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2010年04月09日

The Process of Communication Accommodation

今回は、Communication Accommodation Theory(以下、CAT)について扱っている文献を紹介する。

Giles, Howard. 2009. "The Process of Communication Accommodation." In Nikolas Coupland and Adam Jaworski (eds.), The New Sociolinguistics Reader. 276-286. Palgrave Macmillan. (chapter 19)

著者のGiles氏は、場面に応じて自分の話し方が異なることに気づいた。
それはことばづかいに一貫性がなく、恥ずべきことなのだろうか。
そうではなく、人々は戦略的に、効果的に話し方を変えているのではないだろうかと考え、彼はCATの着想を得た。
Giles氏がもともと社会心理学を専門とすることもあり、CATは言語だけでなく、声の調子、非言語などを含む学際的研究として注目を集めている。

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But we now know that this claim of sociolinguistic consistency is simply false, and that we all are, to varying degrees, sociolinguistic chameleons, but strategically and often usefully so. (p. 277)

私たちはどんな場面でも一貫した話し方をしているというわけではなく、相手や状況によって戦略的に、自分にとって有益になるように話し方を変えている。会話の参加者が、お互いのコミュニケーション上の差異をなくそうとしたり、逆に広げたりしようと調節する過程をアコモデーション(accommodation)という。まったく別の言語にスイッチする場合から、同一言語の文体の変更、語彙の選択までさまざまなレベルで観察される。

アコモデーションには、自分を受け入れてもらいやすくするために聞き手の話し方に合わせる収束(convergence)と、自分の聞き手とのちがいを強調し聞き手と距離をとる拡散(divergence)がある。CATの課題は、人々がなぜ、そしてどのように収束したり拡散したりするのかを解明することにある。

収束することでコミュニケーション上の類似性を高めると、たとえお互いのことをよく知らない初対面の相手でも、相手の反応も見越すことができる。会話における不安が軽減され、満足感が増す。また、収束は相手に自分のことをわかってもらう上でも有効である。たとえば、医者が患者に専門用語を使わず一般的なことばで説明することで、患者の理解は深まりすすめられた治療法に従うようになる。さらに、患者の感情面にも効果がある。

収束する上で重要なことは、話し手は、聞き手が望んでいると話し手が想定した会話のスタイルに合わせるのであり、主観的には収束のつもりでも客観的には拡散をしてしまう場合があることだ。高齢者へ話しかけるとき、ありがちな高齢者のイメージに基づいてゆっくりと簡単なことばで話しかけたとする。相手への好意のつもりであったとしても、活動的で認知的にも衰えのない人にとっては、恩着せがましく屈辱的だと受け取られるかもしれない。相手に合わせようとしすぎるとかえって失敗してしまうこともあるのだ。

相手との差異を広げる拡散は、相手にとって否定的な印象を与えることになるが、自身の社会的アイデンティティを維持したり強調するという積極的な意味合いがある。少数民族の言語復興運動(多数派の言語からの拡散)や、若者ことばの創造(大人のことばからの拡散)など、拡散も幅広く行われ、言語とコミュニケーションのあり方を変えうる力ももっている。

結局のところ、満足のいくコミュニケーションには、収束(コミュニケーションをする意志を示すこと)と、拡散(自分の属する集団のアイデンティティを健全に示すこと)の絶妙なバランスにかかっているようだ。この理論はまだ言語と談話の詳細を十分に明らかにしているとはいえないが(それは言語研究とは異なる分野で生まれたことにもよる)、社会言語学にかかわる現象、過程やコンテクストを解明する可能性はすでに認められ、今後はさらに利用されていくはずである。

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自分と同等の立場の初対面の人が「です」「ます」口調をやめてタメ口で話してきたとしたら、それに応じる(収束する)だろうか、応じないだろうか。
携帯電話のメールにおける文体と絵文字は、相手によって使い分けているだろうか。
収束・拡散を視野に入れて振り返ってみるのも、おもしろそうだ。

参考文献
東照二. 1997. 『社会言語学入門: 生きた言葉のおもしろさにせまる』 研究社.(4.2節)
橋内武. 1999. 『ディスコース: 談話の織りなす世界』 くろしお出版.(第14章)
posted by ダイスケ at 00:37| Comment(0) | 言語学の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする