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■大学芋はなんで「大学芋」という名前?「大学」+「芋」=「大学芋」と単純にはいえない。そう考えると、ことばには不思議がいっぱい。「大学芋」をきっかけにことばについて考えるブログです!
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2009年10月22日

I am making slow progress. ― ことばがつくる現実

ふとイギリスでの出来事を思い出した。

去年の夏休み、大学の短期在外研修プログラムでイギリスへ行った。
イギリスの大学でプログラム用の特別授業を受け、その後ティーチング・アシスタント(TA)であるその大学の学生を交えたディスカッション。

あるとき、ディスカッションの時間で、グループごとに話し合ったことを発表することになった。
話し合いの途中で「調子はどう?」とTAから聞かれた(もちろん英語で)。
話がなかなかまとまらないところだったので、調子がよい状況ではなかったが、そのときいっしょだった日本人学生が笑顔で
"We are making slow progress."
と答えた。

これを聞いて、はっとした。
そうか、slow(ゆっくり)ではあるがprogress(前進)なんだと。
否定を表すことばでも表現できたところを("We are not making much progress."など)、あくまで肯定文で表したことが自分にとっては新鮮だった。
もちろんslow自体がマイナスイメージのことばだと言うこともできるが、この表現のprogressに重きを置くことでプラスイメージを伝えるための表現となりうることが、とても大きいことのように思えた。

実際、"We are making slow progress."と"We are not making much progress."のちがいは客観的には存在しない。
それはむしろ話し手の見方、捉え方の問題だ。

同じ出来事を見ても異なる表現をすることで、物事の新しい認識の仕方を提供することができるのなら、またそれによって人は喜んだり悲しんだりできるのなら、ことばは現実を単に記号に置き換える手段というのではなくて、「ことばこそが現実をつくり出している」ということもできる。

ときには、何をしてもうまくいかず、前に進めないと思うことがあるかもしれない。
だが、それは長期的に見れば、大切な一歩を踏み出しているときかもしれない。
"I am making no progress."と表現したくなってしまう状況でも、見方を変えれば"I am making slow progress."と言ってもいいことを忘れないようにしたい。

先の学生の答えを聞いて、TAは笑顔を返した。
ぼくも笑顔になった。
ラベル:英語 捉え方
posted by ダイスケ at 01:33| Comment(2) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
基礎論のmasaです。エッセー拝読しました。

アメリカにいた時、"I can't speak English."と言う日本人に時々出会いました。「そうやって英語で言ってるやん、speak Englishしてるやん」と言いたくなったものですが、謙遜する文化をそのまま英語にしているのですね。

"Not making much progress."と言いたくなるのは、大したことないのに自慢して傲慢に見られたくない、という奥ゆかしい気持ちからですよね。でも、そう言われてみれば、アメリカで(イギリスは知りません)そういう発言を聞くとかなり奇異に響く気がします。あんまり自分を卑下する人はいなかったような、、国民性でしょうか。
Posted by masa at 2009年10月23日 20:07
コメントありがとうございます。
日本語だと、前進しているなんてことはかなり自信がないと言えないかもしれないですね。
そういう慣習を共有していることが、ひとつの文化に属していることといえるのかもしれません。

逆に英語の話者が、日本語によくある謙遜した表現を耳にしたとき、どう思うんでしょうかね。

今度アメリカでの生活の話なども聞かせていただけるとうれしいです。
Posted by ダイスケ at 2009年10月26日 23:11
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