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■大学芋はなんで「大学芋」という名前?「大学」+「芋」=「大学芋」と単純にはいえない。そう考えると、ことばには不思議がいっぱい。「大学芋」をきっかけにことばについて考えるブログです!
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2010年05月24日

ことばについて考える1:語学と言語学

言語学を勉強していて思うのは、言語学というのはあまり世間に知られていない学問なのだなあということだ。本屋に行っても、「哲学」「文学」「心理学」などのコーナーはあっても、「言語学」というコーナーは普通ないことからも、それはうかがえる。場合によっては、「語学」のコーナーに言語学の本があったりするのだが、語学と言語学はちがう。ただ、普段の生活をしていて、言語というものを強く意識させられるのは、語学、つまり外国語学習のときだろう。今回は、語学と言語学を対比させる形で、言語学の紹介をしてみようと思う。

外国語を勉強するときというのは、当然ながらその言語を十分に使える状態ではないだろう。その場合、何よりもまず、わからない語句や文があって、それをわかるようにしたいとい願望があるはずだ。(あるいは、あることを表現したいがそれをどう表現してよいかわからない、それを何とかしたい)それは、本を読んだり、その言語の話者と会話をするという目標があってのことだ。つまり、語学にとっての言語は「手段としての言語」なのだ。

それに対して、言語学にとっての言語は「目的としての言語」である。ある言語の構造や機能に興味を示すのである。言語学に必要なのは、見るからに難しい表現を読み解くことではない。むしろ、言語学で出てくる例文の多くは一見簡単である。しかし、意味のわかりきっているような表現でも、よく考えてみると不思議があり、その不思議に気づくことが言語学のスタートになる。

次の例を見てみよう(今回の例はすべて自作)。

(1)
a. 大きいりんご
b. 大きなりんご
(2)大きなお世話

日本語を勉強している外国人がいたとして、(1)では「大きい」も「大きな」もともに「りんご」という名詞を修飾しておりその意味は基本的に同じでありと、(2)はやや特殊な用法で「余計なおせっかい」という意味であると知っていれば、その人の日本語の力はなかなかのものだと考えるだろう。(1)と(2)の意味がわかっていて、それを使えるのだから、語学としては問題ない。

では、次の例はどうだろうか(*は容認されない表現を表す)。

(3)*大きいお世話

「大きい」と「大きな」はほぼ同じ意味であるはずなのに、日本語の話者は(3)のような表現を使うことはない。
では、両者の差は何なのだろうか。他にも同じような例を挙げてみよう。

(4)
a. 彼は大きな悩みを抱えている。(cf. *大きい悩み)
b. その政策は日本経済に大きな影響を与えた。(cf. *大きい影響)
c. その事業の成功のおかげで、私たちは大きな喜びを覚えた。(cf. *大きい喜び)

これらの例から、「大きい」は物理的な大きさを表すのに対して、「大きな」は物理的な大きさはもちろん、程度のはなはだしいさまをも表すのではないかと予想できる。
ただし、話はそれほど単純ではない。程度のはなはだしさを表す用法は、名詞修飾でなければ「大きい」を用いてもまったく問題ない。

(5)
a. 彼の抱えている悩みは大きい。
b. その政策が日本経済に与えた影響は大きい。
c. その事業の成功で得られた喜びは大きい。

また、(6)の「大きい」が修飾しているのは物理的なものではないが、違和感は感じられない。

(6)
a. 授業中に大きい声を出してはいけません。
b. 最近は大きい事件が起こっていない。

そして、そもそも本来物理的な大きさのないものに対して「大きい」「大きな」という語を使うのも、考えてみれば不思議な気がする。
「大きい」と「大きな」のちがいがどうなっていて、それはなぜなのか。こうした問いを追求をしていくなら、それはすでに言語学へ一歩踏み込んだことになる。

言語学では、言語の不思議を探るために、意味のわかりきった表現でも考察の対象となる。その際、あえて容認されない例(母語話者にとってみれば間違っている表現)を用いることもあるが、それが容認される表現の解明につながることもあるのである。わからない語句や文をわかるようにする、間違った表現であれば直すことを目指すことを目指す語学と比べてみると、言語学がどのような関心をもって言語を見ているのか、伝わってくるのではないだろうか。

(ただし、一口に言語学といっても、実にいろいろなアプローチや考え方がある。ここで紹介するのとはだいぶちがった形の言語学もあることをお断りしておきます)

続編:ことばについて考える2:辞書と言語学ことばについて考える3:ことばの不思議への招待
posted by ダイスケ at 01:25| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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