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2013年03月26日

認知言語学キーワード紹介(2):カテゴリーとプロトタイプ

動詞runの意味を聞かれたら、何と答えるだろうか?多くの人が最初に思い浮かべるrunのイメージは「走る」、つまり「足を交互に素早く動かして移動する」ことだろう。『ジーニアス英和辞典 第4版』を見てみると(1)のような例はもちろん挙がっているが、(2)や(3)も見つかる。(2)のrunは「乗り物の移動」、(3)は「液体の移動」を表している。

(1) She ran for 20 miles.(彼女は20マイル走った。)
(2) I saw a car run through a red light.(車が赤信号を無視して走るのを見た。)
(3) The river runs into the Pacific Ocean.(その川は太平洋に注いでいる。)

このような例まで含めて考えると、runの意味を単なる「2本足による素早い移動」とは言いづらくなる。これは、runの意味カテゴリーをどのように記述するかという問題である。人間は、知識を単にばらばらに蓄えているわけではなく、何らかのグループにまとめている。そのグループが「カテゴリー」(category)である。

カテゴリーについては古くから研究されてきたが、次のような考え方が主流であった。つまり、あるカテゴリーに属する成員はすべてある属性を共有しており、カテゴリーの成員間には優劣はない、というものである。このようなカテゴリー観に従って、さきほどのrunについて考えてみよう。runの意味カテゴリーに含まれる成員はすべて「高速の移動」という属性をもっていると考えれば、(1)-(3)のすべての用法を偏りなく扱うことができる。しかし、runの意味を「高速の移動」とだけ提示してしまうと、今度は直感的なrunのイメージとはだいぶ離れてしまうだろう。

認知言語学では、カテゴリーをもっと柔軟なものであると考えている。あるカテゴリーの成員がどれも同じだけの資格をもっているわけではなく、もっともそれらしい、中心的な成員から、あまりそれらしくない、周辺的な成員があるとするカテゴリー観を採用するのだ。中心的、代表的な成員のことを「プロトタイプ」(prototype)と呼ぶ。カテゴリーがそのように構造化されていると想定すると、runの意味に抽象的な「高速の移動」というものがあることを認めつつも、そのカテゴリーにはプロトタイプ「2本足を使ったすばやい移動」を中心に、周辺的な成員「乗り物の高速移動」「液体の高速移動」までの段階性があることを捉えることができる。


今回挙げたrunについては、早瀬尚子・堀田優子著『認知文法の新展開:カテゴリー化と用法基盤モデル』のpp. 36-39を参考にしています。ここでは、さらに「立候補する」という意味の位置づけなども言及されているので、興味をもたれた方はぜひご覧ください。
認知文法の新展開 (英語学モノグラフシリーズ (19)) [単行本(ソフトカバー)] / 早瀬 尚子, 堀田 優子 (著); 研究社 (刊)

認知文法の新展開 (英語学モノグラフシリーズ (19))
早瀬尚子・堀田優子
研究社


上記の本はすでにある程度言語学を勉強した人向けに書かれています。もっと入門的な本としては、吉村公宏著『はじめての認知言語学』がおすすめ。カテゴリー化を中心とした認知言語学の姿勢をつかむのに最適です。
はじめての認知言語学 [単行本] / 吉村 公宏 (著); 研究社 (刊)
はじめての認知言語学
吉村公宏
研究社


関連記事:
認知言語学キーワード紹介(1):捉え方
認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
認知言語学キーワード紹介(4):ゲシュタルトと構文
posted by ダイスケ at 01:51| Comment(0) | 言語学の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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