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2016年04月24日

英語の接頭辞over-:現象と文献の紹介

英語の前置詞overには多数の研究がある。その理由の一つは、overに実にたくさんの用法があるからである。たとえば、She walked over the bridge.のoverは歩くという行為の経路を表現するために用いられているし、She has a strange power over me.ではある種の支配力を表す表現でoverが使われている。overの持つ多様な意味をどのように関連づけるかをめぐって、特に認知言語学という分野で盛んに研究が行われてきた。

さて、overには前置詞だけでなく接頭辞の用法もある。接頭辞over-は名詞・動詞・形容詞のいずれにも付加されることがある。接頭辞として用いるときには、主に「上に」という空間的意味を表す場合と「〜すぎる」という超過の意味を表す場合とがある。

(1) overcoat(外套(がいとう)、オーバーコート):名詞に付加
(2) overfly(飛び越す):動詞に付加
(3) overripe(熟しすぎた):形容詞に付加

その中でも動詞接頭辞については、もとの動詞とover-が付加された動詞の間で目的語の選択などに違いが見られることがあり、関心がもたれてきた。

(4) overbuild the city(都市に(建物を)建てすぎる)cf. build houses
(5) overheat the room(部屋を暖めすぎる)cf. heat the room

(4) に見るように、buildが建物を目的語に取るのに対して、overbuildでは場所が目的語になっている。(5) ではheatもoverheatも同じ目的語を取っている。いつでも目的語が変わるわけではないし、また動詞によってはover-がつくことで他動詞から自動詞になるものもある(overeatなど)。このあたりの実態の解明も理論的な説明も、まだまだ十分ではないと言える。

接頭辞over-の研究としては以下のようなものがある。

■Brugman, Claudia M. 1981. The Story of Over: Polysemy, Semantics and the Structure of the Lexicon. M.A. Thesis, University of California, Berkeley. Published from New York/ London: Garland Press in 1988.
■Bauer, Laurie, Rochelle Lieber and Ingo Plag. 2013. The Oxford Reference Guide to English Morphology. Oxford: Oxford University Press.
■堀内ふみ野・野中大輔. 2016. 動詞接頭辞over-/under-の非対称性とその動機づけ: 認知主体の捉え方と項構造. 『日本認知言語学会論文集』 16, 66-78.
■Iwata, Seizi. 2004. Over-prefixation: A lexical constructional approach. English Language and Linguistics 8, 239-292.
■影山太郎・由本陽子. 1997.『語形成と概念構造』 東京: 研究社.
■Lakoff, Goerge. 1987. Women, Fire, and Dangerous Things: What Categories Reveal about the Mind. Chicago: University of Chicago Press.
■Lieber, Rochelle. 2004. Morphology and Lexical Semantics. Cambridge: Cambridge University Press.
■Lindstromberg, Seth. 2010. English Prepositions Explained. John Benjamins.
■西川盛雄. 2013. 『英語接辞の魅力: 語彙力を高める単語のメカニズム』 東京: 開拓社.
■野中大輔・堀内ふみ野. 2016. underestimateとは言ってもunderheat とは言わないのはなぜか: 動詞接頭辞over-とunder-の対比から. 『日本言語学会第152 回大会予稿集』 192-197.
■Tyler, Andrea and Vyvyan Evans. 2003. The Semantics of English Prepositions: Spatial Scenes, Embodied Meaning, and Cognition. Cambridge: Cambridge University Press.
■Yumoto, Yoko. 1997. Verbal prefixation on the level of semantic structure. In Taro Kageyama. (ed.), Verb Semantics and Syntactic Structure, 177-204. Tokyo: Kurosio Publishers.
■由本陽子. 2001. 複雑述語の形成. 影山太郎(編). 『日英対照 動詞の意味と構文』 269-296. 東京: 大修館書店.
■由本陽子. 2011. 『レキシコンに潜む文法とダイナミズム』 東京: 開拓社.

上記の研究は、大まかに前置詞overを分析する過程で接頭辞over-に触れている研究(e.g. Brugman 1981; Lakoff 1987; Tyler and Evans 2003)と動詞に付加された場合を扱う研究(e.g. 影山・由本 1997; Yumoto 1997; Iwata 2004; 堀内・野中 to appear)に分けることができる。また、Bauer et al. (2013) は英語の形態論全般として便利で、接頭辞の一つとしてover-についても言及がある。今後も関連文献が見つかったら追加していく予定。なお、例文(4)と(5)は影山・由本 (1997: 91-92) をもとにしている。

over-は実に多くの語に付加されるので、辞書を眺めてどんな意味になるか予想したり、実際に英文を読みながらこんな使い方もするのかと発見していくのも楽しい。

追記
文献を追加(2016/08/30)

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posted by ダイスケ at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 言語学の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする