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■大学芋はなんで「大学芋」という名前?「大学」+「芋」=「大学芋」と単純にはいえない。そう考えると、ことばには不思議がいっぱい。「大学芋」をきっかけにことばについて考えるブログです!
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2010年04月02日

「紙を印刷する」ことはできるか? ― 結果目的語の話3

結果目的語の話も今回で完結。
目的語いろいろ ― 結果目的語の話1
「お湯を沸かす」から「水を沸かす」へ ― 結果目的語の話2

「お湯を沸かす」という行為の〈結果〉を目的語に取る(結果目的語を取る)動詞が、新たに「水を沸かす」という行為の〈対象〉を目的語にとるようになった。
同じことが他の動詞にも当てはまるのではないだろうか?
今回注目するのは「印刷する」である。

「印刷する」と聞いてすぐに思いつくのは、「新聞を印刷する」「年賀状を印刷する」のようなに結果目的語を取る用法である。
印刷する際、働きかける対象は何かといえば「紙」だろう。
そこで、考えられるのが「紙を印刷する」という言い回しだが、多くの人はどことなく不自然という印象を受けるか、あるいは誤用だと考えるかもしれない。

たしかに、「紙を印刷する」というのはあまり一般的な用法ではないと考えられる。
しかし、次のような例は違和感なく受け入れられるのではないだろうか。(下線は筆者)

(1)
a. 用紙を変更後に印刷すると、余分な紙を印刷する

b. そして、紙は通常のコピー用紙なら何でもかまいません。これまでと全く同じ感覚で自動読取可能な紙を印刷することができます。

c. 小さい紙を印刷するときはどうすればいいですか

d. オフィスの紙を減らすだけならば、より簡単な方法もある。紙を印刷する際には必ず両面印刷する。これならオフィスで必要な紙の量を大幅に削減できる。
MSN「MSNデジタルライフ ― 無駄なファイルを減らしてオフィスのエコを実現せよ」

これらを見ると、「紙を印刷する」という言い方がおかしとは、必ずしもいえなくなる。
(1)の容認性を高めているのは、「水を沸かす」のときと同じく「紙」に対する修飾語句があることや((1a-c))、すでに「紙」が話題に挙がっているという文脈((1d))だと思われる。
どちらの場合も、印刷することによって何が作り出されるかは関心になく、紙そのものに働きかけるという側面が全面に押し出されていることがわかる。

このように、私たちは自らの捉え方に応じて、ことばを使い分ける。
結果に着目した動詞と思われているものでも、行為の対象を目的語にとりうるのだ。

文法の話というと、あることばづかいが正しい、間違っているという話になりがちだが、「『紙を印刷する』も使うのだから、辞書に載せろ」とか、「いや、これは単なる誤用だから、すぐにやめるべき」といった二元論で片づけてしまっては、もったいないような気がする。

どんなときにそのような言い方が可能なのか(より受け入れやすくなるのか)、それはなぜなのかを追求していくことで、ことばのいろいろな側面がわかってくるはずである。

単純な正誤で片づけられないのは、もやもやして落ち着かないという人もいるかもしれないが、そのもやもやにこそおもしろさがあるのだと思う。

参考文献
足立公平. 2004. 「ヲ格と道具目的語」 山梨正明ほか(編). 『認知言語学論考No.3』 ひつじ書房.
池上嘉彦. 1995. 『〈英文法〉を考える』 ちくま学芸文庫.
北原保雄(編). 2002. 『明鏡国語辞典』 大修館書店.
国広哲弥. 2006. 『日本語の多義動詞』 大修館書店.
栗栖佳美. 2006. 「結果の目的語を取る動詞についての通時的考察: 『ワカス』『ニル』『ホル』を例として」 『広島女学院大学国語国文学誌』36: 33-52.
Jespersen, Otto. 1992. The Philosophy of Grammar. University of Chicago Press.
posted by ダイスケ at 00:52| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする