【ブログ紹介】
■大学芋はなんで「大学芋」という名前?「大学」+「芋」=「大学芋」と単純にはいえない。そう考えると、ことばには不思議がいっぱい。「大学芋」をきっかけにことばについて考えるブログです!
■はじめての方はこちらへ

2015年11月22日

英語のレシピに見られる目的語省略:現象と文献の紹介

「炒まる」という表現を聞いたことがあるだろうか。これはある料理番組で聞いた動詞で、たしか「玉ねぎが炒まったら、肉を加えます」のような表現だったように思う。

「壊す」に対して「壊す」、「焼く」に対して「焼ける」のように、日本語には他動詞と自動詞の対応関係が見つかる場合がある。「炒める」と「炒まる」もそれに相当するが、「炒まる」については、自然な日本語だと思うかどうか、人によって違いがあるかもしれない。実際、自分が料理番組で耳にしたときは、ちょっとびっくりした。実際にウェブ上で検索してみると、かなりの使用例が見つかって、料理の際には使う人も多くいるようだ。

このように、レシピなど調理手順を説明するときの表現を観察すると、おもしろいことがいろいろ見つかる。自分の場合英語を研究しているので、イギリスで買ってきた料理本を見たりするのだが、レシピならではの言い回しが見つかってとてもおもしろい。

英語研究の中にもレシピに着目したものがいくつかあるが、特に注目されてきたのは、レシピにおける目的語省略だろう。英語では、たとえ前後の文脈からわかったとしても、John broke the vase.の代わりにJohn broke.のように目的語を省略しては表現できず、John broke it.のように代名詞を使う必要がある。英語でも目的語の省略がないわけではないが、日本語の場合とはかなり違って、どんなときに省略できるかなどが研究されている。英語の目的語省略についてざっと概観したい場合は、以下の文献が便利である(ちなみに、この本の305ページに料理動詞についてのコラムがあるので、それを見てみると料理関係の表現についてもっと興味が湧くかもしれない)。

■杉岡洋子・影山太郎. 2011. 目的語の省略. 影山太郎(編) 『日英対照 名詞の意味と構文』 東京: 大修館書店.

自由に目的語の省略ができない英語だが、興味深いことに、レシピとなると頻繁に目的語の省略が見られる。たとえば、次の例を見てみよう。

(1) Slice the onion finely, brown Ø in the butter and then place Ø in a small dish.

brown(炒める)の目的語とplace(置く)の目的語が省略されている(Øでそれを表現している)が、この場合はどちらも玉ねぎが目的語に当たると言える。

レシピの目的語がどんな性質をもっているのか、それを文法研究としてどのように扱うべきかなどをめぐっては、以下のような研究がある(関連文献が見つかったら追加していく予定)。

■新池邦子. 2010. 英語のレシピにおける顕現しない被動作主項. 『英語語法文法研究』 17, 162-167.
■Bender, Emily. 1999. Constituting context: Null objects in English recipes revisited. Proceedings of the 23rd Annual Penn Linguistics Colloquium, 53-68.
■Brown, Gillian and George Yule. 1983. Discourse Analysis. Cambridge: Cambridge University Press.
■Culy, Christopher. 1996. Null objects in English recipes. Language Variation and Change 8, 91-124.
■Ferguson, Charles A. 1994. Dialect, register, and genre. In Douglas Biber and Edward Finegan (eds.), Sociolinguistic perspectives on register, 15-29. Oxford: Oxford University Press.
■Haegeman, Liliane. 1987. Register variation in English: Some theoretical observations. Journal of English Linguistics 20, 230-248.
■貝森有祐. 2016. レジスターから見る語彙・構文の選択と英語教育への含意: レシピに注目して. Encounters 4, 65-82.
■Kittredge, Richard. 1982. Variation and homogeneity of sublanguages. In Richard Kittredge and John Lehrberger (eds.), Sublanguage: Studies of Language in Restricted Semantic Domains, 107-137. Berlin: de Gruyter.
■Massam, Diane and Yves Roberge. 1989. Recipe context null objects in English. Linguistic inquiry 20,134-139.
■Nonaka, Daisuke. 2016. How to cook with the locative alternation. Paper presented at the 6th UK Cognitive Linguistics Conference, July 19-22th, Bangor University.
■Ruppenhofer, Josef and Laura A. Michaelis. 2010. A constructional account of genre-based argument omissions. Constructions and Frames 2, 158-184.

基本的なことは1980年代の研究で指摘されているので(Brown and Yule 1983; Haegeman 1987; Kittredge 1982; Massam and Roberge 1989)、レシピの英語について興味のある人はそこからどうぞ。ちなみに、先ほどの例文(1)はBrown and Yule (1983: 175)から。

文法研究としては、Bender (1999)、Culy (1996)、Massam and Roberge (1989)、Ruppenfoher and Michaelis (2010)、談話分析としてはBrown and Yule (1983)、ジャンル・レジスターの研究としてはKittredge (1982)、レシピの英語の歴史的研究としてはCuly (1996)、などなど、それぞれの関心に応じて、そのあたりの論文を読んみるとヒントが見つかるかもしれない。

追記
文献を追加(2016/01/10)

関連記事:
英語の場所格交替:現象と文献の紹介
英語の形容詞的受身:現象と文献の紹介
Semantic prosody:現象と文献の紹介
英語の同族目的語構文:現象と文献の紹介
英語の接頭辞over-:現象と文献の紹介
posted by ダイスケ at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 言語学の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする