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2014年10月31日

日本語の「髪」と「髪の毛」、英語のhair

「葉」は漢字で見ればすぐに意味が取れるが、音声にするとあまりに短かったり、「歯」のように紛らわしいものがあるため、すぐに認識しづらいこともあるだろう。そのためか、「葉っぱ」という言い方もある。ほかにも、「黄」に対して「黄色」、「田」に対して「田んぼ」というペアもある。

「髪」に対して「髪の毛」という言い方があるのも、同じ理由によるものかもしれない。「かみ」という音は、ほかにも「紙」などの解釈がありうるが、「髪の毛」としておけばそのような誤解がなくなる。「髪の毛」が紛らわしさを避けるための表現だとすれば、その存在意義も十分理解できたような気がするが、今回はその意味についてもう一歩踏み込んで考えてみたい。「髪」と「髪の毛」は本当に同じ意味を表しているのだろうか。

まず、「髪の毛」という表現の成り立ちについて確認しておこう。「髪の毛」は、[髪+の+毛]という3つの要素からできている。「髪」は「頭に生える毛」なのだから、すでに「髪」の中に「毛」の意味が入っていると考えて差し支えないだろう。つまり、「髪の毛」という表現の中で、「毛」が果たす役割はほとんどないと言ってよい。(「黄色」の場合も、「黄」がすでに色の一種なのだから、「色」を付け加えても意味上の貢献はほぼない)。そのため、「髪」と「髪の毛」が指すのは同じもののように考えられる。

しかし、「髪」と「髪の毛」が常に交換可能とは限らない。以下の例を見てみよう。

(1) 昨日、レストランに行ったら、スープに{髪/髪の毛}が入っていたので、交換してもらった。
(2) {髪/髪の毛}を変えただけで、若返ったと言われた。

どちらかと言えば、(1)は「髪の毛」、(2)は「髪」が自然に感じられるのではないだろうか。(1)では、スープに入っている毛は一本であるのが普通の読みだろう。この例のように一本一本の毛に注目する場合は、「髪」よりも「髪の毛」のほうがしっくりくる。それに対して、(2)は髪全体の形、要するに髪型を話題にしている。集合体としての毛を意識した場合は、「髪」と言いやすい。もしそうであるとすれば、「髪」と「髪の毛」は、私たちが頭の毛をどのように認識するかという、捉え方の違いを反映していると言える。

もちろん、そのような違いが意識されていないような場合もある。「{髪/髪の毛}がボサボサだ」は、「髪」と言っても「髪の毛」と言っても、それほど違いはないだろう。しかし、(1)や(2)のように使い分けがある場合は、上述のような毛の捉え方に基づいているようだ。(ちなみに、「髪」はわりと適用できる範囲が広い語であるため、「髪の毛」の代わりに使える例もある程度見つかるが、「頭髪」や「毛髪」は集合体としての頭の毛を指すのに限定されると言ってよさそうだ)。

「髪」と「髪の毛」の使い分けに相当するものが、英語にもある。英語のhairは、可算名詞の用法も不可算名詞の用法もあるが、どちらとして扱うかは、日本語の「髪」と「髪の毛」の違いにだいたい対応している。(3)と(4)には、その違いがよくあらわれている。

(3) You have a hair on your collar. I will take it off.
(4) She has beautiful blonde hair.

(3)は襟に髪の毛が一本ある場合で、このように明確な形をもつ一本の毛を指す場合、hairは可算名詞として扱われる(そのため、不定冠詞をつけたり、複数形にしたりできる)。一方、(4)のように毛の本数を意識しているのではなく、毛の集まりからなる連続体として見る場合、hairは不可算名詞である(不定冠詞をつけたり、複数形にしたりしない)。これは、さきほどの「髪」と「髪の毛」の使い分けに似ていると言える。

このことがわかれば、以下のペアについても、一方が可算名詞、他方が不可算名詞であるのも理解できるだろう。

(5) She handed me a glass.
(6) This bowl is made of glass.

(7) Could you lend me a pencil?
(8) Don't write it in pencil; write it in ink.

(5)のglassは明確な形をもった「コップ、グラス」であり、不定冠詞があることからわかるように可算名詞であるが、(6)は境界線のない材料としての「ガラス」であり、不可算名詞である。同様に、(7)のpencilは一本の「鉛筆」を表しているため可算名詞だが、(8)では書類を書くのに必要な手段であり、「鉛筆」の本数や形状を意識したりせず、不可算名詞である(それは、インクと対比していることからもわかる)。日本語には、可算名詞、不可算名詞という文法上の区別がないので、なかなかわかりづらいところがあるが、「髪」と「髪の毛」のような違いだと思えば、その違いも納得しやすいのではないだろうか。

それにしても、このような微妙な使い分けを自然と行っていると思うと、改めてことばっておもしろいなと思うし、日本語でも英語でも同じようなことを区別する場合があるのに、その区別をどのような手段によって行うかが異なるというのも、おもしろい。ほかにもこういう使い分けをしている表現はないだろうか、ほかの言語ではどうだろうかと、どんどん考えたくなる。

*****

今回の内容は、先日の公開講座でもお話しした内容です。もともと、大学院の友達との会話がきっかけで思いついた内容で、日々こんな話ばかりしています(笑)。なお、英語の例(3)-(8)は、久野ワ・高見健一著『謎解きの英文法 冠詞と名詞』の7ページに載っているものです。英語の名詞、冠詞に興味がある方には、おすすめの一冊です。

謎解きの英文法 冠詞と名詞 -
久野ワ・高見健一
謎解きの英文法―冠詞と名詞
くろしお出版


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posted by ダイスケ at 16:51| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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