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2012年03月29日

フレームとエピソード記憶にもとづいた語彙指導:語彙マップのすすめ

高校生に英語の勉強で困っていることをきいてみると、多かった回答は「単語が覚えられない(すぐ忘れる)」だった。英語学習において語彙を増やすことは大切で、単語集・熟語集や単語テストは広く用いられており、一定の成果を上げていると思われる。ただ、それらの弱点は表現がバラバラに配列してあるので(起きる→get up、洗濯する→do the laundryなど)、互いに関連した意味をもっている語彙に触れることができないことにある。

しかし、日本語を考えてみても、ことばをただバラバラに覚えているわけではないことは明らかである。たとえば、「選挙」「立候補」「投票」「当選」などのことばのうちどれかを聞けば、別のものが連想できるのではないだろうか(逆に、それらが連想できないようであれば、その語を本当に理解しているといえるだろうか)。このように、語彙に関する知識はある種の構造をもっており、それは「フレーム」と呼ばれている。

では、この構造を理解するにはどうすればよいだろうか。ここで提案したいのは一問一答形式のテストではなく、ある程度の長さをもった文章を利用することである。文章であればある特定のテーマに関する語彙がまとまって登場するので、それらの結びつきを確認することができる。たとえば、高校の英語教科書Unicorn English Course II(文英堂、2006年)のLesson6に出てくる表現を「連邦議会」「投票」「選挙」「選挙権」「戦争」という観点からまとめてみると以下の図のようになる。これを「語彙マップ」と名づけることにする。このように視覚化して語彙の構造を意識して覚えると、関係のないものをバラバラに覚えるより定着しやすく、また実際に似たような文章を読む機会にその知識を生かしやすくなると思われる。

Unicorn_II_Lesson_6.jpg
語彙マップの例
(教科書に登場する表現を整理すれば、普段とは別の形で提示できる。なお、単語、熟語などの区別はしていない)


だが、おそらく次のような疑問をもつ人もいるだろう。「単語すら覚えるのに苦労しているのに、ましてや文章だなんて、余計に学習が大変なのではないか」と。たしかに、基本的な文法を理解している必要があったり、文章自体の難易度に学習が左右されるという面はあるが、文章を用いることは単語集や単語テストでは得られない効果がある。それを説明するために、「意味記憶」と「エピソード記憶」という2種類の記憶を紹介しよう。

意味記憶とは、いわゆる知識のことで「象は鼻が長い」などがそれに当たる。それに対してエピソード記憶とは自分の過去の経験を表し、「昨日行った動物園にいた動物は、鼻が長かったな」などの個人の経験をもとにした記憶が例になる。エピソード記憶は意味記憶よりも、忘れにくく思い出しやすいことが知られている。

さきほどの単語集が意味記憶を利用するのに対して、内容をもった文章を利用するというのは、エピソード記憶を利用することになる。「アメリカの連邦議会Congressが投票をしたvote結果、戦争を開始するstart a warことを決めた」などの話は、「Congressの意味は?」という質問とその答えという形式より頭に残りやすいはずだ。

また、文章内容だけでなく、学習法それ自体もエピソードとすることができる。たとえば、次のようなやり方が考えられる。まず教科書本文を読み、そのあとで語彙マップを提示する。そのとき、語彙マップの一部は穴埋め問題として、選択肢の中から選ぶなどとする。すると、語彙マップを作成すること自体がひとつのエピソード記憶となり、より思い出しやすくなるだろう。このように、フレームとエピソード記憶を利用した学習法は、「単語を覚えられない(すぐ忘れる)」ことに対する解決法となることが期待される。

このような学習法を考えたきっかけは、学校の英語の授業において次のような状況があると思われたことである。

(1)文法について手厚く教わることはあっても、語彙についてはあまり指導されない
単語集に基づくテストも有効な学習手段であると思うが、やり方によっては普段の教科書を用いた授業とは切り離された単語のためだけの勉強を生み出すことになる。

(2)英語の教科書が十分に活用されていない
せっかく英語の教科書があるのに、本文の新出表現の確認と文法的説明以外の解説がなされることが少ない。また、習ったLessonを振り返る機会がなく、習ったはずの知識が定着していない

こうした状況の検討から、教科書と有機的に結びついた語彙指導が必要だと感じた。それと同時に、教科書を単に与えられた教材はとしてではなく、教師が意識的に使いこなすものとして捉え、いろんな利用法を考えてみたかったこともきっかけのひとつ。

今回は以前「英語を文章単位で学ぶ意義」として投稿した記事を、「フレーム」と「エピソード記憶」という認知言語学と認知心理学の用語を援用して改訂したものである。語彙マップの発想自体は珍しくないと思うが、教科書をベースとした応用はあまりなされていないかもしれないと思い、改めて載せてみることにした。今後も語彙の指導法について考えていくことができればと思う。
ラベル:英語教育
posted by ダイスケ at 04:34| Comment(0) | 学習・教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする