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■大学芋はなんで「大学芋」という名前?「大学」+「芋」=「大学芋」と単純にはいえない。そう考えると、ことばには不思議がいっぱい。「大学芋」をきっかけにことばについて考えるブログです!
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2009年05月18日

ルノワールは無邪気に微笑む

では心の釣り糸とは何なのか。つまり早い話は心の準備です。感性の糸とがぴんと引いたら、たとえそのときまで昼寝をしていてもがばっと鉛筆を手に摑んで起き上がれるかどうかです。(p.23)

千住博. 2006. 『ルノワールは無邪気に微笑む』 朝日新書.


千住博氏との出会いは、大学での講演会だった。
授業の一環としてその講演を聞くことになっていたので何気なくついて行ったが、講演を聞いてすぐにファンになってしまった。
すごく刺激を受け、それがきっかけでこの本も読むことにした。
本書は「芸術とはイマジネーションを伝えたいと思う心のこと」という視点から、朝日新聞の読者のさまざまな疑問に答えたもの。
千住さんの力強さが伝わってきて元気が出るのでおすすめです。

その中でも、特に印象に残ったのは、「とつぜんやって来るインスピレーション」という話。
写真家にとってシャッターチャンスに出会う瞬間も、画家にとって描きたいものがひらめく瞬間も何のまえぶれもなくやって来る。
釣りでは、釣り糸をたらしていなければ、魚はひっかからない。
同じように、心の釣り糸をたらして準備をしていなければ、画家もチャンスをつかめない。
描きたい何かを探しているかどうかが、その瞬間をつかめるかの分かれ目となるのだ。

これは研究者にとっても同じことだと思う。
有名な言語学者は、普段の会話の中からでもちゃんと魚をつかんできている。
ここでは、Pamela Downing氏と池上嘉彦氏の話を紹介しよう。

すでに以前紹介しているが、Lakoff and Johonsonは著書Metaphors We Live Byで、文脈が文の意味に影響することをDowningの例を挙げて説明している。
その例とは、"Please sit in the apple-juice seat."である。
一見奇抜なこの表現も、「朝食時に四つの席がありそのうち三つにオレンジ・ジュース、一つにアップル・ジュースが置いてあった」という状況を考えれば、apple-juice seatが何を指すかも理解できる。

池上氏は『日本語と日本語論』の中で、レストランで料理を受け取る際に"I'm a fish."という文を耳にしたときの感動を語っている。
日本語でよくある「ぼくはうなぎだ(ぼくが注文する(食べる)のはうなぎだ)」に相当する英文である。

どちらも何気ない会話の中で出てきた一言であり、ちょっと変わっているなと思っても、すぐに忘れてしまうかもしれない。
その瞬間をものにすることができたのは、やはり心の準備ができていたからにちがいない。

友達と会話する、電車の中の広告を見る、テレビのニュース番組を見る、本を読む。
その中におもしろいことばがいくらでもある。
そこからのインスピレーションを形にして人に伝える。
なんだか、ことばの研究者っていうのもひとつの芸術家のように思えてきました。

参考文献
Lakoff, G. and Johnson, M. 2003. Metaphors We Live By: With A New Afterward. The University of Chicago Press.
池上嘉彦. 2007. 『日本語と日本語論』 ちくま学芸文庫.

ルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめ (朝日新書)

ルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめ (朝日新書)

  • 作者: 千住 博
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 新書



タグ:新書
posted by ダイスケ at 00:15| Comment(2) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月17日

ドン引き

最近はGoogleから検索してこのブログにたどりつく方も増えてきました。
そのときの検索ワードは"Verbs and Times"や"Metaphors We Live By"が多いみたいです。わざわざ見てもらえると思うとうれしいです。

さて、今回の話題は「ドン引き」。
「ドン引き」は最近よく聞くことばだけど、よく考えてみるとおもしろい。
「ドン引き」(名詞)はもちろん「ドン」+「引き」。
この「引き」というのは、「引く」を連用形で名詞にしたものだから「ドン」+「引く」もいえるかというと、「ドン引く」とは普通言わない。
言ってもわかると思うが、実際に聞いたことはない。
動詞で使いたいときは「ドン引き」+「する」だろう。

では、こういうことは珍しいのかといえばむしろそういうケースのほうが多い。
(*は文法的におかしいものを指す。おかしいかどうかをどう判断するかはなかなか問題だと思うが、ここでは『明鏡国語辞典』に載っているかどうかを基準にしている)
(1)
駆け引き *駆け引く
くじ引き *くじ引く
手引き  *手引く
天引き  *天引く
取り引き *取り引く
値引き  *値引く
福引き  *福引く
万引き  *万引く

「〜引き」と「〜引く」と両方あるものは少ない。
(2)
差し引き 差し引く
間引き  間引く
割り引き 割り引く
(でも、「差し引く」以外はあまり使わない気がする。「割引きしてください」と「割り引いてください」だったら、前者を使うと思う)

逆に、「〜引く」だけのものも探してみたがほとんどなさそうだ。ひとつだけ見つけた。
(3)
*長引き  長引く

いずれにせよ、(1)〜(3)を使い分けているのかと思うと、普段何気なく使っていることばもわからないことだらけだと感じる。
そこがまたおもしろい。
こんなことばっかり考えてます(笑)。

*****

以下、おまけ。
読みたい人だけどうぞ。
せっかくなので言語学の知識を少し使ってみる。
あくまで思いつきをちょこっと書くだけなので本格的なものじゃないです。
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posted by ダイスケ at 03:32| Comment(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月04日

春休みの話

4月は1回しか更新できなかった!ちょっとさびしい。

さて、新学期が始まって1ヶ月経ったけど、まずは春休みのことについて書いておこうかと。

この春休みはささやかながら成長できたような気がします。

久々に地道に英語の単語を覚えてみたり、英語の小説読んだりして、
改めて語学の勉強っておもしろいなって思った。
英語がわかるっていうことは素直にうれしい。
塾で英語を教えてみて、なんでこういう表現や文法があるのか考えるきっかけにもなった。
塾の授業のおかげで、レポートのネタになりそうなものもいくつか思いついた。

前から読みたかったMetaphors We Live ByとVerbs and Timesはどちらもとてもおもしろかった。
有名な本・論文なので、入門書などで大まかな内容は知っていたが、本物はやはりちがう。
結論だけでなく、どのようにしてその結論にいたったかを知ることができる。
どのような具体例で、何と対照させながら説明しているのか。論の展開も参考になる。
そして、その理論をはじめてまとめた人というだけあって、冷静な筆致ながらも情熱を感じる。
そういう入門書の解説ではこぼれ落ちてしまう細部が、大事なのかもしれない。
そこから触発されて、あれはどうだ、これはどうだと考えさせるパワーがある。


大学院に行くこと自体にはあまり迷いがなかったけれど
自分の周りには言語学でも、それ以外の分野でも優秀な先輩・後輩がいるので、
そんな中自分がやっていけるのだろうかというのはあった。
(もちろん彼らがかなりの努力をしていることは、よく知っている)

でも、それだったらことばについて考えるのが好きじゃなくなるのかといえば、決してそんなことはない。
それは好きだっていうのとは関係がない。
ちょっとでもことばの研究に携わっていたい。
すぐには大したことはできなくても、とにかく今はその好きをもっと追求していきたい。
それが、語学としての英語の勉強と、言語学の古典的な本・論文を読んで気づいたことだった。
なんだか肩肘張らずに楽しんでやれそうな気がしてきた。

そんな感じで伸び伸びと過ごした春休みでした。
タグ:日記
posted by ダイスケ at 15:47| Comment(0) | 日々の出来事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする