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■大学芋はなんで「大学芋」という名前?「大学」+「芋」=「大学芋」と単純にはいえない。そう考えると、ことばには不思議がいっぱい。「大学芋」をきっかけにことばについて考えるブログです!
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2015年03月31日

飯間浩明著『辞書を編む』を読んで

今回、新しく採用された項目の中にも、「盲点だった」と思われることばが多く入りました。たとえば 「見ろ」なんていうのもその例です。「見ろ」は動詞 「見る」の命令形でしょう、と言われるかもしれませんが、感動詞としても使います。 「見ろ、だから言わないこっちゃない」の 「見ろ」は 、「ほら」「言ったとおりだろう」といった意味合いで発することばです。動詞 「見る」として説明するよりも 、感動詞 「見ろ」を新たに立てたほうが自然です。(飯間浩明『辞書を編む』「第3章 取捨選択」より)

言語学を勉強しているというと、辞書にも詳しいと思われるかもしれないが、言語学と辞書の関係は、一般的に思われているよりは近くないのかもしれない。辞書をつくる上で言語学が生かされるのはまちがいないが、言語学の知見がそのまま利用できるというものでもない。だれに向けてどんな目的で辞書をつくるのか、使用者が望む辞書はどんなものか、商品化するにあたってどんな制約があるかなど、辞書には辞書の事情がある。言語学の研究上、さまざまな形で辞書を参照するが、とりあえず自分の場合は、それだけでは必ずしも辞書に詳しくなるわけではなかった。でも辞書のことをもっと知りたいという思いもあって、手に取ったのが飯間浩明著『辞書を編む』(光文社新書、2013年)だった。Twitterで飯間先生の日本語観察の鋭さと誠実な語り口を拝見して、飯間先生の本を一冊読んでみたいと思っていたというのもある。

『辞書を編む』では、著者の飯間先生が編纂に携わった『三省堂国語辞典 第七版』(以下、『三国』)に関する話を中心に、辞書の魅力、『三国』とほかの辞書のちがい、日々の生活の中での用例の採取、意味を記述することの難しさやおもしろさなどが語られている。説明が丁寧でわかりやすく、また飯間先生の実体験なども多く書かれているので、小説『舟を編む』で辞書に興味を持った人はもちろん、これまで特に辞書についてあまり意識したことがないという人でもきっと楽しめると思う。

読んでいて、英語学習との関連で印象に残ったことを書いておきたい。冒頭で引用したように『三国』では、「見る」のほかに「見ろ」を新項目として追加している。言われてみると、たしかに、「見ろ」は単に見ることを指示するとき以外にも使っていることに気づく。実際に『三国』を引いてみると、「見ろ、今のせりふ聞いたか」という例文が載っている。一見何の変哲もない表現ように見えるが、日本語を母語としない人からすると「見る」なのに「聞く」なのか、と混乱してしまうかもしれない。なぜ「見ろ」に人の注意を引くことばとしての用法があるかは、とりあえず深入りしないが(言語学ならそれも研究対象になる)、ある語が特定の活用形を取ったときに、ほかの活用形よりも偏った用法に特化していたり、独自の用法を発展させているというのは、英語でも見られる。

たとえば、動詞consume(消費する)は、energyやoilなどのエネルギーを表す語やtimeなど時間を表す語と使う。これがconsumingという形になると、time-consuming(時間がかかる)のようにtimeとともに使うことが顕著に増える。また、consuming passion(燃えるような情熱)のようなフレーズも比較的定着しているようだ(be consumed with passionのように、passionがほかの活用形のconsumeと使うこともないではないが、使用例はかなり少ないようだ)。

実際、英英辞典などを見ると、consumingやtime-consumingはそれぞれ独立した見出しで解説されていることが多い。英語を学習する身からすると、consumeという語を知っていると、その一活用形のconsumingをわざわざ辞書で確認しなかったりするが、こういうとろこに注意を向けていないと、consuming passionを「消費する情熱」などと考えて、わかるようなわからないような状態になったり、「時間がかかる」というときにサッとtime-consumingを思いつかなかったりするかもしれない。

このように、特定の活用形に、それ以外の活用形から必ずしも予測できない用法が見られることはわりとあって、そういった面にも気を配りながら英語を学習するのが重要になるのだが、個人的にはそれを日本語を例にして実感できるような思いで本書を読んでいた。辞書づくりと外国語学習は、意外と似たところもあるのかもしれない。

ほかにも「来る」とは別に「来た」を新項目として立てた話も出てくる。人に何か頼まれたときに答える「よし来た」という用法や「コンビニもないときたもんだ」といった用法では、たしかに「来る」とは(関連しつつも)だいぶ離れた用法だと感じられる。それでも、母語話者としては特に違和感もなく普通に使っているところがおもしろいなと思う。日本語の辞書をつくる人というのは、まるで日本語を自分が知らない言語であるかのように新鮮な気持ちで眺めることが必要なのだろう。飯間先生の観察には、そういう新鮮さにあふれていて、読んでいて爽快感があった。

あと、「潔い」が「いさぎ・よい」と分解されたことから生じる「いさぎのよい」「いさぎない」などについても言及があった。これについては、「「いさぎ悪い」という表現を考える」という記事で自分も以前取り上げたことがあって、飯間先生と同じ現象に関心をもったことをうれしく感じた。

ちょうど『三国 第七版』の編纂中に書かれた本なので、『三国』の改訂に関わる話が多いが、この本を読んだらきっと『三国』を手に取ってみたくなるだろう。現在はスマートフォン用のアプリ版も出ているので、さらに気軽に『三国』に触れることができる。

なお、英語のconsumeの話は、以下の本を参考にした。実際に自分でもコーパスと呼ばれる用例のデータベースを検索してみた(Corpus of Contemporary American English)。
Stubbs, Michael. 2001. Words and Phrases: Corpus Studies of Lexical Semantics. Oxford: Blackwell.

辞書を編む (光文社新書) -
飯間浩明
辞書を編む
光文社新書


三省堂国語辞典 第七版 -
三省堂国語辞典 第七版

関連記事:
「いさぎ悪い」という表現を考える
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2012年02月22日

システム英単語/刀祢雅彦・霜康司

以前、教育実習で母校に行ったときに授業をしたのが、高校2年生の英語でした。そのとき、学校指定教材のひとつが『システム英単語』(刀祢雅彦・霜康司著、駿台文庫)という単語集で、クラスでは毎週単語テストも行われていたのですが、生徒によっては単語の学習方法に困っているようだったので、以下のようなコラムを作って生徒に配布しました。

久しぶりに読み直してみて、『システム英単語』の紹介記事として、あるいは、英単語を覚えるときにどんなことに注意すればよいのかという話として役に立つかもしれないと思い、ブログに載せてみることにしました。もともとは高校生に向けて書いていますが、高校生以外の英語に興味がある方が読んでも得るものがあるように、少し手を加えました。やや長いので、さくっと読みたい方は補足の部分(*)は飛ばして読んでも大丈夫です。

*****

単語を覚えることの重要性
英語学習で大事なことのひとつは、単語を覚えることです。単語はわかっているけど文法が難しくて読めない英語の文というのはありますが、単語がわからなければ、文法の難しさに関係なく普通は意味がつかめません。

たとえば、長文を読んでいてHe apologized to his parents for the wrong he had caused them.(彼は自分が両親にかけた迷惑を詫びた。) という文が出てきたとします。このとき、apologize、causeといった単語がわからなければ、もうほとんどこの文の意味をつかむことができないでしょう。もちろん前後の文脈がヒントになって単語の意味がわかることもあります。しかし、それには前後の文の意味が理解できていなければならず、前後の文にも知らない単語がいくつもあるというのでは、文脈をヒントにするといった高度な能力を使うこともできません。

英語の難しさはまず未知の単語の数にあるのです。もちろん単語だけが英語の難しさではありませんが、単語を覚えることが英語学習の必要不可欠な要素であることには納得してもらえると思います。

文法は学校の授業でも扱われ注意が向けられるのに対して、単語はとにかく覚えろと言われるだけかもしれません。しかし、単語もただ訳を覚えるだけでなく、その使い方まで覚えることが重要です。ここでは単語の使い方で注意すべきものを3つ紹介します。

*補足 上記の例文では、causeが第4文型で用いられており、cause A Bは「AにBをもたらす」という意味です。ここでは、Bの名詞(直接目的語)が関係代名詞になっていてその上省略されています(先行詞はthe wrongで「迷惑」と訳されています)。themはhis parentsのことです。


単語の使い方(1) 動詞の文型
単語の使い方を覚えるというのは、どういうことでしょうか?まず、動詞についてみてみましょう。動詞の使い方で重要なのは、どの文型で使うかです。英語には5種類の文型があると習いますが、動詞によってどの文型で使えるかは異なります。

たとえば、causeは第3文型、第4文型、第5文型の3つの使い方があります。実際の文でどの文型として使われているのかはその都度判断しなければなりませんが、正しく判断するためにも、まずは単語の知識として3つの用法があることを知っている必要があります。

もしcauseを「引き起こす、もたらす」としか覚えていなかったら、He apologized to his parents for the wrong he had caused them.「彼は両親にそのまちがいを謝り、彼はそれらを引き起こした(?)」などと間違えてしまうかもしれません(第4文型で使うことを知っていれば、関係代名詞に気づきやすくなるでしょう)。

単語の使い方(2) 前置詞との組み合わせ
apologizeという動詞について考えてみます。例文は再びHe apologized to his parents for the wrong he had caused them.です。

apologizeをただ「謝る」とだけ覚えているとto…、for…がそれぞれ何を表しているかに気づくのに時間がかかる(あるいは最悪気づかない)可能性があります。長文を読むときに「このforは何だっけ?」といって時間を使うのはもったいないのです。apologizeは謝る相手をto…、謝る理由をfor…で表すと決まっています。それを覚えておけば、apologizeが出てきたときにto…やfor…の心構えができ、無駄な時間を使わずに読むことができます。そして、何より「He apologize to his parents ( ) the wrong. の空欄を埋めなさい」という問題が解けるようになります(こういう前置詞を問う問題も少なくありません)。grateful「感謝する」という形容詞のときも同様です。I’m most grateful to you for your advice.(ご忠告にとても感謝しています。)という文では、感謝する相手をto …、感謝する理由をfor…で表現しています。

いっしょに使われる前置詞がある場合、それも覚えることで、英文が読むスピードが上がり、英作文の正確さも期待できます。

*補足 なぜtoを用いるのか(たとえばwithではなくて)を説明するのは難しいことです。おそらく英語を日常的に使っている人に聞いてもうまく説明できないと思います。それは日本語では「ガラスつかむ」とは言うけれど「ガラス触れる」とは言わない(「ガラス触れる」と言う)のはなぜかを説明するようなものです。ぼくは大学では英語の前置詞や日本語の助詞の使い方も勉強しています(言語学という分野です)。


単語の使い方(3) その他の組み合わせ
severeとstrictはともに形容詞で「厳しい」と訳すことができます。しかし、天候を説明するときにはsevere(severe winter weather「厳しい冬の天候」)、規則を説明するときにはstrict(strict rules「厳しい規則」)を使います。同じ「厳しい」と訳されることばでも、意味の重点がちがうのです。単語を覚えるとき、どのようなことばと相性がよいかまで意識できるとなおよいという例です。

『システム英単語』を使おう
では、単語の使い方まで覚えるにはどうしたらよいでしょうか?それには、『システム英単語』が便利です!『システム英単語』は単語の使い方にまで配慮した非常に優れた単語集です。厳選されたフレーズ(ミニマルフレーズと呼ばれています)をそのまま覚えるだけで、上記の単語の使い方(1)-(3)の大部分をカバーできます。

また、覚えるべき単位としてコンパクトなフレーズを採用したことで、例文が難しすぎるということはありません(複雑な関係代名詞が出てきたり、例文中にさらに難しい単語が出てくるという心配は不要です)。実は、He apologized to his parents for the wrong he had caused them.というのは『英単語ターゲット1900』のapologizeの項目に出てくる例文です。apologizeを覚えるための例文としては、少し高度かもしれません。『システム英単語』では、apologizeを覚えるフレーズとして以下のものが挙げられています。

apologize to him for being late 遅れたことを彼に謝る

コンパクトでありながら、必要な情報はしっかりとフレーズの中に入っています。さらに、「[Q] I apologize him.はどこがいけない? [A] I apologize to him.が正しい。自動詞なので、人の前にtoが必要。」という補足情報も記載されています(『英単語ターゲット1900』には、文型や前置詞に関する情報は書かれていません)。先ほど紹介したsevereとstrictの例も、同じく『システム英単語』のものです。

*補足 実際の文章中には、He apologized to his parents for the wrong he had caused them.のような例も平気で出てくるので、そういう意味では『英単語ターゲット1900』は実践的です。ただ、そういう実践は長文を読むときにやることになるので、単語集という単語を覚えるための本では、『システム英単語』のようにシンプルな形で整理されている方が便利な気がします。もちろん『システム英単語』では足りない部分もあるので、そういう場合は辞書を引きましょう。辞書がいかに(1)-(3)の情報に紙面を割いているのかわかると思います。ためしに、causeについて一度英和辞典で確認してみてください。


『システム英単語』は、フレーズの質の高さ、収録語の数、レイアウトの良さ(豪華三色刷り)、補足情報の適切さのどれをとっても一番ではないかと思っています。実際ぼく自身も高校生のときに使っていました。

長々と説明してきましたが、単語を覚えるときに注意すべき単語の使い方と、『システム英単語』のよさが伝わればうれしく思います。

*補足 この記事を書いてから気づいたのですが、昨年出た『英単語ターゲット1900』の改訂版では、apologizeの例文はI do apologize for any inconvenience I have caused.に変わっていました。ただ、『英単語ターゲット1900』の基本姿勢(例文を実際に入試問題から選んで載せていることが多い)に関しては変わっていなかったため、今回の記事はそのままにしておきました。


システム英単語 (駿台受験シリーズ) [単行本]
刀祢 雅彦, 霜 康司 (著) 駿台文庫

システム英単語 (駿台受験シリーズ) [単行本] / 刀祢 雅彦, 霜 康司 (著); 駿台文庫 (刊)
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2011年05月31日

素人のように考え、玄人として実行する/金出武雄

 実際、専門家というのは、「こういう時にはこうすればうまくいくはずだ」「こういうときにはそうしてはならない」というパターンを習得した人である。その分野を知っているだけに発想を生む視野が狭くなってしまう。
 もともと発想は「こうあって欲しい」「こんな具合になっているのではないか」という希望や想像から生まれる。希望や想像は知らなくてもできる。とらわれがないとかえって斬新な発想を生み出す可能性がある。「できるのだ」という積極的態度につながる。
 しかし、発想を実行に移すのは知識が要る、習熟された技(わざ)が要る。考えが良くても、下手に作ったものはうまく動かない。やはり、餅は餅屋なのだ。(p. 8)

金出武雄. 2004. 『素人のように考え、玄人として実行する』 PHP文庫.

去年も今年も、大学院の授業だけでなく学部の授業にも顔を出している。学部の授業には、大学院の授業とは別のおもしろさがある。大学院生なら疑問を持たないようなことを質問したり、実際に調査できるかを脇に置いて、自分のアイデアを言ったりする学生がいるからだ。

そんな学生を見て思い出すのが、上記に引用した金出武雄氏の『素人のように考え、玄人として実行する』だ。

なまじ知識があると、既成の理論や枠組みに従いすぎてしまい、その考え方を疑ったり、それが当てはまらないものに対してきちんと考えなかったりするのかもしれない。後輩の先入観がないがゆえの斬新な質問や意見に、自分もそうした素朴な疑問を抱くことから言語学の勉強を始めたのだという思いを強くした。

自分の場合まだ玄人とは言えないまでも、何らかの疑問を思いついたときにそれを回答可能な問いに加工したり、関連のある研究を見つけたり、実際に調査して論を展開していく力が、少しはついてきた。そのような力は引き続き伸ばしていくとして、もっともっと素人発想を取り入れていきたい。そのためのチャンスは、自分の気持ち次第でどこにでもあるのかもしれない。学部の授業での後輩との交流や他分野の人との議論はもちろん、バイト先の塾の生徒の質問に答えたり家族との会話も、なんでも学びの場にできるんだなと思う。

素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 (PHP文庫) [文庫] / 金出 武雄 (著); PHP研究所 (刊)
素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 (PHP文庫) [文庫] / 金出武雄






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2010年08月28日

英語の歴史

およそ1500年にわたる英語の歴史をた辿ってみると、それはまさに波乱万丈の物語である。(p. i)
寺澤盾. 2008. 『英語の歴史:過去から未来への物語』 中公新書.

英語が好きで、さらに歴史が好きならば、英語の歴史、つまり英語史はきっと楽しいと思う。
英語史は英文科には必ず設置されている科目で(必修ではないかもしれない)、英語史の本というのもたくさんある。その中でも、本書『英語の歴史』は、現代英語との関連を意識したうえで英語の歴史を語っていく点が親しみやすい。

一般的な英語史の本では、古代の英語(古英語)から現代英語の特徴がほぼ出揃った近代英語を概観して終わりだが、本書は国際語としての英語、差別撤廃運動における英語など、まさに現代の英語についての話題が多いのが特徴だ。

また、英語が日本語から取り入れた語彙についても扱っている。たとえば、「大君(たいくん)」はtycoonとして英語に取り込まれ、現在はoil tycoon(石油王)などの用法がある。日本語ではもはや日常的に使わない語が、意外な形で生き延びているものだ。karaokeは動詞としても用いられ、Yesterday I karaoked all night long.(昨日は一晩中カラオケで歌った)のように使うことも可能だそうだ。karaokeが過去形になっているのはなんだか不思議な感じがする。

個人的に興味を引かれたのは発音や文法面での記述。
英語の代名詞はIに対してwe(一人称)があり、he、she、itに対してthey(三人称)があるというように複数形があるが、youだけはない。かつては二人称にも単数形thouと複数形yeがあり、シェークスピアも使い分けていた。その単複の区別がなくなる過程もおもしろいが、二人称の複数形が一部方言で復活しつつあるというのもまたおもしろい。you all(縮約形y'all)やyou guys、you peopleなどがそれで、将来標準英語にも取り込まれることもあるかもしれないとのこと。このように、過去から現代だけでなく、未来への言及があるのが新鮮。
他にも、発音の変化や助動詞の意味の変化、疑問文にあらわれるdoが登場する過程などなど。

実はけっこう専門用語が登場するのだが、具体例を絡めながら無理なく説明されるのであまり気にならない(ただし、発音の部分は音声学の知識なしだとちょっとつらいかもしれない)。新書のわりには英語史年表、文献案内、索引など充実しているので、ちょっと興味がわいた人から英語史の授業の補助として使いたい人まで、幅広くおすすめ。

1500年分の歴史に触れてみると、英語が今とは別の形になっていた可能性があったことがわかる。それは身近な人の普段見せない意外な一面を見るようでおもしろい。

英語の歴史―過去から未来への物語 (中公新書)

英語の歴史―過去から未来への物語 (中公新書)

  • 作者: 寺澤 盾
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2008/10
  • メディア: 新書


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2010年08月25日

ドイツ語のおすすめ参考書

8・9月は大学院も夏休み。
夏休みといえば、大学院の入試をやっているところも多いのではないだろうか。
そういう自分も去年の夏休みは受験勉強中だった(受かったのは3月だけど)。

うちの大学院は第二外国語も必要で、英語だけでなくドイツ語もけっこう勉強した。入学してからはなかなか勉強できていないが、ドイツ語学習の情報は少ないと思うので、今回はドイツ語の参考書を紹介します。

ちなみに、これまでに取り上げたドイツ語の本は以下の通り。
『ドイツ語のしくみ』
『ゼロから始めるドイツ語チェックテスト』
『はじめてのドイツ語』


新・独検合格 単語+熟語1800

新・独検合格 単語+熟語1800

  • 作者: 在間 進
  • 出版社/メーカー: 第三書房
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 単行本



ひょっとしたら、実際上は語彙の方が文法規則より重要かなと思うことがあります。文法規則は、語句と語句の関係で、したがって単語の意味がわからなくては、どんな文法関係があるのかも知りようがないからです。(p. 3)
左ページに単語と意味、右ページに例文という見開きの構成。
オーソドックスなドイツ語の単語集だが、意外にこういう普通の単語集が少ない(名詞の項目だけ例文がないのが残念)。単語と意味が載っているだけだったり、旅行の時に使うための単語集はけっこう発売されているんだけど。
独検4・3級用の単語集だが、要するに基礎語彙が載っているということなので、ドイツ語をしっかり勉強したい方で、単語集を探している方はぜひどうぞ。例文を吹き込んだCDもおすすめ。
ぼくが使ったのは2004年に出た版のものだけれど、今年改訂版が出たみたいなので、リンクはこっちを張っておきます。


ドイツ語の小説を読む〈1〉ベル:きまぐれな客たち

ドイツ語の小説を読む〈1〉ベル:きまぐれな客たち

  • 作者: 佐藤 清昭
  • 出版社/メーカー: 三修社
  • 発売日: 2005/02
  • メディア: 単行本



この本は、ドイツ語の初級文法を一通り終え、「さて、次のステップは?」とお考えの方が、手にとってくださることを思って書きました。(p. 3)
ある程度文法も単語も覚えて初級のレベルが終わったときに困るのが、中級のちょうどよい参考書がなかな見つからないことだ(これはドイツ語以外の外国語でもいえるのではないかと思う)。そんなときにこの本はぴったり。ドイツのノーベル文学賞作家ハインリヒ・ベルの短編小説が丸ごとひとつ入っている。
本文は5-10行ごとに文法・語法の解説と訳文がつけられ、それが見開きになっている。解説は丁寧で、文法を学んでいるときには例文が短かったりであまり問題にならないが、実際のリーディングの際には注意すべきこと(接続詞が導く副文や長めの名詞修飾語句の構造など)がよくわかる。
小説の内容そのものもおもしろく、文法・語法もしっかり確認できて、とても好感のもてる参考書。CD付なのも便利(その分ちょっと値が張るけど)。続編の『ドイツ語の小説を読むA』もある。


独文解釈の研究

独文解釈の研究

  • 作者: 阿部 賀隆
  • 出版社/メーカー: 郁文堂
  • 発売日: 2000/01
  • メディア: −



ドイツ語の文を読む際の一つの方向だけは、本書を通じて十分に得られると確信いたします。(p. ii)
見開きで5-10行ほどの独文に対して単語と解説(毎回メインとなる文法事項あり)。それが120回分と練習問題18題でかなりのボリューム。
語彙のレベルも高く、解説も多くないので、すでに初歩的な解説は不要な人向け。出てくる文章の文体も硬いが、だからこそ大学院の入試には向いている。(出典は書いていないが、文章のひとつに「この文の筆者H. Hesseの原著では...」という説明があるので、そういうレベルのもの)
昔ながらの語学参考書で力をつけたいという人には最適。
タグ:ドイツ語
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2009年12月28日

明鏡国語辞典

一例を挙げれば、小項目相当の名詞や動詞についてまで、これまで記述されたことのない意味、指摘されて初めて気づくような意味、多様な用例のあり方、語法・文型にまで踏み込んだ説明を試みた。(中略)全体的に、読んで楽しい、表現と理解に役立つ、使える辞典になっているはずである。(p. iv)
北原保雄(編).2002.『明鏡国語辞典』大修館書店.


私たちは日本語を使って生活しているわけで、普段の生活では日本語に不自由はないと思う。
しかし、日本語を話せることと、日本語について知っているということはちがう。
日本語の『さがす』と英語のsearch」という記事で扱ったように、「さがす」という動詞は〈対象〉を目的語にとる(「財布をさがす」)ことも〈場所〉をとる(「家中をさがす」)こともできるが、ふつうはなかなか気づかない。

こうした語の使い方をおもしろいと思う人にとって、『明鏡国語辞典』(以下、明鏡)はうってつけである。

辞書なんてどれも同じようなことしか書いてないと思う人もいるだろうが、それはちがう。
『明鏡』の語法の詳しさはピカイチ。
もちろん先ほどの「さがす」の説明も載っている。
ほかに例を挙げると、「撃つ」もおもしろい。
『明鏡』の例文を見てみよう。

(1)
a. ピストルで標的を撃つ
b. 大砲を撃つ

(1a)は〈対象〉、(1b)は〈道具〉を目的語にとっているが、『明鏡』ならしっかりとそのことが説明されている。
〈対象〉や〈道具〉など名詞の文の中で果たす意味上の役割を意味役割というが、この情報を載せている辞書は『明鏡』ぐらいだろう。

例文の数も多いほうだと思う。
高校生のころ、英和辞典は例文が多いのに、なぜ国語辞典は例文があまりないのか不思議に思ったことがあったが、『明鏡』には十分な数の例文が収録されている。
きちんと意味を説明しようとすれば、母語であっても例文は必要不可欠だ。
(例文の数でいえば、『新明解国語辞典』もけっこうあると思う)

論文など、しっかりとした日本語を書くときは、こうした情報を確認できる『明鏡』は便利だ。
でも、便利という以上に「読んで楽しい」辞書。
まだ引いたことがない人は、本屋に行ったときに見てみてほしい。

明鏡 国語辞典

明鏡 国語辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 大修館書店
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 単行本


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2009年09月23日

はじめてのドイツ語

また、とっつきにくい言葉もほんの少しがまんしてつきあっていると、あるとき突然見通しがよくなって、すばらしい眺望が眼前に開けるということがあります。ドイツ語はそんな言葉です。(p. 284)
福本義憲.1991.『はじめてのドイツ語』講談社現代新書.


何でも教えればよいというわけではない。
これは教育実習で学んだことのひとつだ。
ときにはあえて単純に説明することも、教える側の戦略としてありうるということだ。
単語を教えるときに、いきなり類義語を並べ意味のちがいを説明するとかえって頭がパンクしてまう生徒もいるだろう。
もちろん、それが覚えるときの手がかりになるので教えてほしいという人もいるだろう。
教師は常にそのへんのバランスを考え、何を教え何を教えないか取捨選択する必要がある。

大学でのドイツ語の授業はあまりおもしろかったという印象はない。
文法はこういうのがあるから覚えてね、じゃあ、問題の答え合わせやるよ、という具合で素っ気なかった。

ドイツ語は名詞の複数形の作り方が5パターンもあって、名詞ごとにどれに当てはまるかがちがう。
5パターンといっても、どの名詞がどのパターンになるかまったく予想もできないかといえばそうではなくて、ある程度傾向がある。
大学の授業ではそういう傾向をいっさい習わなかったが、ドイツ語を学び始めたばかりの学生が混乱しないようにと、自分はわかっていてもあえて教えなかったのかもしれない。
(単音節のときは○○、2音節のときは××のような説明が嫌いな人もいるだろう)

授業をする立場を経験すると、授業を受けるときの印象も変わってくるもので、そういう意味でもやってよかったかもしれない。
今にして思えば、当時の先生が説明が面倒でいい加減に授業をやっていたわけでもないのかなと思う(まぁ、熱心という感じでもなかったが)。

ただ、そうした細かいことを知りたいという人もいるだろう。
『はじめてのドイツ語』はそういう人に向いている。

本書はドイツ語学習で疑問に思いそうなところを丁寧に解説している。
先ほど挙げた名詞の複数形の話もこの本ではじめて知った。
他にも、

否定冠詞keinは英語のnoと同じか?
接続法って結局何だ?
完了形にhabenとseinの2パターンあるがその使い分けは?

などの疑問に答えてくれる。
そうだったのか、と思うのは気持ちいい。
他にこういうことを扱っている本はなかなかないので、上記のようなことが知りたい方は読んでみて下さい。

タイトルは『はじめてのドイツ語』だが、ドイツ語をはじめてすぐだとちょっと難しい気がする。
ある程度ドイツ語をやった人が知識の確認と整理するのにおすすめ。

本書は英語との比較による説明も多い。
その説明がわかりやすいだけでなく、英語の文法についても考えさせられる。
ドイツ語学習に役に立つだけでなく、言語学に興味がある人にもいいかもしれない。

「大学芋」はドイツ語を勉強する方を応援します(笑)。

はじめてのドイツ語 (講談社現代新書)

はじめてのドイツ語 (講談社現代新書)

  • 作者: 福本 義憲
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1991/10
  • メディア: 新書


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2009年07月26日

ゼロから始めるドイツ語チェックテスト

みなさんのドイツ語学習が数日、いや数ヶ月遅れたとしても、ドイツは魅力ある国として、また、ドイツ語はドイツの言語文化を伝えるすばらしい言語として、疑いもなく存在し続けるであろうからです。(p.3)
在間進.2004.『ゼロから始めるドイツ語チェックテスト』三修社.


良質なドイツ語の問題集。
文法の問題集であるが、提示された単語を用いてドイツ語作文をする問題がメイン(ほぼすべての問題に日本語訳あり)。
辞書を引かなければ進めないということはなく、ストレスなく解いていけると思う。
格変化は繰り返し書かせて定着させようとするのもよい。

同じ三修社から出ている『ゼロから始めるドイツ語』の問題集であるはずだが、文法項目の配列がちがったりしていて、あまり両者の対応を考えているとは思えない。
独立した問題集として考えよう。

中身の問題がよいのはもちろんだが、「はじめに」と「終わりに」に感動した。
ただの文法問題集ではなく、在間氏が温かいことばをかけて励ましてくれる。

最初に引用したのは、「はじめに」の一文だが、そう言ってもらえるとちょっと怠けても自分を責めずにがんばろうという気になる。
励まし上手のインストラクターというのは大事だなと思った。

文法学習は地味で、繰り返しやらないと身につかない。
文法なんてやらずに、会話によく出る表現をいくつか覚えるだけのような楽な方法に飛びつきたくなるかもしれない。
だが、在間氏は「覚えた文を単にそのまま繰り返すのであったならば、それはすでに他人の考えたことを単に繰り返していることに」なるという。
そして、最後の一言。

私たちにとって重要なことは、ドイツ語を話すことではなく、ドイツ語で話すことではないでしょうか。私たちがドイツ語に限らず外国語を学ぶ目的は、私たち独自の考えを当該の外国語で述べることだと思います。ドイツ語を使用する際も、私たちは私たち自身でありたいと思いませんか。みなさんも努力していろいろな文法規則を学んで来たわけですが、その目的は、ドイツ語を用いて自分の表現を作れるようになることにあるべきだと思います。独自の表現活動は、「文法規則」があるからこそ可能になるのです。(p.166)


ゼロから始めるドイツ語チェックテスト

ゼロから始めるドイツ語チェックテスト

  • 作者: 在間 進
  • 出版社/メーカー: 三修社
  • 発売日: 2004/02
  • メディア: 単行本


タグ:ドイツ語
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2009年07月11日

応用言語学事典

本事典では、13分野から1535項目を取り上げてある。執筆者は290名に及び、文字通り応用言語学研究に関わる主要分野の研究者を動員して編集にあたっている。(p.i)
小池生夫ほか(編).2003.『応用言語学事典』研究社.


ついに買ってしまった、応用言語学事典!
定価11,550円!
古本屋で買ったのでそれよりは安かったけど、なかなかに大きな買い物をしたなあ。
約1000ページの迫力、写真で伝わるかな?
(参考までに横に文庫を置いてみた)
応用言語学事典

普段は文法についての本を読むことが多いし、卒論もそういう方向だけど、言語と社会の関係やコミュニケーションの分野はあまり知らないのでその対策に。
13分野もなくてもいいかなと思うけど、他にちょうど辞典もないので、思い切って買った。
これで、社会言語学でも困らないぞ!

事典の中身は、分野ごとに関連した用語が並んでいて、その分野を説明するための流れを重視したつくりになっている。
そのため、単に引くだけでなく、読んで楽しい事典となっている。
和文索引と欧文索引と両方ついているのもすばらしい。

それにしても執筆・編集に14年間というのに驚き。
そうした年月の成果を利用できるということに感謝です。

以前は先輩がこの事典を持っていると聞いて、「個人所有するものじゃないでしょ」と思っていたが、自分もその仲間入りか。

さあ、せっかく買ったんだし、元取れるようにがんばります!

応用言語学事典

応用言語学事典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2003/04/28
  • メディア: 単行本


タグ:辞書・事典
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2009年07月06日

世界の言語入門

それほど多様な世界の言語について、たった一人で考えようというのだから、どうがんばってもエッセイにしかならない。だったら、言語学的な難しい記述ではなく、楽しく読みやすい物語を目指そう。(p.4)

黒田龍之助. 2008. 『世界の言語入門』 講談社現代新書.


世界には3,000とか5,000とか、人によってはもっとたくさんの言語があるという。
この本は、そんなにたくさんの中から著者の独断で選んだ90言語について、2ページに1言語ずつアイウエオ順に紹介していく。
上に引用したのは「はじめに」の一文。
もう、これを読んで買うしかないと思った。
だって、無謀すぎる(笑)。その無謀っぷりを見てみたくて。

本の内容としては、決して詳しいものではなく、ただの思い出話しか書いていない言語もある(セルビア語とか)。
でも、そもそもエッセイだからそれでいいと思う。

さて、自分自身も最近はドイツ語やそれ以外の言語に接する機会があるが、いろんな言語に触れるっていうのは楽しいことだ。

中学で英語を習いbrotherという語を知ったとき、英語では兄と弟を区別しないことを知って驚いた人は多いだろう。
(「兄」をone's big brotherと言うなど、区別できないわけではないが)
言語によってものの見方はちがうんだなと感じる瞬間だ。

その後、英語の学習が進むにつれ、3人称や現在完了など日本語とちがう面がどんどん出てくるが、勉強が大変でいちいち新鮮には驚く余裕がなくなってしまう人が多いのかもしれない。
とりあえず、そういうものだと思っておかないと先に進めない。

自分はそういうところにいちいち「なんでだろう?」と疑問を抱いてきたように思う。
現在形が表す「現在」ってそもそもいつのことだ?
辞書には前置詞forにいくつもの項目があるけど、なんでいっぱ意味があるんだ?などなど。

もちろん、考えてもよくわからない。
でも、考えずにはいられなかった。どうにも気になる。
Brotherのときの感動をいつまでも忘れられないとでも言おうか。
大学で言語学を勉強することになったのもそのおかげだ。

もちろん今でもわからないことだらけ。
でも、わからないことは悪いことではなくて、それだけ考える楽しみがあるってことでもある。
外国語にはその外国語なりの新しいものの見方があるし、他の言語との意外な共通性が見つかることもある。
それは、外国語を学べば学ぶほど、考える楽しみが増えるってことではないだろうか。
この本を読んで、そんな気持ちが強まった。

自分の意志というより強制的にやらせれることも多い外国語学習(特に英語)。
でも、言語が人間にしかないものなら、母語のほかに外国語を学ぶのも人間だけに許された娯楽なのかもしれない。

世界の言語入門 (講談社現代新書)

世界の言語入門 (講談社現代新書)

  • 作者: 黒田 龍之助
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/09/19
  • メディア: 新書



タグ:新書
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2009年05月18日

ルノワールは無邪気に微笑む

では心の釣り糸とは何なのか。つまり早い話は心の準備です。感性の糸とがぴんと引いたら、たとえそのときまで昼寝をしていてもがばっと鉛筆を手に摑んで起き上がれるかどうかです。(p.23)

千住博. 2006. 『ルノワールは無邪気に微笑む』 朝日新書.


千住博氏との出会いは、大学での講演会だった。
授業の一環としてその講演を聞くことになっていたので何気なくついて行ったが、講演を聞いてすぐにファンになってしまった。
すごく刺激を受け、それがきっかけでこの本も読むことにした。
本書は「芸術とはイマジネーションを伝えたいと思う心のこと」という視点から、朝日新聞の読者のさまざまな疑問に答えたもの。
千住さんの力強さが伝わってきて元気が出るのでおすすめです。

その中でも、特に印象に残ったのは、「とつぜんやって来るインスピレーション」という話。
写真家にとってシャッターチャンスに出会う瞬間も、画家にとって描きたいものがひらめく瞬間も何のまえぶれもなくやって来る。
釣りでは、釣り糸をたらしていなければ、魚はひっかからない。
同じように、心の釣り糸をたらして準備をしていなければ、画家もチャンスをつかめない。
描きたい何かを探しているかどうかが、その瞬間をつかめるかの分かれ目となるのだ。

これは研究者にとっても同じことだと思う。
有名な言語学者は、普段の会話の中からでもちゃんと魚をつかんできている。
ここでは、Pamela Downing氏と池上嘉彦氏の話を紹介しよう。

すでに以前紹介しているが、Lakoff and Johonsonは著書Metaphors We Live Byで、文脈が文の意味に影響することをDowningの例を挙げて説明している。
その例とは、"Please sit in the apple-juice seat."である。
一見奇抜なこの表現も、「朝食時に四つの席がありそのうち三つにオレンジ・ジュース、一つにアップル・ジュースが置いてあった」という状況を考えれば、apple-juice seatが何を指すかも理解できる。

池上氏は『日本語と日本語論』の中で、レストランで料理を受け取る際に"I'm a fish."という文を耳にしたときの感動を語っている。
日本語でよくある「ぼくはうなぎだ(ぼくが注文する(食べる)のはうなぎだ)」に相当する英文である。

どちらも何気ない会話の中で出てきた一言であり、ちょっと変わっているなと思っても、すぐに忘れてしまうかもしれない。
その瞬間をものにすることができたのは、やはり心の準備ができていたからにちがいない。

友達と会話する、電車の中の広告を見る、テレビのニュース番組を見る、本を読む。
その中におもしろいことばがいくらでもある。
そこからのインスピレーションを形にして人に伝える。
なんだか、ことばの研究者っていうのもひとつの芸術家のように思えてきました。

参考文献
Lakoff, G. and Johnson, M. 2003. Metaphors We Live By: With A New Afterward. The University of Chicago Press.
池上嘉彦. 2007. 『日本語と日本語論』 ちくま学芸文庫.

ルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめ (朝日新書)

ルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめ (朝日新書)

  • 作者: 千住 博
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 新書



タグ:新書
posted by ダイスケ at 00:15| Comment(2) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月17日

The Day of the Jackal

"Your name. Clearly you do not want to give us your real name. So what shall we call you?"
The Englishman thought for a moment. "The Jackal," he said. (p. 7)


Forsyth, Frederick. 1999. The day of the jackal. Longman.
英語の勉強の一環として読んだ本。
小説を読むのもいいよと言われて、自分もなんか読んでみようかと思って。


舞台は1963年のフランス。

アルジェリア独立を認めたド・ゴール大統領とそれに反発する軍人のグループ。
ド・ゴール暗殺のため一人の外国人が雇われた。
ジャッカルと名乗るプロの殺し屋は着々と暗殺計画を進める。

その一方で、フランス政府もこの暗殺計画に気づく。
フランスで最も優秀な探偵クロード・レベルがジャッカルを捕まえるべく動き出す。

追うレベルと追われるジャッカル。
果たして、大統領暗殺は阻止されるのか?


そんな感じの内容。
歴史的には大統領暗殺は起こらなかったわけで、この話の結末はそういう意味ではわかってしまうのだけど、そんなことはまったく気にならずに楽しめる。
前半のジャッカルの行動の意味が後半でわかったりするのはなかなかスリリング。


英語の難しさはペンギンのレベル4なのだけど、4ってつまりどれぐらいなのだろう?
小難しい表現はあまり出てこなかったので、趣味で読むにはちょうどよかった。

登場人物や地名が多くて、固有名詞にはちょっと疲れた。
これ、なんだっけ?ってことがよくあった。
日本語でもそれはそうだろうけど。

ある人物なんて、登場したそのページのうちにジャッカルの犠牲者に。
It was the last thing he said. (p. 86)って、あっさりやられすぎでしょ(笑)。


そして、やはり英語の研究をしたいと望むなら英語に触れるのは大事だなと改めて思った(当たり前だけど)。
Just outside Pris, a plane was ready to fly Lebel and Caron to Gap. (p. 64)は、flyを他動詞として使って目的語に飛行機で運ばれる人間がきている。
他にも、... and orders were still coming through for robbing jewellers. (p. 20)では、oderはcome throughと使われている。
なるほどなあと英語の表現も参考になる。
ちなみに、後者はMetaphors We Live By 第2章で出てきた導管メタファーの一例だなとか気づくのも楽しい。


なかなか英語の本を1冊読みきることって少ないかもしれない。
100ページくらいで薄い本だけど、1冊ちゃんと読むとなかなか達成感はある。


映画化されていてDVDも見た。
映画にしては地味すぎるほど淡々と進んでいくのが、緊張感を高める感じでこれで飽きさせないのはすごいなあ。
ジャッカル役の俳優さんがとにかくかっこよかった。

DAY OF JACKAL          PLPR4 (Penguin Readers (Graded Readers)) [ペーパーバック] / Frederick Forsyth (著); Penguin (刊)
DAY OF JACKAL
Penguin Readers


ジャッカルの日 [DVD] / エドワード・フォックス, アラン・バデル, トニー・ブリトン, シリル・キューザック (出演); フレッド・ジンネマン (監督)
ジャッカルの日 [DVD]
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2009年02月21日

ドイツ語のしくみ

Mein Deutsch ist gut!
外国語の勉強はなんといっても心意気が大切ですからね。(p.17)



3年生になり第2外国語の授業が必修でなくなってから、
ほとんどドイツ語の勉強をしていなかった。

リハビリの意味をこめ、ドイツ語をやり直そうと思って手に取ったのがこの本。
清野智明. 2005.『ドイツ語のしくみ』白水社.

白水社の「言葉のしくみ」シリーズのドイツ語版。
この「言葉のしくみ」シリーズ、ドイツ語以外は見てないが、
とても好感がもてそうだ。
「楽しみながら“通読”できる、画期的な語学入門書シリーズの誕生。挫折なんかさせません!」
という宣伝文句は、少なくともドイツ語版はその通りだと思った。

とにかく細かい規則を覚えなきゃという姿勢ではなく、
おおざっぱにこういう特徴があるよと語っていく感じで、重々しくない。
ドイツ語にお決まりの格変化の表も出てこない。
覚えないと次のページに進めないということがまったくない。
かといって説明がいい加減ということはなく、大事な部分は押さえられている。

もちろん着実に語学力をつけるには、いちいち格変化などを覚えなければならないにしても、
そのために先に進めなくなってしまうのはもったいない。
一通りの特徴を見渡すことができる本はないかなと思っていたところだったので、
この本はまさにちょうどいいと思った。
文法項目の網羅性や一覧性は他の本に任せましょう。

中身は2ページで1項目という構成になっており、とても見やすい。
こういうページの区切りと内容の区切りが同じになっていると、
「ここまでやった!」と気持ちがすっきりして記憶の定着にもいいと思うのだけど、
みなさんはどうでしょうか?
こういうのってやる気に意外なほど影響を与える気がする。

CDの構成もいい。
1トラックに例文ひとつ(ある意味贅沢?そのため18分の内容で99トラックもある)。
その1文に対して自然なスピードと、1語ずつ間をおいて発音するのの2回分の音読がある。
聞きやすく、発音の練習をするにもよいと思う。
CDに入っている例文はやみくもに選ばれたのではなく、
これを見れば本書でどんなことをやったか思い返せるようになっていると感じた。
まずこの例文を覚えるだけでもだいぶ効果があるだろう。
CDのサイズが8cmなのが残念。

はじめてドイツ語をやる人にも、もう一度やり直す人にもおすすめできる。
他の外国語をやるときにも、このシリーズから始めてみたい。

ドイツ語のしくみ [単行本] / 清野 智昭 (著); 白水社 (刊)
ドイツ語のしくみ
清野 智昭 (著)
白水社 (刊)
タグ:ドイツ語
posted by ダイスケ at 22:03| Comment(4) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする