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2010年01月30日

発音からみることばのおもしろさ2 ― 否定のin-のバリエーション

前回の記事では、子音の発音の仕組みを紹介した。
発音からみることばのおもしろさ ― 「がっきゅうぶんこ」となぜ言えない?

ただ、子音の発音方法がわかったところで「だから何?」と思ってしまう人も多いだろう。今回は、発音の知識を使って、どんな分析ができるかを紹介しよう。

1. 接頭辞のin-
「必要」ということばに否定を表す「不-」をつけると「不必要」ということばができる。「不-」のように頭につける要素を接頭辞という。英語にも同じように、否定の接頭辞in-がある。

(1)
a. accurate → inaccurate (正確な → 不正確な)
b. sufficient → insufficient (十分な → 不十分な)
c. dependent → independent (依存している → 依存しない、独立した)

しかし、場合によってはin-がim-になることがある。

(2)
a. mature → immature (熟した → 熟していない)
b. balance → imbalance (均衡 → 不均衡)
c. possible → impossible (可能な → 不可能な)

一見すると、ランダムにin-がim-に変わっているように見えるかもしれないが、そうではない。今回は、in-がどのようなときに、なぜim-に変わるかを音声学の知識を使って説明してみよう。

2. 子音の復習

前回の復習をすると、子音の分類で重要なのは、(i)口の中のどこを使うかと(ii)どのように空気が流れるかだった。

バ行の[b]とマ行の[m]は、(i)は同じでともに上下の唇を使う(口を閉じて発音する)音なので両唇音という。ちがうのは(ii)で、[b]の音は、閉じた唇から破裂するように空気が流れるのに対して、[m]は鼻に空気が流れる音だ。

(ii)が同じで(i)がちがうペアは、[m]と[n](ナ行に使う音)だ。どちらも鼻に空気は流れるが、[n]は口の奥のほうを使い、唇は使わない。

3. 同化現象
では、子音の知識を利用して、in-がim-になる条件を探っていくことにする。(2a)のimmatureからみてみよう。これは[m]ではじまる語だから、in-も同じ音になってしまったように思える。しかし、それでは(2b)の説明ができない。

(2a)immatureと(2b)imbalanceはもともと[m, b]からはじまる語だが、これらに共通するのは(i)口の中のどこを使うかで、両唇音というのだった。つまり、in-の[n]は、両唇音の前ではそれに引きずられて同じく両唇音の[m]に変わってしまうことがわかる

ただし、(ii)どのように空気が流れるかまでは同じにならないので、ibbalanceのようにはならない。immatureでmが2回続くのは、[n]も[m]ももともと(ii)が同じだったからだ。

このことは、(2c)impossibleについても成り立つ。[p]もやはり両唇音で、その証拠に口を開けたままではパ行が発音できない。ちなみに[b]と[p]は(i)(ii)ともに同じ音で、ちがうのはのどが震えるかどうかだ(のどは正確には声帯のこと)。

このように、ある音がその後ろ(または前)の音に合わせて発音が変わることを同化(assimilation)という。というわけで、in-がim-に変わるのは、両唇音の前で、同化が起こるからだといえる。

詳しくは説明しないが、(3)の例ではin-がir-になっているが、これも同化が原因だ。

(3)
a. rational → irrational (理性のある → 理性のない)
b. regular → irregular (規則的な → 不規則な)

4. おまけ

以上、前回の応用編でした。最後におまけとして、ローマ字で「新橋」と書くとき、どのようなつづりになるか考えてみてください(東京メトロのHPで確認)。これも同化が原因。発音の仕組みがわかると、いろいろなことが説明できるのでとても楽しい。

参考文献
中島平三. 1995. 『ファンダメンタル英語学』 ひつじ書房.

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発音からみることばのおもしろさ ― 「がっきゅうぶんこ」となぜ言えない?
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posted by ダイスケ at 03:30| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月16日

発音からみることばのおもしろさ ― 「がっきゅうぶんこ」となぜ言えない?

言語学にもいろいろな分野があるが、発音を扱うものを音声学(phonetics)という。
音声学についてはずっと苦手意識があったのだが、最近勉強し直したおかげでちょっとずつわかるようになってきた。
今回は、人はどのように音声を出すのかという話をしてみたい。
(音声学でなによりも大事なのは音を実感することなので、実際に発音してみてください)

小学校のころの遊びで、口に指を入れて横に広げた状態で「がっきゅうぶんこ(学級文庫)」と言おうとすると、「がっきゅううんこ」になってしまうというのがあったと思う。
大切なのは、指を入れることではなく口を開けた状態で発音することなのだが、なぜ口を開けたままでは「がっきゅうぶんこ」と言えなくなってしまうのだろうか。

実は、バ行に使う[b]の音は、唇を合わせることで閉鎖をつくり、それを空気が突き破ることで出る音なのだ(これを破裂という)。
だから、口を開けていては[b]が発音できず、「がっきゅううんこ」になってしまう。
逆に言うと、「がっきゅうぶんこ」の[b]以外の音は唇を使わずに発音できるということになる。

人間はいろんな音声を出せるが、発音の中でも特に子音を取り上げる場合、音によって口の中の「どこ」を使うかがちがう。
[b]のように上下の唇を使って出す音を両唇音という。

[b]の他には、マ行の[m]の音も両唇音である。
口を開けたままでは「まみむめも」と言えないことを確かめてみてほしい。

では、[b]と[m]は何がちがうかといえば、子音のもうひとつのポイントである「空気の流れ方」である。
鼻をつまんで「あたま」と発音してみよう。
「ま」のときだけ鼻が振るえているのがわかる。
これは[m]は空気が鼻のほうに流れていることを表している。

ちなみに、風邪をひいて鼻がつまっているときは、うまく鼻に空気を流せない。
鼻声というのは、音声学的には「鼻をうまく利用できていない声」ということになる(上野善道「音の構造」より)。

まとめると、
[b]は上下の唇を使い、破裂によって空気を出すので両唇破裂音という。
[m]も上下の唇を使うが、鼻に空気を流すので両唇鼻音という。

せっかく発音についての知識がついたのだから、実際にどんな分析ができるのか知りたくなるところ。
次の記事では、今回の知識をimpossibleという語に応用してみよう。

参考文献
上野善道. 2004. 「音の構造」 風間喜代三他 『言語学』(第2版) 東京大学出版会.
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ラベル:日本語 発音
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