目的語省略:現象と文献の紹介

「炒まる」という表現を聞いたことがあるだろうか。これはある料理番組で聞いた動詞で、たしか「玉ねぎが炒まったら、肉を加えます」のような表現だったように思う。

「壊す」に対して「壊す」、「焼く」に対して「焼ける」のように、日本語には他動詞と自動詞の対応関係が見つかる場合がある。「炒める」と「炒まる」もそれに相当するが、「炒まる」については、自然な日本語だと思うかどうか、人によって違いがあるかもしれない。実際、自分が料理番組で耳にしたときは、ちょっとびっくりした。実際にウェブ上で検索してみると、かなりの使用例が見つかって、料理の際には使う人も多くいるようだ。

このように、レシピなど調理手順を説明するときの表現を観察すると、おもしろいことがいろいろ見つかる。自分の場合英語を研究しているので、イギリスで買ってきた料理本を見たりするのだが、レシピならではの言い回しが見つかってとてもおもしろい。

英語研究の中にもレシピに着目したものがいくつかあるが、特に注目されてきたのは、レシピにおける目的語省略だろう。英語では、たとえ前後の文脈からわかったとしても、John broke the vase.の代わりにJohn broke.のように目的語を省略しては表現できず、John broke it.のように代名詞を使う必要がある。英語でも目的語の省略がないわけではないが、日本語の場合とはかなり違って、どんなときに省略できるかなどが研究されている。英語の目的語省略についてざっと概観したい場合は、以下の文献が便利である(ちなみに、この本の305ページに料理動詞についてのコラムがあるので、それを見てみると料理関係の表現についてもっと興味が湧くかもしれない)。

■杉岡洋子・影山太郎. 2011. 目的語の省略. 影山太郎(編) 『日英対照 名詞の意味と構文』 東京: 大修館書店.

自由に目的語の省略ができない英語だが、興味深いことに、レシピとなると頻繁に目的語の省略が見られる。たとえば、次の例を見てみよう。

(1) Slice the onion finely, brown Ø in the butter and then place Ø in a small dish.

brown(炒める)の目的語とplace(置く)の目的語が省略されている(Øでそれを表現している)が、この場合はどちらも玉ねぎが目的語に当たると言える。

レシピの目的語がどんな性質をもっているのか、それを文法研究としてどのように扱うべきかなどをめぐっては、以下のような研究がある(関連文献が見つかったら追加していく予定)。

■新池邦子. 2010. 英語のレシピにおける顕現しない被動作主項. 『英語語法文法研究』 17, 162-167.
■Bender, Emily. 1999. Constituting context: Null objects in English recipes revisited. Proceedings of the 23rd Annual Penn Linguistics Colloquium, 53-68.
■Brown, Gillian and George Yule. 1983. Discourse Analysis. Cambridge: Cambridge University Press.
■Culy, Christopher. 1996. Null objects in English recipes. Language Variation and Change 8, 91-124.
■Ferguson, Charles A. 1994. Dialect, register, and genre. In Douglas Biber and Edward Finegan (eds.), Sociolinguistic perspectives on register, 15-29. Oxford: Oxford University Press.
■Haegeman, Liliane. 1987. Register variation in English: Some theoretical observations. Journal of English Linguistics 20, 230-248.
■貝森有祐. 2016. レジスターから見る語彙・構文の選択と英語教育への含意: レシピに注目して. Encounters 4, 65-82.
■Kittredge, Richard. 1982. Variation and homogeneity of sublanguages. In Richard Kittredge and John Lehrberger (eds.), Sublanguage: Studies of Language in Restricted Semantic Domains, 107-137. Berlin: de Gruyter.
■Massam, Diane and Yves Roberge. 1989. Recipe context null objects in English. Linguistic inquiry 20,134-139.
■Nonaka, Daisuke. 2016. How to cook with the locative alternation. Paper presented at the 6th UK Cognitive Linguistics Conference, July 19-22th, Bangor University.
■野中大輔. 2017. 非交替動詞が交替するとき: 類推と文脈から見る構文の生産性. Human Linguistics Review 2, 47-63.
■Ruppenhofer, Josef and Laura A. Michaelis. 2010. A constructional account of genre-based argument omissions. Constructions and Frames 2, 158-184.

基本的なことは1980年代の研究で指摘されているので(Brown and Yule 1983; Haegeman 1987; Kittredge 1982; Massam and Roberge 1989)、レシピの英語について興味のある人はそこからどうぞ。ちなみに、先ほどの例文(1)はBrown and Yule (1983: 175)から。

文法研究としては、Bender (1999)、Culy (1996)、Massam and Roberge (1989)、Ruppenfoher and Michaelis (2010)、談話分析としてはBrown and Yule (1983)、ジャンル・レジスターの研究としてはKittredge (1982)、レシピの英語の歴史的研究としてはCuly (1996)、などなど、それぞれの関心に応じて、そのあたりの論文を読んみるとヒントが見つかるかもしれない。

追記
文献を追加(2016/01/10)

関連記事:
英語の場所格交替:現象と文献の紹介
英語の形容詞的受身:現象と文献の紹介
Semantic prosody:現象と文献の紹介
英語の同族目的語構文:現象と文献の紹介
英語の接頭辞over-:現象と文献の紹介
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2013年09月14日

認知言語学キーワード紹介(4):ゲシュタルトと構文

cat foodという表現は、catとfoodから成り立っており、ネコの食べ物であるキャットフードを意味する。表現全体の意味が、その構成要素の足し算によって導くことができるとする考えのことを「構成性(合成性)の原理」(principle of compositionality)と呼ぶが、cat foodにはそれがよく当てはまるように思われる。しかし、言語表現の意味が、いつでも構成要素の単純な組み合わせだけで説明できるとは限らない。次のような表現を見てみよう。

(1) breakfast person(朝食派の人)
(2) cat person(ネコが好きなネコ派の人)
(3) night person(夜更かしをする人、夜型の人)

(1)-(3)では、breakfastやcatとpersonを足し合わせるだけでは導けないような「-派、-主義」といった意味合いが出てくるのである(ちなみに、ネコが食べるものを何でもcat foodというわけではないので、cat foodでさえも単にcat+foodと考えるだけでは十分でないと言える)。

これらの表現は、構成性の原理からすると取扱いに困る例である。しかし、単純な足し算が成り立たないことは、人間の知覚についていえば決して珍しいことではない。たとえば、オーケストラの音楽では、バイオリン+トランペット+フルートなど各楽器の音の単なる集まりを超えた、ひとつの曲を認識するだろう。このような人間の知覚に着目し、ゲシュタルト心理学は「全体は部分の総和以上である」と主張した。全体には、部分になかった「まとまり」、つまり「ゲシュタルト」(gestalt)が現れるのである。認知言語学は、このようなゲシュタルト心理学の考えを取り入れており、言語においても、複合的な表現が、部分の単純な組み合わせを超えたゲシュタルトをなすと考えている。言語にもゲシュタルトがあると考えると、(1)-(3)の各表現に、部分の足し算では得られない意味があっても問題ないことになる。

ゲシュタルトを考える上で重要なのが、(i) 個々の部分よりも先に全体が知覚されて、(ii) その全体を前提とした上で各部分の位置づけが規定される、ということだ。そして、その部分の位置づけを決める際に大きな役割を果たすのが、ある種の「型」である。

音楽についていえば、メロディーを聞いたら、まずはオーケストラだとかロックバンドだという型を踏まえて、それから各楽器の音色や技巧に注目するだろう。

(1)-(3)についても同じように考えてみよう。まず「名詞+person」という型を先に認識して、そのあとで、「名詞」の部分の位置づけが決まる。その型に「-派、-主義の人」という意味があると考えれば、(1)-(3)をうまく分析することができるし、この型を利用すれば、「名詞」の部分を変えることでcoffee person(コーヒー好きの人、コーヒー党)やcity person(都会派の人)といった表現をどんどん作り出すこともできる。

認知言語学は、表現の型の役割を重視し、これを「構文」(あるいは「構成体」)(construction)と呼んでいる。(1)-(3)は複合語の例であったが、構文という考えはもっと大きな単位についても当てはまる。構文については、また次回改めて紹介したい。


最近は認知言語学に関する入門書は数多くありますが、その先駆的な本として河上誓作編著『認知言語学の基礎』が挙げられます。1996年に出版されたので、当然21世紀の認知言語学の発展については書かれていませんが、それまでの認知言語学の主要な研究についてはわかりやすく紹介されています。もとの本や論文から例文・図をそのまま引用していることが多いので、80年代、90年代の文献を読むときのガイドとしては今でも便利だと思います。
認知言語学の基礎 -
認知言語学の基礎
河上誓作
研究社


本書の第1章はゲシュタルトの説明から始まります。他の入門書に比べると、比較的ゲシュタルトについて割いているページが多い印象。なお、例文(1)-(3)は3ページに登場します。

関連記事:
認知言語学キーワード紹介(1):捉え方
認知言語学キーワード紹介(2):カテゴリーとプロトタイプ
認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
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2013年04月27日

認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義

「メタファー」(metaphor)というと、あくまで修辞上の問題であって、普段ことばを使う上では関わりのないものだという印象を与えるかもしれない。しかし、認知言語学は、メタファーは日常の言語活動に広く行き渡っていると考える。(1)に挙げた例文もメタファーの一種であるとすれば、そのことが認められるだろう。

(1)
a. I’m feeling up.(気分は上々だ)
b. Thinking about her always gives me a lift.(彼女のことを考えると、いつも気持ちが高ぶる)
c. I’m feeling down.(落ち込んでいる)
d. My spirits sank.(気分が沈んだ)

これらの例から、英語では感情を「上下」という位置関係を通して理解していることがわかる。頭の中でHAPPY IS UP(うれしいことは上);SAD IS DOWN(悲しいことは下)と捉えていることによって、つまり、概念のレベルでのメタファーが存在することによって、「上下」にまつわる語彙が体系的に感情の表現として使用されるのである。このような表現は、メタファー的であることに気づかないほど一般的に定着していると言えるだろう。そして、(1)のような言語表現を観察することによって、私たちの思考体系がいかにメタファー的であるかがわかるのである。

基本的なメタファーは、人間の身体的な経験を基盤にもつと考えられている。私たちは、うれしいときには、顔を上げ、飛び上がったりするなど姿勢が上向きになる。それに対して、悲しいときには、顔は下を向き、地面に座り込んだり、うなだれた姿勢になる。HAPPY IS UP;SAD IS DOWNという捉え方には、このような人間の自然な身体反応が関わっていると言ってよいだろう。

(1)に添えた日本語の表現からもわかるように、HAPPY IS UP;SAD IS DOWNという概念レベルでのメタファーは日英語で共通して用いられているようだ。一方、(2)のような表現は、日本語だとなかなか直接対応するものがない。

(2)
a. The discussion fell to the emotional level, but I raised it back up to the rational plane. (議論は感情的なレベルに落ちてしまったが、理性的なところまで引き上げて戻した。)
b. He couldn’t rise above his emotions.(彼は感情から上に上がれなかった=理性的になれなかった。)

これはRATIONAL IS UP(理性的なことは上); EMOTION IS DOWN(感情的なことは下)の例であるが、このような概念メタファーが存在するかどうかは文化的な経験に依存している。そのため、メタファーによる捉え方を調べることは、文化理解の上でも重要である。

以上のメタファーの例で見てきたように、言語は身体的・心理的経験はもちろん、文化的・社会的経験を基盤にして成り立っていると考えられる。このような人間の日常生活における経験をもとに言語現象を解明していこうとする立場を「経験基盤主義」(experientialism)というが、これは認知言語学の大きな特徴となっている。


メタファーをはじめとした認知言語学の基本的なトピックを知るには、谷口一美著『学びのエクササイズ 認知言語学』がちょうどよいでしょう。入門書なので扱うトピックは限られていて、詳しい情報を得ることはできませんが、その分認知言語学の姿勢を簡潔に伝えることができているように思います。なお、(1)の例は本書の75ページに登場します。
学びのエクササイズ 認知言語学 [単行本] / 谷口 一美 (著); ひつじ書房 (刊)
学びのエクササイズ 認知言語学
谷口 一美
ひつじ書房


また、George LakoffとMark Johnsonによって書かれたMetaphors We Live Byは、それまで文学や修辞学で扱われてきたメタファーに新たな光を投げかけた本であり、認知言語学の出発点としても重要です。さきほどの(1)と(2)は、もともとこの本で紹介された例文です。英語が読みやすく、言語学の知識がなくても読んでいけると思います。
Metaphors We Live by [ペーパーバック] / George Lakoff (著); Univ of Chicago Pr (T) (刊)
Metaphors We Live by [ペーパーバック]
George Lakoff
Mark Johnson
University of Chicago Press


なお、Metaphors We Live Byの最初の数章の要約もこのブログに載せています。興味のある方は、こちらもご覧ください。
Metaphors We Live Byまとめ

関連記事:
認知言語学キーワード紹介(1):捉え方
認知言語学キーワード紹介(2):カテゴリーとプロトタイプ
認知言語学キーワード紹介(4):ゲシュタルトと構文
Metaphors We Live By 第1章
Metaphors We Live By 第2章
Metaphors We Live By 第3章
Metaphors We Live By 第4章
Metaphors We Live By 第6
Metaphors We Live By 第8章
Metaphors We Live By 第9章
Metaphors We Live By 第11章
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2013年03月26日

認知言語学キーワード紹介(2):カテゴリーとプロトタイプ

動詞runの意味を聞かれたら、何と答えるだろうか?多くの人が最初に思い浮かべるrunのイメージは「走る」、つまり「足を交互に素早く動かして移動する」ことだろう。『ジーニアス英和辞典 第4版』を見てみると(1)のような例はもちろん挙がっているが、(2)や(3)も見つかる。(2)のrunは「乗り物の移動」、(3)は「液体の移動」を表している。

(1) She ran for 20 miles.(彼女は20マイル走った。)
(2) I saw a car run through a red light.(車が赤信号を無視して走るのを見た。)
(3) The river runs into the Pacific Ocean.(その川は太平洋に注いでいる。)

このような例まで含めて考えると、runの意味を単なる「2本足による素早い移動」とは言いづらくなる。これは、runの意味カテゴリーをどのように記述するかという問題である。人間は、知識を単にばらばらに蓄えているわけではなく、何らかのグループにまとめている。そのグループが「カテゴリー」(category)である。

カテゴリーについては古くから研究されてきたが、次のような考え方が主流であった。つまり、あるカテゴリーに属する成員はすべてある属性を共有しており、カテゴリーの成員間には優劣はない、というものである。このようなカテゴリー観に従って、さきほどのrunについて考えてみよう。runの意味カテゴリーに含まれる成員はすべて「高速の移動」という属性をもっていると考えれば、(1)-(3)のすべての用法を偏りなく扱うことができる。しかし、runの意味を「高速の移動」とだけ提示してしまうと、今度は直感的なrunのイメージとはだいぶ離れてしまうだろう。

認知言語学では、カテゴリーをもっと柔軟なものであると考えている。あるカテゴリーの成員がどれも同じだけの資格をもっているわけではなく、もっともそれらしい、中心的な成員から、あまりそれらしくない、周辺的な成員があるとするカテゴリー観を採用するのだ。中心的、代表的な成員のことを「プロトタイプ」(prototype)と呼ぶ。カテゴリーがそのように構造化されていると想定すると、runの意味に抽象的な「高速の移動」というものがあることを認めつつも、そのカテゴリーにはプロトタイプ「2本足を使ったすばやい移動」を中心に、周辺的な成員「乗り物の高速移動」「液体の高速移動」までの段階性があることを捉えることができる。


今回挙げたrunについては、早瀬尚子・堀田優子著『認知文法の新展開:カテゴリー化と用法基盤モデル』のpp. 36-39を参考にしています。ここでは、さらに「立候補する」という意味の位置づけなども言及されているので、興味をもたれた方はぜひご覧ください。
認知文法の新展開 (英語学モノグラフシリーズ (19)) [単行本(ソフトカバー)] / 早瀬 尚子, 堀田 優子 (著); 研究社 (刊)

認知文法の新展開 (英語学モノグラフシリーズ (19))
早瀬尚子・堀田優子
研究社


上記の本はすでにある程度言語学を勉強した人向けに書かれています。もっと入門的な本としては、吉村公宏著『はじめての認知言語学』がおすすめ。カテゴリー化を中心とした認知言語学の姿勢をつかむのに最適です。
はじめての認知言語学 [単行本] / 吉村 公宏 (著); 研究社 (刊)
はじめての認知言語学
吉村公宏
研究社


関連記事:
認知言語学キーワード紹介(1):捉え方
認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
認知言語学キーワード紹介(4):ゲシュタルトと構文
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2013年03月02日

認知言語学キーワード紹介(1):捉え方

以前、学部の授業のアシスタントをしていたのですが、そこで認知言語学という分野を学部生に紹介する機会をいただきました。そのときに使った配布物を見てみたいと言ってくださる方もいたので、もしかしたら他にも誰かの役に立つかもしれないと思い、手直しして公開してみることにしました。授業に出た人が、「認知言語学をもっと知りたい」「認知言語学の本を実際に手に取ってみようかな」と思ってもらうことを目的に作ったものなので、あまり一方的に説明しすぎないようにしています。そのため、物足りないという方もいるかもしれませんが、それについてはご了承ください。

では、まずは認知言語学のキーワードを文献とともに紹介してみようと思います。

*****


「東京には坂が多いけど、上り坂と下り坂はどちらが多いでしょう?」というのは、答えることのできない質問である。なぜなら、同じ「坂」でも下からみれば「上り坂」に、上からみれば「下り坂」になるからである。

このことからわかるように、ことばの意味には、何を指すかだけでなく、それをどのような立場から捉えているか、つまり「捉え方」(construal)まで含まれている。

これは、言い換えてみれば、たとえ同じ物や状況でも捉え方が異なれば選択される表現が異なることを意味する。英語には、「地球」を表す語にthe earth、Earth、globeなどがある。これらの語は、地球をどのように捉えるかの違いを反映している。では、次の(1)-(3)の場合、どれを用いるのが適切だろうか。

(1) 数百年前は地球が丸いという考えを多くの人があざ笑った。
Hundreds of years ago, many people scoffed at the notion that (     ) was round.

(2) アメリカ合衆国とヨーロッパかまたは地球の他の場所の間を日中に飛行機で移動すると疲労するが、その原因はまだ臨床学的に十分解明されていない。
A day time flight between the United States and Europe or any other part of (     ) is fatigue-making in a clinical way we still don’t fully grasp.

(3) 地球と異なり、木星にはその表面を分割する特徴がない。
Unlike (     ), Jupiter has no features to break up its surface.


(1)-(3)の例は、高橋英光著『言葉のしくみ: 認知言語学のはなし』という本の63ページから取っています。文献情報のあとに、答えだけ載せておきますので、the earth、Earth、globeが地球をどのように捉えた表現なのか気になった方は、ぜひこの本を見てみてください。

言葉のしくみ―認知言語学のはなし (北大文学研究科ライブラリ) (北大文学研究科ライブラリ 1) [単行本] / 高橋 英光 (著); 北海道大学出版会 (刊)
言葉のしくみ―認知言語学のはなし
高橋英光
北海道大学出版会


答え
(1) the earth (2) the globe (3) Earth

関連記事:
認知言語学キーワード紹介(2):カテゴリーとプロトタイプ
認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
認知言語学キーワード紹介(4):ゲシュタルトと構文
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2013年01月06日

英語の同族目的語構文:現象と文献の紹介

学校の英語の授業では、目的語を取る動詞を他動詞、目的語を取らない動詞を自動詞と呼ばれていることを習う。ただ、実際には、典型的には他動詞だと考えられている動詞でも目的語を必要としない用法があったり、逆に自動詞だと考えられている動詞でも目的語を伴う用法があったりする。今回紹介する同族目的語構文(cognate object construction)とは、自動詞が(1)のように目的語を取る構文である。

(1)
a. Mary smiled a warm smile.
b. Bill lived a happy life.
c. She sighed a weary sigh.

(1)がおもしろいのは、本来自動詞であるはずの動詞が、その動詞と同形の名詞、あるいは語源的に関係のある名詞を目的語に取る(つまり、同族目的語を取る)点である。同族目的語という用語自体を学校で習うことは少ないかもしれないが、『ロイヤル英文法』(旺文社、2000)や『SEED総合英語 第3版』(文英堂、2010)などの一般向け文法書には記載がある(『総合英語Forest 第6版』(桐原書店、2011)には載っていない。あまり同族目的語構文で困ることはないだろうから、余計な項目を増やさないという意味ではよいのかもしれない)。

一般的に、同族目的語構文に関しては次のようなことが知られている。

A. 同族目的語構文で用いられる動詞は、同族目的語以外の目的語を自由に取ることができない。
B. 基本的には、同族目的語は形容詞などの修飾語句を必要とする。
C. 意味上は動詞+副詞に近い。


そのため、(2)のような例は容認されない(*の記号で表す)と考えられている。また、(1)の各文の意味は(3)とほぼ同じであると言われている。

(2)
a. *Mary smiled me.
b. *She sighed a sigh.

(3)
a. Mary smiled warmly.
b. Bill lived happily.
c. She sighed wearily.

しかし、(4)のように、AやBに沿わないような例もあるし、動詞+副詞で言い換えられない例も存在する。

(4)
a. Mary smiled a silly grin. (意味上関連はしているが、同族ではない目的語が用いられている)
b. John danced a dance.(形容詞などの修飾語句がない)
c. *She dreamed strangely. (She dreamed a strange dream.は容認可能)

そのため、一般的に同族目的語構文と言われる構文は、実際には一枚岩ではないことも指摘されている。では、同族目的語構文にはどのような下位分類があるのか、A-Cに合わないのに容認されるのはなぜなのか、動詞+副詞の場合と意味が完全に同一というわけでないとしたらどのような違いがあるのか。このような問題を巡って、言語学では以前から多くの議論がなされている。

実は、同族目的語構文には以前から興味があって、修士論文で扱おうと思ったこともあったのだが、結局は違うテーマを選んだ。そのときに調べた文献情報をそのままにしておくのももったいないので、文献リストを作ってみた。同族目的語構文に興味のある方は参考にしてみてください。文献は今後も追加する予定。

■Dixon, Robert M. W. 2005. A Semantic Approach to English Grammar. Oxford: Oxford University Press.
■Höche, Silke. 2009. Cognate Object Constructions in English: A Cognitive-Linguistic Account. Tübingen: Gunter Narr Verlag Tübingen.
■Horita, Yuko.1996. English cognate object constructions and their transitivity. English Linguistics 13, 221-247.
■堀田優子. 2005. 同族目的語構文のカテゴリーに関する一考察.『金沢大学文学部論集 言語・文学篇』25, 67-88.
■Jones, Michael A. 1988. Cognate objects and the case filter. Journal of Linguistics 24, 89-110.
■木原恵美子. 2008. 同族目的語構文の認知構造: 軽動詞構文との比較を通じて. 『言葉と認知のメカニズム: 山梨正明教授還暦記念論文集』 31-45. 東京: ひつじ書房.
■北原賢一. 2006. 現代英語における同族目的語構文の実態: 構文文法的観点から. 『英語語法文法研究』13, 51-65.
■北原賢一. 2011. 動詞dieと同族目的語構文: 語彙・構文的アプローチによる記述. 『英語語法文法研究』18, 63-78.
■Langacker, Ronald W. 1991. Foundations of Cognitive Grammar Vol. II: Descriptive Application. Stanford: Stanford University Press.
■Levin, Beth and Malka Rappaport Hovav. 1995. Unaccusativity: At the Syntax-Lexical Semantics Interface. Cambridge, Mass.: MIT Press.
■Moltmann, Frederika. 1989. Nominal and causal event predicates. CLS 25, 300-314.
■Massam, Diane. 1990. Cognate objects as thematic objects. Canadian Journal of Linguistics 35, 161-190.
■Matsumoto, Masumi. 1996. The syntax and semantics of the cognate object construction. English Linguistics 13, 199-220.
■中島平三・池内正幸. 2005. 『明日に架ける生成文法』 東京: 開拓社.
■Nakajima, Heizo. 2006. Adverbial cognate objects. Linguistic Inquiry 37, 674-684.
■大室剛志. 1990-1991. 同族 ‘目的語’ 構文の特異性(1)-(3). 『英語教育』39(9)-(11).
■大室剛志. 2000. 特定的な同族目的語について.『英語教育』49(6), 29-31.
■大室剛志. 2002. 有標構文における有標性.『英語語法文法研究』9, 35-50.
■大室剛志. 2004. 基本形と変種の同定にあずかる大規模コーパス: 同族目的語構文を例に.『英語コーパス研究』11, 137-151.
■大室剛志. 2005a. 構文の基本形と変種: 文法事項の配列順序への示唆. 『国際開発フォーラム』 29, 91-105.
■大室剛志. 2005b. 基本から特殊へ: 同族目的語構文を例に. 『英語教育』 54(5), 63-65.
■大室剛志. 2007. 形式と意味のミスマッチと同族目的語の決定詞. 『英語青年』152(11), 19-21.
■Rice, Sally. 1988. Unlikely lexical entries. BLS 14, 202-212.
■高見健一・久野ワ. 2002. 『日英語の自動詞構文』 東京: 研究社.

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2012年09月27日

Semantic prosody:現象と文献の紹介

コンピュータ技術の発達により、言語研究も大きな影響を受けている。その影響の一つがコーパスを利用した言語研究である。コーパス (corpus、複数形はcorpora) とは、コンピュータで読み込むことができる形態のテクストの集積からなるデータベースのことである。

たとえば、cleverとwiseという語は、どちらも「頭がよい」という日本語に相当することばだが、コーパスを用いれば、一度に複数のテクストからその次にどんな名詞が続くか(どんな名詞が生起しているか)を調べることができ、用いられる名詞の傾向の違いからその意味をより具体的に確かめることができる。

コーパスを用いる言語学の分野(コーパス言語学)で近年発達してきた概念にsemantic prosodyというものがある。Semantic prosodyとは、生起環境から明らかにされる語句や構文の評価的な意味のことである。

よく挙がる例のひとつが、causeという語である(Stubbs 1995)。Causeは、日本語の「原因、〜の原因となる」に当たる語であるが、動詞用法でも名詞用法でも、多くの場合、問題、被害、病気などの出来事を表す語と共に使われることが報告されている。

(1) East German restriction which caused today’s trouble
(2) considerable damage has been caused to buildings
(3) a certificate showing the cause of death (Stubbs 1995: 31)

したがって、cause には否定的な評価が伴うとされている(なお、このような意味的側面は、辞書にも記載されるようになってきていて、たとえば『ジーニアス英和辞典 第4版』のcauseの項目にも、「〔通例悪い出来事の〕原因」といった記述が見られる)。

ある語句が、何を指すかだけでなく、それをどのように捉えているかという評価的意味をも含む場合があるという発想自体は決して新しいものではない。大規模コーパスによって観察されるsemantic prosodyの貢献は、母語話者にも気づかれていなかった語句の評価的意味を発見したり、量的な証拠を提示することで、評価的意味が従来考えられていたほど不安定なものではなく、話者の間で広く共有されていることを示したことにあるだろう。また、そのような評価的意味が、問題の語句の前後に渡って広がり、テクスト全体の一貫性を保つ上で重要な役割を果たしているという指摘も、実際に使用されたテクストから構築されたコーパスを使っているからこそだと言える。

Semantic prosodyという用語は、Louw (1993) の論文において初めて用いられたが、もともとはSinclairが使い始めたとのこと(Louw 1993: 158)。その後、Sinclair本人をはじめ様々な研究者によって扱われてきたが、その概念は確立したものというよりは、まだまだ議論の最中といったほうがよいようだ(関連する論文のタイトルに、critique、revisited、re-examinedなどの語が使われていることにも、そのことが反映されている)。Stubbs (2001) のようにdiscourse prosodyという用語を用いる研究者もいる。

日本語の文献で、semantic prosodyを扱っているものは、まだ少ないと思う。斎藤ほか編 (2005)『英語コーパス言語学』では、「意味的プロソディ」という用語が当てられているが、「意味的韻律」としている研究も見かける。

もっと詳しくsemantic prosodyについて知りたい方のために、以下に文献リストを載せておくのでお役立てください。網羅的でないので、これからも文献を追加していく予定。

*はじめは文献リストには英語の研究をしているものだけを載せるつもりだったが、英語以外の言語を扱っているものや、語学教育への応用が中心のものも、知っているものは載せていくことにした。そのような文献については、(イタリア語、教育)などの形で明記する。英語を扱っている場合は特にそのことを記載しないが、複数の言語に言及があって英語がそのうちのひとつだった場合は、(英語、イタリア語)のように記載する。


■Blass, Anne-Katrin. 2012. Textual functions of extended lexical units: A case study of phrasal constructions built around by way of. ICAME Journal 36, 5-29.
■Bednarek, Monika. 2008. Semantic preference and semantic prosody re-examined. Corpus Linguistics and Linguistic Theory 4, 119-139.
■Channell, Joanna. 1999. Corpus-based analysis of evaluative lexis. In Susan Hunston. and Geoff Thompson (eds.), Evaluationin in Text: Authorial Stance and the Construction of Discourse. 38-55. Oxford: Oxford University Press.
■深谷輝彦. 2005. コーパスに基づく文法研究. 齊藤俊雄・中村純作・赤野一郎(編). 『英語コーパス言語学: 基礎と実践』 144-161. 東京: 研究社.
■Hampe, Beate. 2005. When down is not bad, and up not good enough: A usage-based assessment of the plus-minus parameter in image-schema theory. Cognitive Linguistics 16, 81-112.
■掘正広. 2009. 『英語コロケーション研究入門』 東京: 研究社.
■Hoey, Michael. 2005. Lexical Priming: A New Theory of Words and Language. London: Routledge.
■Hunston, Susan. 2002. Corpora in Applied Linguistics. Cambridge: Cambridge University Press.
■Hunston, Susan. 2007. Semantic prosody revisited. International Journal of Corpus Linguistics 12, 249-268.
■Hunston, Susan and Geoff Thompson (eds.). 1999. Evaluation in Text: Authorial Stance and the Construction of Discourse. Oxford: Oxford University Press.
■Levin, Magnus and Hans Lindquist. 2007. Sticking one’s nose in the data: Evaluation in phraseological sequences with nose. ICAME Journal 31, 87–110.
■Louw, Bill. 1993. Irony in the text or insincerity in the writer?: The diagnostic potential of semantic prosodies. In M. Baker, G. Francis, and E. Tognini-Bonelli (eds.), Text and Technology; In Honour of John Sincair. 157-176. Amsterdam: John Benjamins.
■McEnery, Tony, Richard Xiao and Yukio Tono. 2006. Corpus-Based Language Studies: An Advanced Resource Book. London: Routledge.
■McEnery, Tony and Andrew Hardie. 2012. Corpus Linguistics: Method, Theory and Practice. Cambridge: Cambridge University Press.
■Morley, John and Alan Partington. 2009. A few Frequently Asked Questions about semantic - or evaluative - prosody. International Journal of Corpus Linguistics 14, 139-158.
■Nonaka, Daisuke. 2013. The locative alternation and evaluative meaning: The case of smear. Colloquia 34, 77-88.
■大石亨. 2010.「植物」のメタファー再考: 慣用表現に付随する意味的韻律と主観性. 『日本認知言語学会論文集』 10, 149-159.(日本語)
■大石亨. 2011. 抽象概念を表す漢語名詞に付随する意味的韻律. 『日本認知言語学会論文集』 11, 245-255.(日本語)
■Oster, Ulrike. 2010. Using corpus methodology for semantic and pragmatic analyses: What can corpora tell us about the linguistic expression of emotions? Cognitive Linguistics 21, 727-763.
■Partington, Alan. 1998. Patterns and Meanings: Using Corpora for English Language Research and Teaching. Amsterdam: John Benjamins.(英語、イタリア語)
■Partington, Alan. 2004. Utterly content in each other’s company: Semantic prosody and semantic preference. International Journal of Corpus Linguistics 9, 131-156.
■Rühlemann, Christoph. 2007. Lexical grammar: The GET-passive as a case in point. ICAME Journal 31, 111–128.
■Sinclair, John. 1991. Corpus, Concordance, Collocation. Oxford: Oxford University Press.
■Sinclair, John. 1996. The search for units of meaning. Textus IX, 75-106.
■Sinclair, John. 1998. The lexical item. In E. Weigand (eds.), Contrastive Lexical Semantics. 1-24. Amsterdam: John Benjamins.
■Sinclair, John. 2004. Trust the Text: Lanugage, Corpus and Discourse. London: Routlege.
■Stefanowitsch, Anatol and Stefan Th. Gries. 2003. Collostructions: Investigating the interaction of words and construction. International Journal of Corpus Linguistics 8, 209-243.
■Stewart, Dominic. 2010. Semantic Prosody: A Critical Evaluation. New York: Routledge.
■Stubbs, Michael. 1995. Collocations and semantic profiles: On the cause of the trouble with quantitative studies. Functions of Languages 2, 1-33.
■Stubbs, Michael. 2001a. On inference theories and code theories: Corpus evidence for semantic schemas. Text 21, 437-465.
■Stubbs, Michael. 2001b. Words and Phrases: Corpus Studies of Lexical Semantics. Malden, Mass: Blackwell.(英語、英語への借用語としてのドイツ語)
■Tao, Hongyin. 2003. Toward an emergent view of lexical semantics. Language and Linguistics 4, 837-856.(中国語)
■Taylor, John R. 2012. The Mental Corpus: How Language is Represented in the Mind. Oxford: Oxford University Press.
■Tognini-Bonelli, Elena. 2001. Corpus Linguistics at Work. Amsterdam: John Benjamins.(英語、イタリア語、教育)
■Whitsitt, Sam. 2005. A critique of the concept of semantic prosody. International Journal of Corpus Linguistics 10, 283-305.
■Xiao, Richard and Tony McEnery. 2006. Collocation, semantic prosody and near synonymy: A cross-linguistic perspective. Applied Linguistics 27, 103-129.(英語、中国語、教育)
■Zhang, Weimin. 2009. Semantic prosody and ESL/EFL vocabulary pedagogy. TESL Canada Journal 26, 1-12.(教育)

追記
文献を追加(2012/10/14、2012/10/20、2012/12/24、2013/08/08、2013/09/14、2014/08/14)
英語以外の言語、教育について扱っている文献を追加(2013/01/05)

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2012年08月07日

英語の形容詞的受身:現象と文献の紹介

次の英文はどちらもbe+過去分詞を含んでいるが、その意味には違いがあることがわかるだろうか。

(1) The shop was closed by the clerk at 6 p.m. yesterday.
(2) The shop was closed till 6 a.m. yesterday.

(1)は、日本語にすると、「店は昨日午後6時に店員によって閉められた」という意味で、午後6時に店員がカギをかけるという〈動作〉を行ったことを表している。一方、(2)は「店は昨日午前6時まで閉まっていた」という意味で、これは、(あるときに店のカギがかけられ、その結果として)店は午前6時までカギがかかったままだったという〈状態〉を表している。

この二つの用法は、学校では明確に説明されることは少ないのではないかと思われるが、高校生向けの文法書には、(補足的な扱いではあるが)この違いが説明されている。(1)と(2)の例文は、『SEED総合英語 第3版』(文英堂、2010)から取ったものである(p. 145)。ちなみに、『総合英語Forest 第6版』(桐原書店、2011)でも「受動態で表す動作と状態」という項目(p. 157)があり、ほぼ同じ説明がある。

言語学では、前者を【動詞的受身verbal passive】、後者を【形容詞的受身adjectival passive】と呼ぶことがある。今回は、一般には言及されることの少ない形容詞的受身を取り上げて、いくつか文献を紹介したいと思う。

まず、注意したいのは、動詞的受身と形容詞的受身は、be+過去分詞という形は共有しているので、それだけでは区別できないということだ。したがって、単にThe shop was closed.と言っただけでは、〈動作〉とも〈状態〉とも解釈できる。区別するには文脈に頼るしかない。

区別するときには、形容詞的受身の次のような特徴が利用されることが多い。

A. 形容詞的受身は、by句によって動作主を表現することができない
B. 形容詞的受身は、形容詞の場合と同じように、be動詞以外のlook、remain、seemなどの動詞の補語になることができる

したがって、次の(3, 4)は一方の解釈に限定され、(5)のような文は容認されない。

(3) The window was broken by the theives.(動作)
(4) The window seemed broken.(状態)
(5) *The window seemed broken by the theives.(容認不可)

他にも形容詞的受身の特徴はいろいろあるのだが、それらを知るには次の文献が便利である(以下、言語学を勉強している人向け)。

■影山太郎. 2009. 状態・属性を表す受身と過去分詞. 影山太郎(編).『日英対照 形容詞・副詞の意味と構文』121-151. 東京: 大修館書店.

形容詞受身を概観するのにちょうどよく、引用されている文献も役に立つ。形容詞的受身を扱っている文献が日本語にあまり多くない気がするので(勉強不足なだけ?)、そういう意味でも便利である。同著者の『動詞意味論』(くろしお出版、1996)の第3章「完了形容詞」でも、形容詞的受身とそれに関連する現象が扱われている。

英語の文献では、次の文法書の記述を確認しておきたい。

■Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech and Jan Svartvik. 1985. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman.
■Huddleston, Rodney and Geoffrey Pullum. 2002. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press.


Quirk et al.では、形容詞的受身にpseudo-passiveという用語を当てている(statal passiveという言い方も出てくる)。なお、動詞的受身はcentral passiveと呼ばれている。第3.77節にPseudo-passiveという項目がある。Huddelston and Pullumは、第10.1.3節がAdjectival passivesである。厳密な意味での受身はveral passiveのみだとしている(その点はQuirk et al.でも形容詞的受身をpsuedo-passiveと言っているから同じか)。Quirk et al.よりも割いているページ数が多い。

生成文法の枠組みの分析はいくつもあるが、代表的なものとして次の二つを挙げる。

■Wasow, Thomas. 1977. Transformations and the lexicon. In Peter Culicover, Thomas Wasow and Adarin Akmajian (eds.), Formal Syntax, 327–360. New York: Academic Press.
■Levin, Beth. and Malka Rappaport. 1986. The formation of adjectival passives. Linguistic Inquiry 17, 623-661.


Wasowは、生成文法で形容詞的受身を扱った古典的論文。Levin and Rappaportは、与格交替や場所格交替(壁塗り交替)をする動詞の例なども挙げられている。

最近の論文としては、以下のものがある。

■Emonds, Joseph. 2006. Adjectival passives. In Martin Everaert and Henk van Riemsdijk (eds.), The Blackwell Companion to Syntax, Vol. I, 16-60. Oxford: Blackwell.

これまでの形容詞的受身の研究を概観し、独自の主張をしている。枠組みは生成文法だが、例文も豊富なので、その点でも便利。

認知文法の枠組みでは、次の文献がある。

■Langacker, Ronald W. 1990. Concept, Image, and Symbol: The Cognitive Basis of Grammar. Berlin: Mouton de Gruyter.


第4章The English passiveは、認知文法の考え方の紹介であると同時に、認知文法の英語の受身に対する応用でもある。基本的には、動詞的受身を分析するものだが、完了分詞(過去分詞)の多義性を扱うところで、形容詞的受身の意味についても言及がある(「形容詞的受身」という用語は使われていないが)。

形容詞的受身は、文献によってstatal passiveやpassive of resultなどと呼ばれることもあったり、研究者によって同じ用語でも微妙に指す範囲が違ったりするから、わかりにくいところがある。そして、昔から知られている現象のわりには、まだ研究の余地があるなという感じがする。受身って奥が深いですね。

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2011年11月15日

英語の場所格交替:現象と文献の紹介

日本語の「塗る」などの動詞は、ほぼ同じ内容を表すのに二通りの構文を用いることがある。たとえば、(1a)では「ペンキ」が、(1b)では「壁」が目的語になっている(「〜を」の位置にくる)。

(1)
a. 壁にペンキを塗る。
b. 壁をペンキで塗る。

同じような例が英語にも見られる。(3)はspray(スプレーを使って塗る)、(4)はload(積み込む)を用いた例である。

(2)
a. John sprayed paint on the wall.
b. John sprayed the wall with paint.
(3)
a. John loaded hay onto the truck.
b. John loaded the truck with hay.

言語学では、同じ動詞が異なる構文で使用されることを構文の「交替」と言うが、上記のような交替は特に場所格交替(locative alternation)と呼ばれている(所格交替、あるいは壁塗り交替 spray paint alternationなどと呼ばれることもある)。場所格交替は、言語学においては有名な現象で、これまでに数多くの研究がある。そのような研究では、二つの構文の意味の違いは何か、どのような動詞が交替可能か、交替できる動詞とできない動詞の違いは何かなどについて、様々な提案がなされてきた。ただし、まだ明らかとなっていない側面も多く、その解明に向けて現在も研究されている。

今回は、英語の場所格交替に興味がある方への紹介と自分自身の整理のために、この現象を(部分的にでも)扱っている研究書・論文をできる限り列挙したい。とりあえず自分の把握している範囲で取り上げるが(まだ読んでいないものを含む)、今後も随時文献を更新していくつもり。

なお、場所格交替には、除去を表す他動詞clear(取り除く)や自動詞swarm(群がる)などの例もあるが、今回は(2, 3)で示したような塗り付けや積み込みを表す他動詞のタイプ(これを指してspray/load alternationと呼ぶこともある)を扱っているものに限定する。

■Anderson, Stephen R. 1971. On the role of deep structure in semantic interpretation. Foundations of Language 7, 387-396.
■Baker, Collin F. and Josef Ruppenhofer. 2002. FrameNet's frames vs. Levin's verb classes. BLS 28, 27-38.
■Boas, Hans C. 2003. Towards a lexical-constructional account of the locative alternation. Proceedings of the 2001 Western Conference on Linguistics 13, 27-42.
■Boas, Hans C. 2009. Verb meanings at the crossroads between higher-level and lower-level constructions. Lingua 120, 22-34.
■Boas, Hans C. 2011. A frame-semantic approach to syntactic alternations: the case of build verbs. In Guerrero Medina, P. (ed.), Morphosyntactic alternations in English. London: Equinox. 207-234.
■Buck, Rosemary A. 1993. Affectedness and other semantic properties of English denominal locative Verbs. American Speech 68, 139-160.
■Chang, Franklin, Kathryn Bock and Adele E. Goldberg. 2003. Do thematic roles leave traces in their places? Cognition 90, 29-49.
■Croft, William. 1998. Event structure in argument linking. In Miriam Butt and Wilhelm Geuder (eds.), The Projection of Arguments : Lexical Compositional Factors, 21-63. Stanford: CSLI Publications.
■Croft, William. 2012. Verbs: Aspect and Causal Structure. Oxford: Oxford University Press.
■Dowty, David. 1991. Thematic proto-roles and argument selection. Language 67, 547-619.
■Dowty, David. 2002. ‘The garden swarms with bees’ and the fallacy of ‘argument alternation.’ In Yael Ravin and Claudia Leacock (eds.), Polysemy: Theoretical and Computational Approaches, 111-128. Oxford: Oxford University Press.
■Fillmore, Charles J. 1968. The case for case. In Emmon Bach and Robert T. Harms (eds.), Universals in Linguistic Theory, 1-88. New York: Holt, Rinehart, and Winston.
■Fillmore, Charles J. 1977. The case for case reopened. In Peter Cole and Jerrold Sadock (eds.), Syntax and Semantics 8: Grammatical Relations, 59-82. New York: Academic Press.
■Foley, William A. and Robert D. Van Valin, Jr. 1984. Functional Syntax and Universal Grammar. Cambridge: Cambridge University Press.
■Fraser, Bruce. 1971. A note on the spray paint cases. Linguistic Inquiry 2, 604-607.
■Fukui Naoki, Shigeru Miyagawa and Carol Tenny. 1985. Verb classes in English and Japanese: A case study in the interaction of syntax, morphology and semantics. Lexicon project working papers
3, center for cognitive science. MIT: Cambridge, Mass.
■Fujikawa, Katsuya. 2015. Pour-class verbs and the locative alternation in English. 『英語語法文法研究』 22, 118-134.
■Goldberg, Adele E. 1995. Constructions: A Construction Grammar Approach to Argument Structure. Chicago: University of Chicago Press.
■Goldberg, Adele E. 2002. Surface generalizations: An alternative to alternation. Cognitive Linguistics 13, 327-356.
■Goldberg, Adele E. 2006. Constructions at Work: The Nature of Generalization in Language. Chicago: University of Chicago Press.
■Gropen, Jess, Steven Pinker, Michelle Hollander, and Richard Goldberg. 1991. Affectedness and direct objects: The role of lexical semantics in the acquisition of verb argument structure. Cognition 41, 153-195.
■Hall, Barbara. 1965. Subject and object in English. Ph. D. dissertation, MIT.
■池上嘉彦. 1981. ‘Activity’ - ‘accomplishment’ - ‘achievement’: 意味構造の類型 (4). 『英語青年』 126(12), 622-625.
■Ikegami, Yoshihiko 1985. ‘Activity’-‘ accomplishment’-‘ achievement’: A language that can’t say ‘I burned it, but it didn’t brun’ and one that can. In Adam Makkai (eds.), Linguistics and Philosophy: Essays in Honor of Rulon S. Wells. 265-304. Amsterdam: John Benjamins.
■池上嘉彦. 1995. 『〈英文法〉を考える』東京: 筑摩書房.
■池上嘉彦. 2000. ‘Bounded’ vs. ‘unbounded’と‘cross-category harmony’ (17). 『英語青年』146(5), 316-319.
■池上嘉彦. 2006. 『英語の感覚・日本語の感覚: 〈ことばの意味〉のしくみ』東京: 日本放送出版協会.
■Inagaki, Daisuke. 1989. On the locative altenation. Tsukuba English Studies 8, 205-236.
■Iwata, Seizi. 1998. A Lexical Network Approach to Verbal Semantics. Tokyo: Kaitakusha.
■岩田彩志. 2001. 構文理論の展開. 『英語青年』 147(9), 531-535.
■Iwata, Seizi. 2004. Over-prefixation: A lexical constructional approach. English Language and Linguistics 8, 239-292.
■Iwata, Seizi. 2005. Locative alternation and two levels of verb meaning. Cognitive Linguistics 16, 355-407.
■Iwata, Seizi. 2005. The role of verb meaning in locative alternations. In Mirjam Fried and Hans C. Boas (eds.), Grammatical Constructions: Back to the Roots, 101-118. Amsterdam: John Benjamins.
■Iwata, Seizi. 2008. Locative Alternation: A Lexical-Constructional Approach. Amsterdam: John Benjamins.
■岩田彩志. 2012. 『英語の仕組みと文法のからくり: 語彙・構文アプローチ』 東京: 開拓社.
■Jackendoff, Ray. 1990. Semantic Structures. Cambridge, Mass: MIT press.
■Jackendoff, Ray. 1996. The proper treatment of measuring out, telicity, and perhaps even quantification in English. Natural Language and Linguistic Theory 14, 305-354.
■Jeffries, Lesley and Penny Willis. 1984. A return to the spray paint issue. Journal of Pragmatics 8, 715-729.
■Kageyama, Taro. 1997. Denominal verbs and relative salience in Lexical Conceptual Structure. In Taro Kageyama (eds.), Verb Semantics and Syntactic Structure, 45–96. Tokyo: Kurosio Publishers.
■影山太郎・由本陽子. 1997. 『語形成と概念構造』 東京: 研究社.
■岸本秀樹. 2001. 壁塗り構文. 影山太郎(編). 『日英対照 動詞の意味と構文』100-126. 東京: 大修館書店.
■岸本秀樹. 2012. 壁塗り交替. 澤田治美(編). 『ひつじ意味論講座2 構文と意味』 177-200. 東京: ひつじ書房.
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■Perek, Florent. 2015. Argument Structure in Usage-Based Construction Grammar: Experimental and Corpus-Based Perspectives. Amsterdam: John Benjamins.
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■Pinker, Steven. 2007. The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature. New York: Viking.
■Pinker, Steven. 2013[1993].The acquisition of argument structure. In Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles, 160-179. Oxford: Oxford University Press.
■Randall, Janet H. 2010. Linking: The Geometry of Argument Structure. Dordrecht: Springer.
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■Rappaport, Malka, Beth Levin and Mary Laughren. 1993. Levels of lexical representation. In James Pustejovsky (eds.), Semantics and the Lexicon, 39-54. Kulwer Academic Publishers.
■Salkoff, Morris. 1983. Bees are swarming in the garden: A systematic synchronic study of productivity. Language 59, 288-346.
■Schwartz-Norman, Linda. 1976. The grammar of ‘content’ and ‘container’. Journal of Linguistics 12, 279-287.
■高見健一. 2011. 場所格交替構文: 〈場所〉が〈物〉に変わるとき. 『英語と教育』 2, 1-28.
■高見健一・久野ワ. 2014. 補説: 移動物目的語構文と場所目的語構文の関係: 派生か基底生成か. 高見健一・久野ワ. 『日本語構文の意味と機能を探る』 151-163. 東京: くろしお出版.
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■坪井栄治郎・西村義樹. 1991. 認知意味論と概念意味論. 『実践英文学』 39, 23-37.
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■由本陽子. 2000. 語と概念構造. 『日本語学』 19(5), 158-168.

追記
文献を追加(2011/11/16、2011/11/17、2011/11/22、2011/11/25、2011/11/26、2011/11/27、2011/12/05、2012/01/03、2012/01/08、2012/07/04、2012/11/01、2012/11/14、2012/11/16、2013/02/19、2013/05/18、2014/08/14、2015/03/31、2015/10/23、2017/08/05)

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2011年04月06日

Verbs and Times その3

Vendlerの論文"Verbs and Times"の紹介も3回目。今回はthinkとknowの用法を説明している部分。おそらく学校では、knowの意味は、「知る」ではなく「知っている」と習うと思うけれど、Now, I know it!という言い方もあると知って、新鮮だった。

論文中では、他にseeの用法や、これまでに示した分類方法と助動詞canの関係なども扱われているが、とりあえず論文紹介はこれで一区切りつけることに。

最後になったが、著者の紹介を。Zeno Vendlerは、1921年ハンガリーに生まれる。ハーヴァード大学で哲学を学び、のちにカルガリー大学(カナダ)の哲学の教授となり活躍する。同大学退職後もいくつかの大学で教えていたが、2004年にこの世を去る。享年83歳。言語学では広く知られた古典的な論文の著者だが、意外と最近まで生きていたと知ってちょっと驚いた。

*****

Suppose someone is trying to solve a problem in mathematics. Suddenly he cries out "Now I know it!" [...] Now I know it! indicates that he did not know it before. (p.112)

Thinkの用法(pp. 109-111)
ここまでに見たように、多くのactivity(活動)とaccomplishment(達成)、achievement(到達)は派生的なstate(状態)の意味がある。今度はthinkを見てみよう。

Thinkには二つの基本的な意味がある。He is thinking about Jones. とHe thinks that Jones is a rascal. では、thinkの機能が異なる。前者はactivity(活動)であり、後者はstate(状態)である。後者の文は寝ている人物について言ったとしても正しいが、前者の文ではそれは当てはまらない。He was thinking about Jones for half an hour. では、その期間のすべての部分において〈thinking about Jones ジョーンズについて考えてい〉たといえる。しかし、He thought that Jones was a rascal for a year. では、必ずしもその時間のどの瞬間でも〈thinking about Jones, a rascal いたずら好きのジョーンズについて考えてい〉たとはいえない。

Think thatとthink aboutの関係は、habit(習慣)の意味のsmokeとactivity(活動)の意味のsmokeの関係と同じではない。Think thatは様々な種類の活動に基づいている点で、どちらかといえばruleに似ている。つまり、generic state(一般的状態)である。一方、thinkerの状態はspecific state(特定的状態)である。Thinkerは〈thinking about ponderous matters 重々しいことを考えること〉にたびたびたずさわっている人のことである。
(以下の図は、本文をもとに自分で作成)
Verbs_and_times_3.jpg

Knowの用法(pp. 111-112)
Believe thatは容易にgeneric state(一般的状態)だとわかる。同じようにknow thatもgeneric state(一般的状態)である。だが、And then suddenly I knew it! やNow I know it! の場合はどうだろうか。これはachievement(到達)のように思える。たしかに、この洞察的な意味のknowはachievement(到達)のカテゴリーに入るだろう。しかし、knowにachievement(到達)とstate(状態)の意味があるのは、それはcatch a dogにachievement(到達)とstate(状態、dogcatcherにおけるspecific state特定的状態)の意味があるのとは関係ない。それはむしろget married(achievement到達)とbe married(generic state一般的状態)の関係に近い。

ある人が数学の問題を解いていたとする。突然、その人がNow, I know it!と叫ぶ。その十分後にその人はその解法を私に教えてくれた。もちろんHe still knows it.であり、それは彼が解法を説明するのにひらめきが必要でないことを意味する。He knows it.(state状態の意味で)である限り、論理的にはHe will know it.(achievement到達の意味で)は起こりえない。つまり、achievement(到達)のknowはstate(状態)のknowの始まりを意味している。このことと、〈start running走り始める(achievement到達)〉が〈run走ること(activity活動)〉の開始であることとは区別しなければならない。なお、understandについても同様のことがいえる。
(以下の図は、本文をもとに自分で作成)
Verbs_and_times_4.jpg


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2011年04月03日

Verbs and Times その2

前回に引き続き、Vendlerの"Verbs and Times"という論文の紹介。

前回にも少し言及したが、高校では英語の授業で「動作動詞」と「状態動詞」というのが紹介されることがある。前者が進行形になる動詞、後者が進行形にならない動詞だ。だが、この両者は必ずしもはっきりと区別できないのではないかと、授業で習ったときに思った。たとえば、playは動作動詞、beは状態動詞だと分類できるが、その一方でHe plays tennis well. をHe is a good tennis player. と書き換える問題を思い出し、なぜ動作動詞と状態動詞をつかった文が書き換え関係にあるのかと不思議に感じた記憶がある(当時は疑問をそこまで明確な形で表現できなかったけど)。

Vendlerは、そうした用法を「習慣」という用語を用いて説明している。高校のときの疑問に対する手掛かりを得てわくわくしながら読んだ個所です。

*****

Habits (in a broader sense including occupations, dispositions, abilities, and so forth) are also states in our sense. Compare Are you smoking? and Do you smoke? (p. 108)


分類の精密化(pp. 103-107)
It took him three hours to reach the summit. やHe found it in five minutes. を見るとachievement(到達)とaccomplishment(達成)を混同してしまうかもしれない。しかし、少し考えれば誤解が明らかになる。It took me an hour to write a letter.(これはaccomplishment(達成))は、その時間の間〈writing of a letter手紙を書く行為〉が続いていたことを意味する。しかし、It took three hours to reach the summit.(これはachievement(到達))は、その時間の間〈reaching of the summit頂上に着く行為〉が続いていたことを意味しない。意味するのはIt took three hours of climbing to reach the top.である。〈I write a letter in an hour. 1時間で手紙を書く〉のであれば、その間のどの時間でも〈I am writing a letter. 手紙を書いている〉といえる。しかし、〈It takes three hours to reach the top.頂上に着くのに3時間かかる〉のであれば、その間のどの時点でも〈I am reaching the top. (無理やり日本語にすると)頂上に着いている〉とはいえない。

時間スキーマを別の観点から見てみよう。Activity(活動)はひとつに限定されていない時間が必要である。これに対して、accomplishment(達成)はひとつの限定された時間を含意する。achievement(到達)はひとつの限定された瞬間を必要とし、state(状態)はひとつに限定されていない瞬間を含んでいる。

主な用法(pp. 107-108)
これまで概念的な道具をつくり洗練させてきたので、実際にそれがどのように使えるかを示してみることにする。非常に多くの動詞は完全に、あるいは少なくとも主要な用法については今まで見てきたうちのひとつのカテゴリーに入る。以下はその例である。

■activity(活動)
run, walk, push or pull something
■accomplishment(達成)
paint a picture, make a chair, write or read a novel
■achievement(到達)
recognize, realize, lose or find an object, reach the summit
■state(状態)
have something, like somebody, know or believe things


習慣を表す用法(pp. 108-109)
Habit(習慣、広い意味で、保有、位置、能力などを含む)は、ここでの意味にしたがえばstate(状態)である。Are you smoking? とDo you smoke? を比較してみよう。前者はactivity(活動)について尋ねているのに対して、後者はstate(状態)についてである。このちがいがわかれば、なぜ、a worker for the General Electric Company.〈General Electric Companyに勤める人〉がビーチで肌を焼いているときでもHe works for General Electric. といえるのかがわかる。

習慣の意味をもつのはactivity(活動)だけではない。Writer は〈write a book本を書く(accomplishment達成)〉人であり、dogcatcherは〈catch a dog 犬を捕まえる(achievement到達)〉人である。

ここで、cabdriverとrulerについて考えてみよう。Cabdriverは実際に〈drive a cabタクシーを運転する〉ことがあるが、rulerは実際には〈rule a country国を統治し〉てはいない。つまり、〈drive a cabタクシーを運転する〉のに相当するような特定の行動としての〈rule a country国の統治〉をしてはいない。〈Drive a cabタクシーの運転〉はひとつの行動といえるが、rulerが行うはずの行動はたくさんありさまざまなものである。Smoker、painter、dogcatcherの状態をspecific state(特定的状態)と呼び、ruler、servant、educatorの状態をgeneric state(一般的状態)と呼ぶことにする。
(以下の図は、本文をもとに自分で作成)
Verbs_and_times_2.jpg


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Verbs and Times その3
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2011年04月02日

Verbs and Times その1

今回は、以前サークルの読書会で使った文献の紹介。読んだのは以下の文献。
Vendler, Zeno. 1967. Linguistics in Philosophy. Cornell University Press.
これの第4章“Verbs and Times”を扱った。

本論文は、動詞が示す時間関係から動詞を4つに分類している。ここで重要なのは、動詞の分類基準が動詞そのものに備わっているわけではなく、その使用法にあるところだ。したがって、同じrunという動詞でも目的語の有無などによって分類され方が異なる。高校で「動作動詞」「状態動詞」という用語を習ったことのある人は、それをもっと踏み込んで考えたものだと思ってもらえればイメージはつかめると思う。なお、レジュメにまとめるにあたっては、内容を網羅するというよりは特に興味があることを中心に取捨選択をしたことをお断りしておきます。

*****

There are a few such schemata of very wide application. Once they have been discovered in some typical examples, they may be used as models of comparison in exploring and clarifying the behavior of any verb whatever. (p. 98)


動詞と時間(pp.97-98)
動詞には時制がある。これは、時間概念を考えることは動詞の使用法にも関わることを示している。時間の考察は過去、現在、未来といった明らかな区別に限ったことではない。時間の概念には、もっとつかみがたい別の依存関係がある。動詞には時間スキーマ(time schema)があり、それに注目することで、これまで不明瞭だったことが明らかになる。ここでは、時間スキーマという用語の使用を記述する方法を提案してみたい。

進行形による分類(pp.98-100)
まず必要なのは、英語の動詞が含意するもっとも一般的な時間スキーマを位置づけ、記述することである。はじめに、進行形になる動詞とならない動詞のちがいから手をつけることにする。What are you doing? の答えとして適切なのは、I am running (or writing, working, and so on)であり、I am knowing (or loving, recognizing, and so on)ではない。一方、Do you know…? Yes, I do. という問答は適切であるが、Do you run? Yes, I do.はそれには対応していない。

このちがいは次のことを示唆している。run、writeなどは時間内に進むプロセスであり、それらは時間内に次から次へと連続する段階性を構成している。実際、〈running走っている〉人は、ある瞬間に右足を上げ、次の瞬間にその足を下げ、それから左足を上げたのちにその足を下げている。しかし、knowなどの動詞は時間内に進むプロセスを表してはいない。I know geography now. といっても、〈know geography 地理を知る〉というプロセスが現在進行しているわけではない。

進行形になる動詞(pp.100-102)
まず、進行形になる動詞に焦点を当てよう。このグループはさらに二つに分けられる。ある人が〈running 走ってい〉たり〈pushing a cart カートを押してい〉たとして、次の瞬間にやめたとしてもその人はたしかに〈run走った〉、〈push a cartカートをした〉と言うことができる。その一方で、だれかが〈drawing a circle 円を描いてい〉たり、〈running a mile 1マイル走ってい〉たとしても、次の瞬間にやめてしまったら、〈draw a circle円を描いた〉、〈run a mile 1マイル走った〉とは言えない。つまり、runやpush a cartには終了点が設定されていないが、run a mileやdraw a circleには到達すべき終了点があるのである。

そう考えると、For how long did he push the cart? という質問は意味があるが、How long did it take to push the cart? というのはおかしい。これに対して、How long did it take to draw the circle? というのは適切な質問だが、For how long did he draw the circle? というのは奇妙である。対応する答えはHe was pushing it for half an hour. とIt took him twenty seconds to draw the circle. またはHe did it in twenty seconds.であって、その逆ではない。だれかが〈have been running for half an hour 30分間走っている〉としたら、それはその30分間のうちのどの間をとってもその人が〈have been running走っている〉といえる。しかし、〈have run a mile in four minutes 4分で1マイル走った〉としても、それはその人がその時間のどの間をとっても〈have run a mile 1マイル走った〉とはいえない。たしかにその人は〈running走ってい〉て、その4分という一続きの時間に〈run a mile 1マイル走る〉という行為に関わっているのだが。つまり、runやその仲間は、時間内に均質的に進行し、そのプロセスのどの部分も全体として等しい性質をもっている。一方、run a mileやwrite a letterは、終点に向かって進む。どうも終了点が鍵をにぎっているようだ。

これで、重要な動詞の種類の二つについて時間スキーマを見つけることができた。第一のタイプ、つまりrun、push a cartなどをactivity(活動) terms、第二のタイプ、つまりrun a mile、draw a circleなどをaccomplishment(達成) termsと呼ぼう。

進行形にならない動詞(pp. 102-103)
進行形にならない動詞に目を向けると、ここにも特別な違いを見ることができる。これらはプロセスではなく、ある主題がある時点で正しいかまちがいかを表している。ひとつは、一瞬の時間を表すもので、reach the hilltop、win the race、spot or recognize somethingなどがある。もうひとつは、短いか長いかの期間をあらわすもので、believe something、love or dominate somebodyなどがある。これらの適切な問いと答えは次のようになる。

At what time did you reach the top? At noon sharp.
At what moment did you spot the plane? At 10:53.

For how long did you love her? For three years.
How long did you believe in stork? Till I was seven.

第一のreach the topと同様のものをachievement(到達) terms、第二のloveに相当するものをstate(状態) termsと呼ぼう。Achievement(到達)は一瞬で起こるもので、state(状態)はある期間続くものである。
(以下の図は、本文をもとに自分で作成)
Verbs_and_times_1.jpg


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Verbs and Times その2
Verbs and Times その3
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2010年12月24日

Metaphors We Live By 第11章

Metaphors We Live Byの第11章。これまで日常的な表現にみられるメタファーについて扱ってきた本書だが、この章ではいわゆる比喩的な表現との連続性についても指摘される。文学では、想像力によるメタファーをいかに使うかがひとつのポイントになるだろう。

また、本書のタイトルが明らかになる点でも印象的な章だった。

*****

11. The Partial Nature of Metaphorical Structuring
They are “alive” in the most fundamental sense: they are metaphors we live by. (p. 55)


これまでは、メタファーによって定義される概念の体系性があることを説明してきた。概念はメタファー(THEORIES ARE BUILDINGS)によって体系的に構造を与えられるので、ある領域(buildings)に含まれる表現(construct, foundation)を使って、メタファーによって定義される領域(theories)内の対応する概念に言及できる。

「理論」という概念に構造を与えるために使われる「建造物」の概念の部分は基礎と外郭(がいかく)だけであって、屋根、部屋、階段、廊下などの部分は「理論」という概念のためには使われない。したがって、THEORIES ARE BUILDINGSには「使われる」部分と「使われない」部分があるわけである。constructやfoundationはメタファーによって構造を与えられているそうした概念の使われる部分の例であり、理論について日常的に使う文字通りのことばである。

しかし、使われない部分を用いた表現もありうる。たとえば、His theory has thousands of little rooms and long, winding corridors.(彼の理論にはいくつもの部屋と曲がりくねった廊下がある)。こうした文は、通常の文字通りのことばの領域外にあり、比喩的(figurative)、あるいは想像力による(imaginative)表現と呼ばれているものの一部である。文字通りの表現(He has constructed a theory.)も想像力による表現(His theory is covered with gargoyles.)も同じメタファー(THEORIES ARE BUILDINGS)の例でありうる。

想像力によるメタファーをさらに3つに分類してみよう。
1. あるメタファーの使われる部分を拡張したもの。The facts are the bricks and mortar of my theory.〈これらの事実は私の理論のレンガとモルタル(レンガやタイルの接合に用いるもの)である〉は、建造物の外郭について言及しているが、THEORIES ARE BUILDINGSでは用いられない使用材料にまで言及している。
2. 文字通りのメタファーの使われない部分を使った例。His theory has thousands of little rooms and long, winding corridors.
3. 新規なメタファー、つまり、私たちの通常の概念体系の一部に構造を与えるために使われるメタファーではなく、新しいものの考え方を表すメタファー。Classical theories are patriarchs who father many children, most of whom fight incessantly.〈古典的理論というのは、その子どもたちの大部分が絶えずけんかをしている子沢山の父親である。〉

ここまで述べてきたメタファー的表現はどれも、メタファーによって成り立つ概念の全体的な体系の中で使われている。そうした例に加えて、体系的な使われ方をせず孤立している特異なメタファーもある。たとえば、the foot of the mountain、the leg of a tableなどである。こうしたメタファーは、メタファーによって成り立つ概念の中でも他からは孤立しており、使われる部分はその例にしかないのである。したがって、the foot of the mountainは、MOUNTAIN IS A PERSONというメタファーの唯一の使われる部分の例である。とはいっても、使われない部分を用いて新しいメタファー的表現をつくることはありうる(conquer, fight and even be killed by a mountain)。

The foot of the mountainのような例は特異であって、体系をなさない、孤立した例である。他のメタファーと相互に関連することもなく、私たちの概念体系の中で特に興味深い役割を果たすこともない。したがって、それらは生活の基盤となるメタファーではない。使われていない部分がわずかに拡張される可能性があるだけである。もし、メタファー的表現が「死んでいる」と称するに値するとすれば、これらがまさにそうである。

それとはちがって、本書で扱ってきた例は私たちの行動や思考を成り立たせているメタファーによって成り立つ概念の存在を反映している。これらの表現は根本的な意味で「生きている」。つまり、私たちが生活の基盤としているメタファー(metaphors we live by)である。


関連記事:
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Metaphors We Live By 第3章
Metaphors We Live By 第4章
Metaphors We Live By 第6
Metaphors We Live By 第8章
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認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
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2010年12月23日

Metaphors We Live By 第9章

高校生のころ、「先週提出したレポートが返却された」の「先」は過去のこと、「これから先のことはまだ考えてません」の「先」は未来のことを指すと気づいて、なんでだろうと疑問に思ったことがあった。Metaphrs We Live byの第9章では、このような時間表現をどう扱うかが議論されている。日本語にも同じ議論が当てはまるのかも気になるところ。

*****

9. Challenges to Metaphorical Coherence
We have found that the connections between metaphors are more likely to involve coherence than consistency. (p.44)


メタファーやメトニミーは一貫した体系をなしており、それに基づいて私たちは自分たちの経験を概念化している。一見したところ一貫性がないようにみえるところにも一貫性があることを示してみたい。

An Apparent Metaphorical Contradiction

英語には時間を二つの矛盾したやり方で表現しているように思える。ひとつは、未来は前方にあり、過去は後方にあるとするやり方である。

In the weeks ahead of us… (future)
That’s all behind us now. (past)

もうひとつは、未来は後方にあり、過去は前方にあるとするやり方である。

In the following weeks… (future)
In the preceding weeks… (past)

一見矛盾したメタファーが共存することもある。

We’re looking ahead to the following week.〈翌週のことを先立って考えている。〉

前―後の方向性がいかに系統立てられているかを知れば、この矛盾は解消する。
人間や車のようなものはもともと前後の方向性がそなわっているが、動いている物体は、進行方向が前方となるよう方向づけがなされる。人工衛星は静止している間は前方がないが、軌道に乗って進んでいる間はその進む方向が前方となる。
英語における時間はTIME IS A MOVING OBJECTというメタファーによって構造が与えられており、未来は私たちのほうに向かって動いている。そのため、未来はわれわれのほうに前面を向けていることになる。

The time will come when…
I look forward to the arrival of Christmas.
I can’t face the future.〈未来に向き合う〉

Ahead of us、I look forward、before usという表現は人間との関連で時間を方向づけるのに対して、precedeやfollowは時間との関連で時間を方向づけている。したがって、Next week and the week following it.とは言うが、The next week following me…とは言わない。未来の時間は私たちに前面を向けており、その後に続いている時間はさらに遠い未来となると考えれば、weeks to followとweeks ahead of usは同じ意味になる。(以下の図は内容整理のため、自分で作成)

Metaphors_we_live_by_9_1.jpg

ここで示したかったのは、単に矛盾がないことだけでなく、TIME IS A MOVING OBJECTというメタファーがあり、動く物体であるために前後の方向づけがなされ、follow、precede、faceという語も時間において使われる場合はその用法に一致性(consistency)があるということだ。

Coherence versus Consistency

時間の経過を概念化するには別の方法もある。

TIME IS STATIONARY AND WE MOVE THROUGH IT
As we go through the year,…〈年の中を通り過ぎるにつれて=年を経るにつれて〉
We’re approaching the end of the year.〈年の終わりに近づく=もうすぐ年末〉

TIME PASSES US〈時間が私たちを通り過ぎる〉とき、私たちが動いて時間が静止している場合と、時間が動いて私たちが静止している場合があるのだ。共通しているのは、動きは相対的で未来が前方に、過去は後方にあるということだ。つまり、二つのメタファーが大きな共通の意味を含意している。(以下の図は、本文のものを利用)

Metaphors_we_live_by_9_2.jpg

この二つのメタファーには一致性(consistent)がない(ひとつのイメージを形成しない)が、二つとも大きなカテゴリーの下位範疇でありそのため中心となる意味を共有しているので、つじつまが合う(fit together)。メタファー間の関係は一致性(consistency)よりも一貫性(coherence)をもちやすいといえる。


関連記事:
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認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
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Metaphors We Live By 第8章

「Metaphors We Live By」と検索して訪れる方が多いので、第8章以降の内容も少しまとめ直して掲載します。

ここで、Metaphors We Live Byという本について改めて紹介する。本書は、それまで文学や修辞学で扱われてきたメタファーが、実は人間の認知の基本的な営みであり日常の表現に遍在していることを明らかにしたもので、現在「認知言語学」と呼ばれている分野が発展するきっかけにもなった。著者のG・レイコフは言語学、M・ジョンソンは哲学の研究者。

第8章では、メタファーではなくメトニミー(換喩)が扱われている。メトニミーは隣接性に基づく比喩とされている。日本語でも、「今日は鍋を食べよう」と言った場合、「鍋」が指しているのは容器そのものではなく、その容器の中の食べ物であってこれもメトニミーの一種とされる。このように考えると、メトニミーもメタファー同様、あらゆるところで見つけることができる。

*****

8. Metonymy
Metonimic concepts allow us to comceptualize one thing by means of its relation to something else. (p. 39)


存在のメタファーのひとつに擬人法(personification)がある(たとえば、Inflation robbed me of my savings. )。これは次のような例とは区別すべきである。

The ham sandwich is waiting for his check.
〈ハム・サンドイッチが勘定を待っている。〉

この例では擬人法のときとはちがって、ham sandwichが具体的な人間、つまりハム・サンドイッチを注文した人間を指している。このように、ある存在物(ハム・サンドイッチ)を利用して、それに関係する他のもの(ハム・サンドイッチを注文した人間)に言及する方法はメトニミー(metonymy)とよばれている。

メタファーとメトニミーは異なる種類のプロセスを経てできたものである。メタファーは原則的にあるものを他のものを通して理解する方法であり、その第一の機能は理解することである。一方、メトニミーの主な機能は指し示すことである。メトニミーによって、ある存在物を他のものを表すために使うことができる。しかし、メトニミーは単に指し示すだけでなく、理解させる機能も果たしている。たとえば、THE PART FOR THE WHOLE〈部分は全体を表す〉というメトニミーの例では、全体を代表できる部分はたくさんある。その中のどの部分を選ぶかで、全体のどの側面に焦点を当てるかが決まる。あるプロジェクトにおいて、good headsが必要だといった場合、good headsという表現でintelligent peopleを指している。重要なのは部分(head)を使って全体(person)を指しているというよりも、headに関連したひとつの特徴、つまりintelligentを取り上げているとうことだ。メトニミーはメタファーと同じ目的を、いくぶん似ているやり方で果たしている。しかし、メトニミーは、メタファーよりも指し示されるものの特定の側面に焦点を当てるのだ。メトニミーもメタファーと同様、単なることばづかいの問題ではない。メトニミーによって成り立つ概念も、ことばはもちろんのこと、日常の思考や行動の仕方の一部をなしているのだ。

THE FACE FOR THE PERSONというメトニミーがあるが(We need some new faces around here.など)、これは私たちの文化において大きな役割を果たしている。ある人が、息子の写真を見せてくれと頼んで、息子の顔写真を見せてもらえれば満足するだろうが、顔から下の体だけが写った写真を見せられたら満足しないだろう。顔から人を判断し、それに基づいて行動する場合、私たちはメトニミーに基づいて行動していることになる。

メトニミーによって成り立つ概念にも以下に見るように体系性がある。
THE PART FOR THE WHOLE
We don’t hire longhair. 〈長髪=長髪の人〉
The Giants need a stronger arm in right field.〈強い肩=強い肩をもった選手〉

PRODUCER FOR PRODUCT
He bought a Ford.〈フォード(社名)=フォードの作った車〉
He’s got a Picasso in his den.〈ピカソ=ピカソの絵〉

OBJECT USED FOR USER
The sax has the flu today.〈サックス=サックス奏者〉
The buses are on strike.〈バス=バスの運転手〉

CONTROLLER FOR CONTROLLED
Nixon bombed Hanoi.〈ニクソン=ニクソンが命令した軍〉
Ozawa gave a terrible concert last night.〈小澤(指揮者)=小澤が率いる楽団〉

INSTITUTION FOR PEOPLE RESPONSIBLE
You’ll never get the university to agree to that.〈大学=大学の責任者〉
The Army wants to reinstitute the draft.〈軍=軍の責任者〉

THE PLACE FOR THE INSTITUTION
The White House isn’t saying anything.〈ホワイト・ハウス=米国政府〉
Wall Street is in a panic.〈ウォール街=米国金融業界〉

THE PLACE FOR THE EVENT
Let’s not let Thailand become another Vietnam.〈ベトナム=ベトナム戦争〉
Pearl Harbor still has an effect on our foreign policy.〈真珠湾=真珠湾攻撃〉


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2010年04月09日

The Process of Communication Accommodation

今回は、Communication Accommodation Theory(以下、CAT)について扱っている文献を紹介する。

Giles, Howard. 2009. "The Process of Communication Accommodation." In Nikolas Coupland and Adam Jaworski (eds.), The New Sociolinguistics Reader. 276-286. Palgrave Macmillan. (chapter 19)

著者のGiles氏は、場面に応じて自分の話し方が異なることに気づいた。
それはことばづかいに一貫性がなく、恥ずべきことなのだろうか。
そうではなく、人々は戦略的に、効果的に話し方を変えているのではないだろうかと考え、彼はCATの着想を得た。
Giles氏がもともと社会心理学を専門とすることもあり、CATは言語だけでなく、声の調子、非言語などを含む学際的研究として注目を集めている。

*****

But we now know that this claim of sociolinguistic consistency is simply false, and that we all are, to varying degrees, sociolinguistic chameleons, but strategically and often usefully so. (p. 277)

私たちはどんな場面でも一貫した話し方をしているというわけではなく、相手や状況によって戦略的に、自分にとって有益になるように話し方を変えている。会話の参加者が、お互いのコミュニケーション上の差異をなくそうとしたり、逆に広げたりしようと調節する過程をアコモデーション(accommodation)という。まったく別の言語にスイッチする場合から、同一言語の文体の変更、語彙の選択までさまざまなレベルで観察される。

アコモデーションには、自分を受け入れてもらいやすくするために聞き手の話し方に合わせる収束(convergence)と、自分の聞き手とのちがいを強調し聞き手と距離をとる拡散(divergence)がある。CATの課題は、人々がなぜ、そしてどのように収束したり拡散したりするのかを解明することにある。

収束することでコミュニケーション上の類似性を高めると、たとえお互いのことをよく知らない初対面の相手でも、相手の反応も見越すことができる。会話における不安が軽減され、満足感が増す。また、収束は相手に自分のことをわかってもらう上でも有効である。たとえば、医者が患者に専門用語を使わず一般的なことばで説明することで、患者の理解は深まりすすめられた治療法に従うようになる。さらに、患者の感情面にも効果がある。

収束する上で重要なことは、話し手は、聞き手が望んでいると話し手が想定した会話のスタイルに合わせるのであり、主観的には収束のつもりでも客観的には拡散をしてしまう場合があることだ。高齢者へ話しかけるとき、ありがちな高齢者のイメージに基づいてゆっくりと簡単なことばで話しかけたとする。相手への好意のつもりであったとしても、活動的で認知的にも衰えのない人にとっては、恩着せがましく屈辱的だと受け取られるかもしれない。相手に合わせようとしすぎるとかえって失敗してしまうこともあるのだ。

相手との差異を広げる拡散は、相手にとって否定的な印象を与えることになるが、自身の社会的アイデンティティを維持したり強調するという積極的な意味合いがある。少数民族の言語復興運動(多数派の言語からの拡散)や、若者ことばの創造(大人のことばからの拡散)など、拡散も幅広く行われ、言語とコミュニケーションのあり方を変えうる力ももっている。

結局のところ、満足のいくコミュニケーションには、収束(コミュニケーションをする意志を示すこと)と、拡散(自分の属する集団のアイデンティティを健全に示すこと)の絶妙なバランスにかかっているようだ。この理論はまだ言語と談話の詳細を十分に明らかにしているとはいえないが(それは言語研究とは異なる分野で生まれたことにもよる)、社会言語学にかかわる現象、過程やコンテクストを解明する可能性はすでに認められ、今後はさらに利用されていくはずである。

*****

自分と同等の立場の初対面の人が「です」「ます」口調をやめてタメ口で話してきたとしたら、それに応じる(収束する)だろうか、応じないだろうか。
携帯電話のメールにおける文体と絵文字は、相手によって使い分けているだろうか。
収束・拡散を視野に入れて振り返ってみるのも、おもしろそうだ。

参考文献
東照二. 1997. 『社会言語学入門: 生きた言葉のおもしろさにせまる』 研究社.(4.2節)
橋内武. 1999. 『ディスコース: 談話の織りなす世界』 くろしお出版.(第14章)
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2009年03月13日

Metaphors We Live By 第6章

第6章、存在のメタファー。
これで本書で3種類に分けられるメタファーのすべてが出揃った。

これを読んでいかに人間が境界のないものに境界を与えているかがわかった。普段は山っていうものがあると思い込んでいるけれども、言われてみれば、どこからが山でどこからが谷かなどというのは自然に決まっているわけではなく、人間がそうだと決めているだけだ。

人間が確かだと思っているものも、全然確かなものなんかじゃないのかもしれない。

*****

6. Ontological Metaphors
Once we can identify our experiences as entities or substances, we can refer to them, categorize them group them, and quantify them―and, by this means reason about them.(p. 25)


空間の方向づけから得られる概念を理解するための基盤は豊かではあるが、限られてもいる。それに対して、物体(objects)や内容物(substances)の経験からは、さらなる基盤を得ることができる。私たちの経験を物体や内容物を通して理解することで、経験を抜き出し、それを個別の存在物(entities)やある一つの種類の内容物として扱うことができる。それらは、「存在のメタファー」(ontological metaphors)と呼ばれる。存在物や内容物と同一視してしまえば、それに言及したり、カテゴリーやグループに分けたり数量化したりでき、そして、そうすることでそれらを推論することができる。

山のように境界がはっきりしていないものでも、私たちは境界のあるものとしてカテゴリー化している。それは、山の位置を突き止めるなどの目的を満足させるためである。同様に、存在のメタファーもさまざまな目的にかなっている。私たちの使う存在のメタファーの範囲はきわめて広い。そうした目的の種類と代表例をみてみよう。

Referring
My fear of insects is driving my wife crazy.
We are working toward peace.

Quantifying
It will take a lot of practice to finish this book.
You’ve got to much hostility in you.

Identifying Aspects
The ugly side of his personality comes out under pressure.
I can’t keep up with the peace of modern life.

Identifying Causes
The pressure of his responsibilities caused his breakdown.
He did it out of anger.

Setting Goals and Motivating Actions
He went to New York to seek fame and fortune.
She saw getting married as the solution to her problems.

方向のメタファーがそうだったように、これらの表現の大部分がメタファーだとはわからない。その理由のひとつは、目的が言及や数量化などに限定されているからだ。存在のメタファーは単に存在物や内容物とみなすだけではなく、手の込んだものでもある。次に示す例はTHE MIND IS AN ENTITYがいかに手の込んだものかを示すものである。

THE MIND IS A MACHINE
My mind just isn’t operating today.
Boy, the wheels are turning now!
I’m a little rusty today.

THE MIND IS A BRITTLE OBJECT
Her ego is very fragile.
She is easily crushed.
The experience shattered him.

こうしたメタファーによって、mindがどんなものであるのかについてさまざまなモデルが得られ、心理的な経験の持つさまざまな側面に焦点を当てることができる。機械のメタファーから、mindには入―切の状態、効率の水準、作動状態などがあることがわかる。心理的な経験の中にはこれらのメタファーを介さないと思い及ばない領域もある。

He broke down. (THE MIND IS A MACHINE)
He cracked up. (THE MIND IS A BRITTLE OBJECT)

機械が故障したら(break down)、その働きが停止するだけだが、もろい物体が砕けたら(crack up)、その破片が飛散する。したがって、だれかが気が狂って暴れたらHe cracked up.と言うのが適切だし、無気力で働けなくなったらHe broke down.と言うだろう。

存在のメタファーはとても自然で私たちの思考に浸透しているので、普通は心理的な現象を直接記述したものだと受け取られる。私たちはメタファーによって得られるモデルによって思考し、活動しているのだ。

存在のメタファーのうちのひとつに、「容器のメタファー」(container metaphors)というのがある。 私たちは外界と境界を接する表面(皮膚)と内外(肉体の内と外)という方向性をもつひとつの容器なのである。これを他の物体にも投影し、容器とみなすことができる。土地の領域についていえば、森の中(in)や外に(out of)いるという表現ができる。壁であれ、生垣であれ、抽象的な線や面であれ、内側と境界面をもつような領域を区分けする。そうすると、There’s a lot of land in Kansas.のように内側に内包する内容物は数量化される。

また、視界もひとつの容器として概念化される。VISUAL FIELDS ARE CONTAINERというメタファーは、ある領域を見たとき、視力の及ぶ範囲がその領域を限定するという事実から発生する。たとえば、The ship is coming into view.やHe’s out of sight now.となる。

出来事(events)、行為(actions)、活動(activities)、状態(states)にも存在のメタファーが利用される。

Are you going to the race?
There was a lot of good running in the race.
How did Jerry get out of washing the windows?
He’s in love.
We’re out of trouble now.

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Metaphors We Live By 第4章

第4章、方向づけのメタファー。
メタファーについて勉強するようになってから、日本語の中のメタファーにも気づくようになった。この読書会をやっているときに、たまたま飲んでいたほうじ茶のペットボトルに「上質な香り」と書いてあって(うろ覚え、たしかそんな感じ)、これは「良いことは上」のメタファーだなと。いかにメタファーが日常的な表現に浸透しているかがわかる。

ただ、難しいのはこうしたメタファーがあることがわかっても、実際に使われる語彙のすべてがわかるわけではないことだ。たとえば、英語と同様、日本語にも「嬉しいことは上、悲しいことは下」というメタファーがある。たとえば、「気分は上々」という表現。しかし、「気分は下々」とは言わない。「彼は落ち込んでいる」と「彼は落ち着いている」は同じ「落ちる」ということばを使いつつも、その意味するところはだいぶちがう。

どんなことばが使われ、どんなことばが使われないか。
なぜある表現は慣用的で、ある表現は慣用的でないか。
不思議だけど、おもしろい。

*****

4. Orientational Metaphors
We will call these orientational metaphors, since most of them have to do with spatial orientation.(p. 14)
They have a basis in our physical and cultural experience. (p. 14)


これまで扱ってきたのは、「構造のメタファー」(structural metaphors)、つまりある概念が他の概念が他の概念を通すことで、メタファーによって構造を与えられる場合である。しかし、メタファーには別の種類のものがある。ある概念の全体系を他の概念との関係によって構成するものである。それは「方向づけのメタファー」(orientational metaphors)とよばれる。というのは、こうしたメタファーの多くは、上―下、内―外、前―後、着―離、深―浅、中心―周辺といった空間の方向性に関係があるからだ。方向付けのメタファーは、ある概念に空間的方向性を与える。

メタファーに使われる方向性は恣意的なものではない。肉体的経験と文化的経験に基づいている。上―下、内―外は物理的性質のものだが、それらに基づく方向のメタファーは文化によって異なりうる。

実際に上―下のメタファーを見てみよう。そのメタファーが生まれる基盤についても言及してみる(あくまで示唆するにとどまるもので、決定的な説明だとは考えていない)。

HAPPY IS UP; SAD IS DOWN
I’m feeling up. My sprit rose. That boosted my spirits. I’m feeling down. I’m depressed. My spirit sank.
肉体的基盤:悲しいときはうなだれた姿勢であり、元気なときはまっすぐした姿勢である。

HEALTH AND LIFE ARE UP; SICKNESS AND DEATH ARE DOWN
He’s peak of health. He’s in top shape. He fell ill. He came down with the flu.
肉体的基盤:重い病気であれば人は横たわり、死ねば倒れた状態になる。

HAVING CONTROL OR FORCE IS UP; BEING SUBJECT TO CONTROL OR FORCE IS DOWN
I have control over her. His power rose. He is under my control. His power is on the decline.
肉体的基盤:体が大きいと体力もある。戦いの勝者は上に立つ。

MORE IS UP; LESS IS DOWN
The number of books printed each year keeps going up. My income rose last year. The number of errors he made is incredibly low. His income fell last year.
肉体的基盤:容器の中や山積みのものに、物質や物体を加えると高さが上がる。

RATIONAL IS UP; EMOTIONAL IS DOWN
The discussion fell to the emotional level, but I raised it back up to the rational plane. We put our feelings aside and had a high-level intellectual discussion of the matter.
物理的文化的基盤:人間は他の動植物を支配している。人間がすぐれているからであり、理性的にものを考えることができるからだ。そこで、CONTROL IS UPがMAN IS UPの基盤になり、さらにそれがRATIONAL IS UPの基盤となっている。

以上のことから、次のことを結論として提案したい。

・私たちの基本概念は、一つあるいはそれ以上の空間関係づけのメタファー(spatialization metaphor)によって構成されている。

・空間関係づけメタファーには内的な体系性がある。HAPPY IS UPは孤立した無関係の例集まりではなく一貫した体系を示している。

・空間関係づけメタファーには、メタファー間の外的な体系性もあり、それがメタファー間に一貫性(coherence)を与えている。GOOD IS UP、HAPPY IS UP、HEALTH IS UPとALIVE IS UPの関係、STATUS IS UPとCONTROL IS UPの関係は一貫している。

・メタファーの肉体的・社会的基盤となりうるものは多くある。なぜあるものが選ばれ、他のものが選ばれないか、その理由の一部は全体の体系の一貫性にようようだ。たとえば、happy is wide(例としてI am feeling expansive.〈大らかな気持ち〉がある)よりもhappy is upが主要なメタファーであるのは、good is upやhealthy is upとの一貫性によるのだろう。

・肉体的・文化的な経験は空間関係づけのメタファーの基盤となるが、どの基盤が選ばれ、主要なものとなるかは、文化によって異なる。

メタファーの基盤となる経験については、まだよくわかっていない。ただ、どんなメタファーも、その経験上の基盤から切り離せば、理解できず十分に表現されることはない。異なった経験に基づいているため、一致しないメタファーもある。UNKNOWN IS UP(例はThat’s up in the air.〈未決定〉やThe matter is settled.〈落着〉)はUNDERSTANDING IS GRASPINGと経験の基盤は似ている。しかし、GOOD IS UPやFINISHED IS UPとは一貫していない。それは経験の基盤が異なるからである。

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2009年03月07日

Metaphors We Live By 第3章

第3章は、メタファーを用いた理解では焦点が当たるところと隠れてしまうところがあると述べられている。
認知言語学の入門書で多少メタファーについては知っていたつもりだったけど、本によってはあんまりこの点はちゃんと紹介されていなかった気がする。
やっぱり原書にあたる必要はありますね。

*****

3. Metaphorical Systematicity: Highlighting and Hiding
The very systematicity that allows us to comprehend one aspect of a concept in terms of another will necessarily hide other aspects of the concept.(p. 10)


メタファーの体系性によって、私たちはある概念の一側面を他のものを通して理解することが可能になるが、これは必然的にその概念の他の側面を隠すことにもなる。メタファーから成る概念により概念のある側面には焦点が当たるが、メタファーとは一致しない他の側面には焦点が当たらなくなってしまう。たとえば、議論のもつ戦闘的側面にとらわれると、議論の協調的側面はしばしば見落とされてしまう。

さらにとらえにくい例は、「導管メタファー」(conduit metaphor)において見られる。それは言語についての私たちの言い回しに関するメタファーであり、次のような複合的なメタファーによって構造化されている。

IDEA (or MEANING) ARE OBJECTS.〈考え(あるいは意味)は物である〉
LINGUISTIC EXPRESSIONS ARE CONTAINERS.〈言語表現は容器である〉
COMMUNICATION IS SENDING.〈コミュニケーションは送ることである〉

話し手は考え(物)をことば(容器)につめてそれを(導管を通して)聞き手に送る。聞き手は考え(物)をことば(容器)から取り出す。いくつか実例をみてみよう。

The CONDUIT Metaphor
It is hard to get that idea across to him.〈通じさせる=わからせる〉
I gave you that idea.〈あげる=教える〉
Your reasons came through to us.〈伝わる=腑に落ちる〉
It’s difficult to put my idea into words.〈ことばの中に入れる=ことばにあらわす〉
The sentence is without meaning.〈意味がない〉
The idea is buried in terribly dense paragraph.〈文章の中に埋もれる〉

これらの例から、メタファーによって何が隠されているのか気づくのは難しい。そもそもメタファーがあると気づくことすら難しい。それだけ言語について言及する表現が慣習化しているのだ。しかし、導管メタファーが含意するものをみれば、コミュニケーションのプロセスのいくつかの側面が隠されていることがわかる。

まず、導管メタファーのLINGUISTIC EXPRESSIONS ARE CONTAINERSという側面は、語や文が文脈や話し手とはとは無関係に意味をもっていることを含意し、MEANINGS ARE OBJECTSという側面 は、意味そのものも人や文脈とは無関係に存在していることを含意する。

しかし、文脈が問題となる場合も多くある。次の文は実際の会話の中で記録された有名な例である。

Please sit in the apple-juice seat.

文脈を抜きにすると、この文はまったく意味をなさない。しかし、この文が発話された文脈のなかでは完全な意味をもっている。朝食時に四つの席があり、そのうち三つにオレンジ・ジュース、一つにアップル・ジュースが置いてあった。apple-juice seatが何を意味しているかは明らかであった。

We need new alternative sources of energy.という文は、石油会社の社長が言うのと環境保護団体の会長が言うのとでは、意味するところはまったくちがう。文に意味があるのか、あるならどんな意味があるのかを決めるのに文脈が必要とされる場合には、導管メタファーは当てはまらないのである。

これまでみた例から、メタファーから成り立つ概念は、コミュニケーション、議論、時間について部分的な理解しか与えないことがわかる。そのため、これらの概念の他の側面を隠してしまう。メタファーが与える構造が関わるのは部分的であり、全体ではないのだ。たとえば、時間は実際にはお金とはちがう。時間を使う(spend your time)ことはできても、それを取り返すことはできない(can’t get your time back)のだ。

メタファーから成り立つ概念は文字通りの意味を超えていわゆる比喩的な、詩的な思考やことばにまで拡張されうる。 概念がメタファーによって構造化されるというのは、概念は部分的にメタファーによって構造を与えられるということであり、またある面には拡張できるが他の面にはできないということを表す。

*****

言語を研究する人にとっては、朝食時の何気ない会話からも考えのきっかけが生まれるってことを実感する。
でも、それは普段から言語のことを考えていた結果だろう。
最初からアンテナを張っていないと、いくらそうした表現に出会ってもキャッチできないだろうから。


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