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2013年09月14日

認知言語学キーワード紹介(4):ゲシュタルトと構文

cat foodという表現は、catとfoodから成り立っており、ネコの食べ物であるキャットフードを意味する。表現全体の意味が、その構成要素の足し算によって導くことができるとする考えのことを「構成性(合成性)の原理」(principle of compositionality)と呼ぶが、cat foodにはそれがよく当てはまるように思われる。しかし、言語表現の意味が、いつでも構成要素の単純な組み合わせだけで説明できるとは限らない。次のような表現を見てみよう。

(1) breakfast person(朝食派の人)
(2) cat person(ネコが好きなネコ派の人)
(3) night person(夜更かしをする人、夜型の人)

(1)-(3)では、breakfastやcatとpersonを足し合わせるだけでは導けないような「-派、-主義」といった意味合いが出てくるのである(ちなみに、ネコが食べるものを何でもcat foodというわけではないので、cat foodでさえも単にcat+foodと考えるだけでは十分でないと言える)。

これらの表現は、構成性の原理からすると取扱いに困る例である。しかし、単純な足し算が成り立たないことは、人間の知覚についていえば決して珍しいことではない。たとえば、オーケストラの音楽では、バイオリン+トランペット+フルートなど各楽器の音の単なる集まりを超えた、ひとつの曲を認識するだろう。このような人間の知覚に着目し、ゲシュタルト心理学は「全体は部分の総和以上である」と主張した。全体には、部分になかった「まとまり」、つまり「ゲシュタルト」(gestalt)が現れるのである。認知言語学は、このようなゲシュタルト心理学の考えを取り入れており、言語においても、複合的な表現が、部分の単純な組み合わせを超えたゲシュタルトをなすと考えている。言語にもゲシュタルトがあると考えると、(1)-(3)の各表現に、部分の足し算では得られない意味があっても問題ないことになる。

ゲシュタルトを考える上で重要なのが、(i) 個々の部分よりも先に全体が知覚されて、(ii) その全体を前提とした上で各部分の位置づけが規定される、ということだ。そして、その部分の位置づけを決める際に大きな役割を果たすのが、ある種の「型」である。

音楽についていえば、メロディーを聞いたら、まずはオーケストラだとかロックバンドだという型を踏まえて、それから各楽器の音色や技巧に注目するだろう。

(1)-(3)についても同じように考えてみよう。まず「名詞+person」という型を先に認識して、そのあとで、「名詞」の部分の位置づけが決まる。その型に「-派、-主義の人」という意味があると考えれば、(1)-(3)をうまく分析することができるし、この型を利用すれば、「名詞」の部分を変えることでcoffee person(コーヒー好きの人、コーヒー党)やcity person(都会派の人)といった表現をどんどん作り出すこともできる。

認知言語学は、表現の型の役割を重視し、これを「構文」(あるいは「構成体」)(construction)と呼んでいる。(1)-(3)は複合語の例であったが、構文という考えはもっと大きな単位についても当てはまる。構文については、また次回改めて紹介したい。


最近は認知言語学に関する入門書は数多くありますが、その先駆的な本として河上誓作編著『認知言語学の基礎』が挙げられます。1996年に出版されたので、当然21世紀の認知言語学の発展については書かれていませんが、それまでの認知言語学の主要な研究についてはわかりやすく紹介されています。もとの本や論文から例文・図をそのまま引用していることが多いので、80年代、90年代の文献を読むときのガイドとしては今でも便利だと思います。
認知言語学の基礎 -
認知言語学の基礎
河上誓作
研究社


本書の第1章はゲシュタルトの説明から始まります。他の入門書に比べると、比較的ゲシュタルトについて割いているページが多い印象。なお、例文(1)-(3)は3ページに登場します。

関連記事:
認知言語学キーワード紹介(1):捉え方
認知言語学キーワード紹介(2):カテゴリーとプロトタイプ
認知言語学キーワード紹介(3):メタファーと経験基盤主義
posted by ダイスケ at 04:13| Comment(0) | 言語学の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする