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■大学芋はなんで「大学芋」という名前?「大学」+「芋」=「大学芋」と単純にはいえない。そう考えると、ことばには不思議がいっぱい。「大学芋」をきっかけにことばについて考えるブログです!
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2009年12月28日

明鏡国語辞典

一例を挙げれば、小項目相当の名詞や動詞についてまで、これまで記述されたことのない意味、指摘されて初めて気づくような意味、多様な用例のあり方、語法・文型にまで踏み込んだ説明を試みた。(中略)全体的に、読んで楽しい、表現と理解に役立つ、使える辞典になっているはずである。(p. iv)
北原保雄(編).2002.『明鏡国語辞典』大修館書店.


私たちは日本語を使って生活しているわけで、普段の生活では日本語に不自由はないと思う。
しかし、日本語を話せることと、日本語について知っているということはちがう。
日本語の『さがす』と英語のsearch」という記事で扱ったように、「さがす」という動詞は〈対象〉を目的語にとる(「財布をさがす」)ことも〈場所〉をとる(「家中をさがす」)こともできるが、ふつうはなかなか気づかない。

こうした語の使い方をおもしろいと思う人にとって、『明鏡国語辞典』(以下、明鏡)はうってつけである。

辞書なんてどれも同じようなことしか書いてないと思う人もいるだろうが、それはちがう。
『明鏡』の語法の詳しさはピカイチ。
もちろん先ほどの「さがす」の説明も載っている。
ほかに例を挙げると、「撃つ」もおもしろい。
『明鏡』の例文を見てみよう。

(1)
a. ピストルで標的を撃つ
b. 大砲を撃つ

(1a)は〈対象〉、(1b)は〈道具〉を目的語にとっているが、『明鏡』ならしっかりとそのことが説明されている。
〈対象〉や〈道具〉など名詞の文の中で果たす意味上の役割を意味役割というが、この情報を載せている辞書は『明鏡』ぐらいだろう。

例文の数も多いほうだと思う。
高校生のころ、英和辞典は例文が多いのに、なぜ国語辞典は例文があまりないのか不思議に思ったことがあったが、『明鏡』には十分な数の例文が収録されている。
きちんと意味を説明しようとすれば、母語であっても例文は必要不可欠だ。
(例文の数でいえば、『新明解国語辞典』もけっこうあると思う)

論文など、しっかりとした日本語を書くときは、こうした情報を確認できる『明鏡』は便利だ。
でも、便利という以上に「読んで楽しい」辞書。
まだ引いたことがない人は、本屋に行ったときに見てみてほしい。

明鏡 国語辞典

明鏡 国語辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 大修館書店
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 単行本


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2009年12月23日

書き書き卒論、書きくけこ

先週、なんとか卒論を書き上げた。
ゼミの先生に提出。
これから添削していただいて、1月に正式の提出。
先週は本当に卒論しかやっていなかった。
こういうときに限ってバイトも大変。
塾の生徒がお茶の水女子大学を受験するということで、過去問を解いていた。
そのときの問題に使われていたのがDavid Crystal(有名な言語学者)のHow Language Worksという本の一部だった。
以下、抜粋。
Full meaning does not always exist prior to writing; often the process operates in reverse. A typical comment is made by a famous dramatist: "I write to find out what I'm thinking about." Such remarks emphasize the main lesson to be learned from the study of the process of writing: it is not a merely mechanical task, a simple matter of putting speech down on paper. It is truly a creative process, an act of discovery.(pp. 127-128)

卒論を書いている自分にぴったりの内容だった。
書いているうちに考えがよりまとまっていったりするということは、実際にある。
もともと書くつもりでなかったのに、そのときの調子で書いてみた文が意外と大切な役割を果たすことになったり。
自分の生み出すことばも、人と同じように一期一会なのかもしれない。

卒論の合間に読んだ一節だったが、卒論を書いている自分を応援していてくれるような気がした。
このタイミングで出会えたのがうれしかった。

この本では、他にも「書く」という行為は何なのかなどについて書かれているようだ。
春休みにでも、ちゃんと読んでみたい。

参考文献
Crystal, D. 2007. How Language Works. Avery.
ラベル:卒論 日記
posted by ダイスケ at 02:24| Comment(0) | 日々の出来事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月13日

日本語の「さがす」と英語のsearch 2

前回の記事「日本語の『さがす』と英語のsearch」で、日本語の「さがす」は目的語としてさがす〈対象〉とさがす〈場所〉の両方とも可能だが、英語のsearchは前置詞の有無で〈対象〉と〈場所〉を区別するという話をした。
今回は、それからおもしろいと思ったことを二点取り上げよう。

まず、一点目。
英語ではsearchというひとつの動詞で(1a)のように〈対象〉と〈場所〉を両方表現できてしまうということだ。
日本語では(1b)にあるとおり、動詞をふたつ使う必要がある(ここでは「探す」と「調べる」)。

(1)
a. I searched the whole house for my wife's ring.
b. 私は妻の指輪を探して家中を調べた。
(例文はアルクの英辞朗から)


日本語と比べると、英語は動詞ひとつで済ましてしまうようなときが多いようだ。
他にもちょっとちがうが次のような例がある。

(2)
a. I smoked one cigarette..., shaking it out of the pack.
b. タバコの箱を振ってタバコを一本取り出した。
(例文は影山・由本(1997)から)


(2a)の後半部分のような表現は日本語でうまく対応する言い回しがない。
ここでもやはり日本語は動詞をふたつ使う。
そういう観点から英語と日本語を比べてみてもおもしろい。

二点目。
「さがす」という語が〈対象〉と〈場所〉を両方目的語にとることから、日本語話者は〈対象〉も〈場所〉も区別していないのではないか?と思う人もいるかもしれない。
しかし、そんなことはない。
次のような疑問文に変えると、そのちがいは顕在化する。

(3)
a. 何をさがしたの。(〈対象〉を尋ねる)
b. どこをさがしたの。(〈場所〉を尋ねる)

また、「さがす」のヴァリエーションである「捜し当てる」「探し求める」(目的語は〈対象〉のみ)や「探し回る」(目的語は〈場所〉のみ)という表現を用いると、
〈対象〉と〈場所〉は区別される。
日本語にはこうした複合動詞が多いが、その理由のひとつは目的語の選択を明確にすることなのかもしれない。

日本語の「さがす」だけ、英語のsearchだけを考えていたのでは上記のようなことは思いつきもしなかっただろう。
複数の言語を比べることで、それぞれの言語を個別に見ていたのではわからない特徴が見えてくることもある。
英和辞典を引いて例文を見たときなどに、ちょっとだけ立ち止まって考えてみることで、みなさんも日本語や英語の新たな側面に気づくことがあるかもしれません。

参考文献(例文のみ参照)
影山太郎・由本陽子.1997.『語形成と概念構造』研究社.
posted by ダイスケ at 23:46| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月12日

日本語の「さがす」と英語のsearch

日本語の「さがす」に当たる英語は?ときかれたらseachを思い浮かべる人が多いだろう。
だが、「さがす」とsearchには大きなちがいがある。

まず「さがす」の意味を考えてみよう。
日本語で「家をさがす」というと、実は二通りの意味がある。
ひとつは、引越しを考えている人が次に住む家はないかなと思っている場合。
「家」は「さがす」という行為によって見つけだす〈対象〉である。
もうひとつは、鍵をなくした人がどこにあるのかと家の中を調べている場合。
このとき「家」は「さがす」という行為を行う〈場所〉である。
つまり、「さがす」は〈対象〉と〈場所〉の両方を目的語にとることができる。
(ちなみに、言語学では〈対象〉〈場所〉などを意味役割(semantic role)と呼んでいる)

では、英語のseachはというと、〈対象〉と〈場所〉をはっきり分けて表現する。
先ほどの「家をさがす」でいえば、〈対象〉の場合はseach for the houseと前置詞forを必要とする。
一方、〈場所〉の場合、search the houseとそのまま動詞の目的語として表現する。
というわけで、「さがす」とsearchは目的語の選択でちがいがあり、両者は完全に同じというわけではない。

このことは、高校のときに『システム英単語』という参考書から知ったのだが、そのときおもしろいと思ったことは今でも鮮明に覚えている。
もっとことばについていろいろ知りたいと思ったきっかけのひとつ。

今回は『システム英単語』の説明をアレンジしただけなので、次回はこれをきっかけに考えたことを紹介する予定。

なお、「さがす」は「探す」と「捜す」の使い分けに言及しないためにあえて漢字にしなかった。
このような漢字の使い分けに関しては「『冷やす』と『冷ます』2 ― 和語と漢字」で扱っています。

参考文献
刀祢雅彦・霜康司.1998.『システム英単語』駿台文庫.
続編:日本語の「さがす」と英語のsearch 2
posted by ダイスケ at 20:06| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする