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2009年03月13日

Metaphors We Live By 第6章

第6章、存在のメタファー。
これで本書で3種類に分けられるメタファーのすべてが出揃った。

これを読んでいかに人間が境界のないものに境界を与えているかがわかった。普段は山っていうものがあると思い込んでいるけれども、言われてみれば、どこからが山でどこからが谷かなどというのは自然に決まっているわけではなく、人間がそうだと決めているだけだ。

人間が確かだと思っているものも、全然確かなものなんかじゃないのかもしれない。

*****

6. Ontological Metaphors
Once we can identify our experiences as entities or substances, we can refer to them, categorize them group them, and quantify them―and, by this means reason about them.(p. 25)


空間の方向づけから得られる概念を理解するための基盤は豊かではあるが、限られてもいる。それに対して、物体(objects)や内容物(substances)の経験からは、さらなる基盤を得ることができる。私たちの経験を物体や内容物を通して理解することで、経験を抜き出し、それを個別の存在物(entities)やある一つの種類の内容物として扱うことができる。それらは、「存在のメタファー」(ontological metaphors)と呼ばれる。存在物や内容物と同一視してしまえば、それに言及したり、カテゴリーやグループに分けたり数量化したりでき、そして、そうすることでそれらを推論することができる。

山のように境界がはっきりしていないものでも、私たちは境界のあるものとしてカテゴリー化している。それは、山の位置を突き止めるなどの目的を満足させるためである。同様に、存在のメタファーもさまざまな目的にかなっている。私たちの使う存在のメタファーの範囲はきわめて広い。そうした目的の種類と代表例をみてみよう。

Referring
My fear of insects is driving my wife crazy.
We are working toward peace.

Quantifying
It will take a lot of practice to finish this book.
You’ve got to much hostility in you.

Identifying Aspects
The ugly side of his personality comes out under pressure.
I can’t keep up with the peace of modern life.

Identifying Causes
The pressure of his responsibilities caused his breakdown.
He did it out of anger.

Setting Goals and Motivating Actions
He went to New York to seek fame and fortune.
She saw getting married as the solution to her problems.

方向のメタファーがそうだったように、これらの表現の大部分がメタファーだとはわからない。その理由のひとつは、目的が言及や数量化などに限定されているからだ。存在のメタファーは単に存在物や内容物とみなすだけではなく、手の込んだものでもある。次に示す例はTHE MIND IS AN ENTITYがいかに手の込んだものかを示すものである。

THE MIND IS A MACHINE
My mind just isn’t operating today.
Boy, the wheels are turning now!
I’m a little rusty today.

THE MIND IS A BRITTLE OBJECT
Her ego is very fragile.
She is easily crushed.
The experience shattered him.

こうしたメタファーによって、mindがどんなものであるのかについてさまざまなモデルが得られ、心理的な経験の持つさまざまな側面に焦点を当てることができる。機械のメタファーから、mindには入―切の状態、効率の水準、作動状態などがあることがわかる。心理的な経験の中にはこれらのメタファーを介さないと思い及ばない領域もある。

He broke down. (THE MIND IS A MACHINE)
He cracked up. (THE MIND IS A BRITTLE OBJECT)

機械が故障したら(break down)、その働きが停止するだけだが、もろい物体が砕けたら(crack up)、その破片が飛散する。したがって、だれかが気が狂って暴れたらHe cracked up.と言うのが適切だし、無気力で働けなくなったらHe broke down.と言うだろう。

存在のメタファーはとても自然で私たちの思考に浸透しているので、普通は心理的な現象を直接記述したものだと受け取られる。私たちはメタファーによって得られるモデルによって思考し、活動しているのだ。

存在のメタファーのうちのひとつに、「容器のメタファー」(container metaphors)というのがある。 私たちは外界と境界を接する表面(皮膚)と内外(肉体の内と外)という方向性をもつひとつの容器なのである。これを他の物体にも投影し、容器とみなすことができる。土地の領域についていえば、森の中(in)や外に(out of)いるという表現ができる。壁であれ、生垣であれ、抽象的な線や面であれ、内側と境界面をもつような領域を区分けする。そうすると、There’s a lot of land in Kansas.のように内側に内包する内容物は数量化される。

また、視界もひとつの容器として概念化される。VISUAL FIELDS ARE CONTAINERというメタファーは、ある領域を見たとき、視力の及ぶ範囲がその領域を限定するという事実から発生する。たとえば、The ship is coming into view.やHe’s out of sight now.となる。

出来事(events)、行為(actions)、活動(activities)、状態(states)にも存在のメタファーが利用される。

Are you going to the race?
There was a lot of good running in the race.
How did Jerry get out of washing the windows?
He’s in love.
We’re out of trouble now.

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Metaphors We Live By 第4章

第4章、方向づけのメタファー。
メタファーについて勉強するようになってから、日本語の中のメタファーにも気づくようになった。この読書会をやっているときに、たまたま飲んでいたほうじ茶のペットボトルに「上質な香り」と書いてあって(うろ覚え、たしかそんな感じ)、これは「良いことは上」のメタファーだなと。いかにメタファーが日常的な表現に浸透しているかがわかる。

ただ、難しいのはこうしたメタファーがあることがわかっても、実際に使われる語彙のすべてがわかるわけではないことだ。たとえば、英語と同様、日本語にも「嬉しいことは上、悲しいことは下」というメタファーがある。たとえば、「気分は上々」という表現。しかし、「気分は下々」とは言わない。「彼は落ち込んでいる」と「彼は落ち着いている」は同じ「落ちる」ということばを使いつつも、その意味するところはだいぶちがう。

どんなことばが使われ、どんなことばが使われないか。
なぜある表現は慣用的で、ある表現は慣用的でないか。
不思議だけど、おもしろい。

*****

4. Orientational Metaphors
We will call these orientational metaphors, since most of them have to do with spatial orientation.(p. 14)
They have a basis in our physical and cultural experience. (p. 14)


これまで扱ってきたのは、「構造のメタファー」(structural metaphors)、つまりある概念が他の概念が他の概念を通すことで、メタファーによって構造を与えられる場合である。しかし、メタファーには別の種類のものがある。ある概念の全体系を他の概念との関係によって構成するものである。それは「方向づけのメタファー」(orientational metaphors)とよばれる。というのは、こうしたメタファーの多くは、上―下、内―外、前―後、着―離、深―浅、中心―周辺といった空間の方向性に関係があるからだ。方向付けのメタファーは、ある概念に空間的方向性を与える。

メタファーに使われる方向性は恣意的なものではない。肉体的経験と文化的経験に基づいている。上―下、内―外は物理的性質のものだが、それらに基づく方向のメタファーは文化によって異なりうる。

実際に上―下のメタファーを見てみよう。そのメタファーが生まれる基盤についても言及してみる(あくまで示唆するにとどまるもので、決定的な説明だとは考えていない)。

HAPPY IS UP; SAD IS DOWN
I’m feeling up. My sprit rose. That boosted my spirits. I’m feeling down. I’m depressed. My spirit sank.
肉体的基盤:悲しいときはうなだれた姿勢であり、元気なときはまっすぐした姿勢である。

HEALTH AND LIFE ARE UP; SICKNESS AND DEATH ARE DOWN
He’s peak of health. He’s in top shape. He fell ill. He came down with the flu.
肉体的基盤:重い病気であれば人は横たわり、死ねば倒れた状態になる。

HAVING CONTROL OR FORCE IS UP; BEING SUBJECT TO CONTROL OR FORCE IS DOWN
I have control over her. His power rose. He is under my control. His power is on the decline.
肉体的基盤:体が大きいと体力もある。戦いの勝者は上に立つ。

MORE IS UP; LESS IS DOWN
The number of books printed each year keeps going up. My income rose last year. The number of errors he made is incredibly low. His income fell last year.
肉体的基盤:容器の中や山積みのものに、物質や物体を加えると高さが上がる。

RATIONAL IS UP; EMOTIONAL IS DOWN
The discussion fell to the emotional level, but I raised it back up to the rational plane. We put our feelings aside and had a high-level intellectual discussion of the matter.
物理的文化的基盤:人間は他の動植物を支配している。人間がすぐれているからであり、理性的にものを考えることができるからだ。そこで、CONTROL IS UPがMAN IS UPの基盤になり、さらにそれがRATIONAL IS UPの基盤となっている。

以上のことから、次のことを結論として提案したい。

・私たちの基本概念は、一つあるいはそれ以上の空間関係づけのメタファー(spatialization metaphor)によって構成されている。

・空間関係づけメタファーには内的な体系性がある。HAPPY IS UPは孤立した無関係の例集まりではなく一貫した体系を示している。

・空間関係づけメタファーには、メタファー間の外的な体系性もあり、それがメタファー間に一貫性(coherence)を与えている。GOOD IS UP、HAPPY IS UP、HEALTH IS UPとALIVE IS UPの関係、STATUS IS UPとCONTROL IS UPの関係は一貫している。

・メタファーの肉体的・社会的基盤となりうるものは多くある。なぜあるものが選ばれ、他のものが選ばれないか、その理由の一部は全体の体系の一貫性にようようだ。たとえば、happy is wide(例としてI am feeling expansive.〈大らかな気持ち〉がある)よりもhappy is upが主要なメタファーであるのは、good is upやhealthy is upとの一貫性によるのだろう。

・肉体的・文化的な経験は空間関係づけのメタファーの基盤となるが、どの基盤が選ばれ、主要なものとなるかは、文化によって異なる。

メタファーの基盤となる経験については、まだよくわかっていない。ただ、どんなメタファーも、その経験上の基盤から切り離せば、理解できず十分に表現されることはない。異なった経験に基づいているため、一致しないメタファーもある。UNKNOWN IS UP(例はThat’s up in the air.〈未決定〉やThe matter is settled.〈落着〉)はUNDERSTANDING IS GRASPINGと経験の基盤は似ている。しかし、GOOD IS UPやFINISHED IS UPとは一貫していない。それは経験の基盤が異なるからである。

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