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2012年09月27日

Semantic prosody:現象と文献の紹介

コンピュータ技術の発達により、言語研究も大きな影響を受けている。その影響の一つがコーパスを利用した言語研究である。コーパス (corpus、複数形はcorpora) とは、コンピュータで読み込むことができる形態のテクストの集積からなるデータベースのことである。

たとえば、cleverとwiseという語は、どちらも「頭がよい」という日本語に相当することばだが、コーパスを用いれば、一度に複数のテクストからその次にどんな名詞が続くか(どんな名詞が生起しているか)を調べることができ、用いられる名詞の傾向の違いからその意味をより具体的に確かめることができる。

コーパスを用いる言語学の分野(コーパス言語学)で近年発達してきた概念にsemantic prosodyというものがある。Semantic prosodyとは、生起環境から明らかにされる語句や構文の評価的な意味のことである。

よく挙がる例のひとつが、causeという語である(Stubbs 1995)。Causeは、日本語の「原因、〜の原因となる」に当たる語であるが、動詞用法でも名詞用法でも、多くの場合、問題、被害、病気などの出来事を表す語と共に使われることが報告されている。

(1) East German restriction which caused today’s trouble
(2) considerable damage has been caused to buildings
(3) a certificate showing the cause of death (Stubbs 1995: 31)

したがって、cause には否定的な評価が伴うとされている(なお、このような意味的側面は、辞書にも記載されるようになってきていて、たとえば『ジーニアス英和辞典 第4版』のcauseの項目にも、「〔通例悪い出来事の〕原因」といった記述が見られる)。

ある語句が、何を指すかだけでなく、それをどのように捉えているかという評価的意味をも含む場合があるという発想自体は決して新しいものではない。大規模コーパスによって観察されるsemantic prosodyの貢献は、母語話者にも気づかれていなかった語句の評価的意味を発見したり、量的な証拠を提示することで、評価的意味が従来考えられていたほど不安定なものではなく、話者の間で広く共有されていることを示したことにあるだろう。また、そのような評価的意味が、問題の語句の前後に渡って広がり、テクスト全体の一貫性を保つ上で重要な役割を果たしているという指摘も、実際に使用されたテクストから構築されたコーパスを使っているからこそだと言える。

Semantic prosodyという用語は、Louw (1993) の論文において初めて用いられたが、もともとはSinclairが使い始めたとのこと(Louw 1993: 158)。その後、Sinclair本人をはじめ様々な研究者によって扱われてきたが、その概念は確立したものというよりは、まだまだ議論の最中といったほうがよいようだ(関連する論文のタイトルに、critique、revisited、re-examinedなどの語が使われていることにも、そのことが反映されている)。Stubbs (2001) のようにdiscourse prosodyという用語を用いる研究者もいる。

日本語の文献で、semantic prosodyを扱っているものは、まだ少ないと思う。斎藤ほか編 (2005)『英語コーパス言語学』では、「意味的プロソディ」という用語が当てられているが、「意味的韻律」としている研究も見かける。

もっと詳しくsemantic prosodyについて知りたい方のために、以下に文献リストを載せておくのでお役立てください。網羅的でないので、これからも文献を追加していく予定。

*はじめは文献リストには英語の研究をしているものだけを載せるつもりだったが、英語以外の言語を扱っているものや、語学教育への応用が中心のものも、知っているものは載せていくことにした。そのような文献については、(イタリア語、教育)などの形で明記する。英語を扱っている場合は特にそのことを記載しないが、複数の言語に言及があって英語がそのうちのひとつだった場合は、(英語、イタリア語)のように記載する。


■Blass, Anne-Katrin. 2012. Textual functions of extended lexical units: A case study of phrasal constructions built around by way of. ICAME Journal 36, 5-29.
■Bednarek, Monika. 2008. Semantic preference and semantic prosody re-examined. Corpus Linguistics and Linguistic Theory 4, 119-139.
■Channell, Joanna. 2000. Corpus-based analysis of evaluative lexis. In Susan Hunston. and Geoff Thompson (eds.), Evaluationin in Text: Authorial Stance and the Construction of Discourse. 38-55. Oxford: Oxford University Press.
■深谷輝彦. 2005. コーパスに基づく文法研究. 齊藤俊雄・中村純作・赤野一郎(編). 『英語コーパス言語学: 基礎と実践』 144-161. 東京: 研究社.
■Hampe, Beate. 2005. When down is not bad, and up not good enough: A usage-based assessment of the plus-minus parameter in image-schema theory. Cognitive Linguistics 16, 81-112.
■掘正広. 2009. 『英語コロケーション研究入門』 東京: 研究社.
■Hoey, Michael. 2005. Lexical Priming: A New Theory of Words and Language. London: Routledge.
■Hunston, Susan. 2002. Corpora in Applied Linguistics. Cambridge: Cambridge University Press.
■Hunston, Susan. 2007. Semantic prosody revisited. International Journal of Corpus Linguistics 12, 249-268.
■Hunston, Susan and Geoff Thompson (eds.). 2000. Evaluation in Text: Authorial Stance and the Construction of Discourse. Oxford: Oxford University Press.
■Levin, Magnus and Hans Lindquist. 2007. Sticking one’s nose in the data: Evaluation in phraseological sequences with nose. ICAME Journal 31, 87–110.
■Louw, Bill. 1993. Irony in the text or insincerity in the writer?: The diagnostic potential of semantic prosodies. In M. Baker, G. Francis, and E. Tognini-Bonelli (eds.), Text and Technology; In Honour of John Sincair. 157-176. Amsterdam: John Benjamins.
■McEnery, Tony, Richard Xiao and Yukio Tono. 2006. Corpus-Based Language Studies: An Advanced Resource Book. London: Routledge.
■McEnery, Tony and Andrew Hardie. 2012. Corpus Linguistics: Method, Theory and Practice. Cambridge: Cambridge University Press.
■Morley, John and Alan Partington. 2009. A few Frequently Asked Questions about semantic - or evaluative - prosody. International Journal of Corpus Linguistics 14, 139-158.
■Nonaka, Daisuke. 2013. The locative alternation and evaluative meaning: The case of smear. Colloquia 34, 77-88.
■大石亨. 2010.「植物」のメタファー再考: 慣用表現に付随する意味的韻律と主観性. 『日本認知言語学会論文集』 10, 149-159.(日本語)
■大石亨. 2011. 抽象概念を表す漢語名詞に付随する意味的韻律. 『日本認知言語学会論文集』 11, 245-255.(日本語)
■Oster, Ulrike. 2010. Using corpus methodology for semantic and pragmatic analyses: What can corpora tell us about the linguistic expression of emotions? Cognitive Linguistics 21, 727-763.
■Partington, Alan. 1998. Patterns and Meanings: Using Corpora for English Language Research and Teaching. Amsterdam: John Benjamins.(英語、イタリア語)
■Partington, Alan. 2004. Utterly content in each other’s company: Semantic prosody and semantic preference. International Journal of Corpus Linguistics 9, 131-156.
■Rühlemann, Christoph. 2007. Lexical grammar: The GET-passive as a case in point. ICAME Journal 31, 111–128.
■Sinclair, John. 1991. Corpus, Concordance, Collocation. Oxford: Oxford University Press.
■Sinclair, John. 1996. The search for units of meaning. Textus IX, 75-106.
■Sinclair, John. 1998. The lexical item. In E. Weigand (eds.), Contrastive Lexical Semantics. 1-24. Amsterdam: John Benjamins.
■Sinclair, John. 2004. Trust the Text: Lanugage, Corpus and Discourse. London: Routlege.
■Stefanowitsch, Anatol and Stefan Th. Gries. 2003. Collostructions: Investigating the interaction of words and construction. International Journal of Corpus Linguistics 8, 209-243.
■Stewart, Dominic. 2010. Semantic Prosody: A Critical Evaluation. New York: Routledge.
■Stubbs, Michael. 1995. Collocations and semantic profiles: On the cause of the trouble with quantitative studies. Functions of Languages 2, 1-33.
■Stubbs, Michael. 2001a. On inference theories and code theories: Corpus evidence for semantic schemas. Text 21, 437-465.
■Stubbs, Michael. 2001b. Words and Phrases: Corpus Studies of Lexical Semantics. Malden, Mass: Blackwell.(英語、英語への借用語としてのドイツ語)
■Tao, Hongyin. 2003. Toward an emergent view of lexical semantics. Language and Linguistics 4, 837-856.(中国語)
■Taylor, John R. 2012. The Mental Corpus: How Language is Represented in the Mind. Oxford: Oxford University Press.
■Tognini-Bonelli, Elena. 2001. Corpus Linguistics at Work. Amsterdam: John Benjamins.(英語、イタリア語、教育)
■Whitsitt, Sam. 2005. A critique of the concept of semantic prosody. International Journal of Corpus Linguistics 10, 283-305.
■Xiao, Richard and Tony McEnery. 2006. Collocation, semantic prosody and near synonymy: A cross-linguistic perspective. Applied Linguistics 27, 103-129.(英語、中国語、教育)
■Zhang, Weimin. 2009. Semantic prosody and ESL/EFL vocabulary pedagogy. TESL Canada Journal 26, 1-12.(教育)

追記
文献を追加(2012/10/14、2012/10/20、2012/12/24、2013/08/08、2013/09/14、2014/08/14)
英語以外の言語、教育について扱っている文献を追加(2013/01/05)

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posted by ダイスケ at 04:27| Comment(6) | 言語学の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして、コーパス言語学を勉強中のB3生です。
semantic prosodyは辞書学だけでなく、教育分野にも応用可能でしょうか?
とても興味がわきました。
Posted by M.K at 2013年01月03日 20:37
M. Kさん、コメントありがとうございます!
この記事がsemantic prosodyに興味をもつきっかけになったなら、うれしく思います。

ご質問についてですが、semantic prosodyの論文を読んでいると、語学教育について議論しているものも見かけますよ。教育方面についてはあまりちゃんと調べたことがないのですが、せっかくなので教育への応用にも言及している文献も、知っている範囲でリストに載せることにしました。これから文献を追加していくので、そちらもあわせてご覧ください。

実際に学校教育で教えるとなると、「どこまで評価的意味を教えるか」「評価的意味に関して、母語話者にとっては典型的でないと思われる使い方を学習者がしてしまった場合、それはどの程度「間違い」であると言えるのか」などが議論になりそうですが、そういったことを考えるのもおもしろそうですね。
Posted by ダイスケ at 2013年01月05日 03:57
ご返事ありがとうございます。
ブログを拝見すると、ダイスケさんは教育にかかわっていらっしゃるようなのでコーパスと教育とのかかわりについて質問させていただきました。
Owen(1993)に「COBUILD corpusで観察された高頻度語現象が実際には英語の典型例ではなかった」と書かれていましたが、ダイスケさんは実際の教育現場でコーパスを使用する場面は少ないのですか?

私自身は人ではなくて、機械に言語を処理させる際にコーパスが有用なのではないのかと思い、研究したいと思っております。
Posted by M.K at 2013年01月06日 20:52
ぼくは大学院では英語の言語学的研究をして、高校では英語教育に携わっていますが、コーパスを使うのは主に研究においてです。

英語にも研究者の間で見解が一致していない現象やそもそもあまり認識されていない現象があります。大学院での研究は、そうした英語の実態を探り、なぜそうなっているのかを説明することを目指して行っています。その際は英語を教えるというのが主な関心ではないため、英語教育学などの応用的な研究に接する機会は、実際のところ多くないです。

どのように英語を捉えるか、英語を教える際にどんなことに重きを置きたいかについては、言語学を通じてぼくなりに考えてきたので、それは授業での説明の仕方や例文の選択などの形で多少反映されているかもしれませんが、普段やっている研究はそのまま高校の授業に生かせるものではないので、研究と教育はある程度分けて考えています。コーパスについては、生徒が書いた英作文を見て、あまり典型的な言い方ではなさそうだなと思ったら調べてみるといったことはしますが、コーパスの調査をもとに指導案法を考えるといったようなことはしていません。

そんなわけで、Owen (1993)についても知らなかったのですが、今度読んでみたいと思います。Web上で調べてみたら、Applied LinguisticsのCorpus-Based Grammar and the Heineken Effectという論文が見つかりましたが、これのことでしょうか?

機械に言語を処理させるというと、自然言語処理の分野に近い感じでしょうか。そちらも勉強してみたいなあとぼくも思っています。
Posted by ダイスケ at 2013年01月08日 05:31
お返事ありがとうございます。
現在、コーパスと教育分野のかかわりについての本を読んでいるので、実際に教育にかかわっていらっしゃる方のお話を伺えてとてもよかったと思いました。

Owen(1993)とは、Applied LinguisticsのCorpus-Based Grammar and the Heineken Effect: Lexico-grammatical description of language learnes.のp.167〜187です。

かなり情報工学分野に近くなってしまうと思いますが、自然言語処理をコーパスに回帰して研究したいと思っています。
Posted by M.K at 2013年01月10日 22:02
こちらこそ、論文の情報ありがとうございます。

英語教育(第二言語習得やコーパスを利用するものも含めて)関係の研究を見る機会は多くないとはいえ少しはあって、興味深いのもあるのですが、実際に授業で使える形に落とし込むのはなかなか難しかったりします。ゆっくり授業の構想を練る時間があればいいのですが、現実的にはすぐに次の授業が回ってくるので。ちなみに、ぼくは担当する授業が少ないほうなのですが、授業がもっと多い先生や部活動の顧問をされている先生はさらに準備時間がないかと思うと、英語教育学の研究成果を消化して実践できる現場の先生は少ないのかなあと感じてしまいます。高校で授業をやり始めて1年目ということもあるのですが、今後はもっと英語教育学的な分野にも接していきたいです。

なんだか、M.Kさんとのコメントのやりとりを通して、自分自身の英語教育やコーパスとの関わりを振り返るきっかけになったようにも思います。情報工学や自然言語処理にはまだまだ疎いので、何かおもしろいことがあればまた教えてくださいね。
Posted by ダイスケ at 2013年01月12日 02:19
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